独想5
"
赤から桃色の綺麗な花を咲かせる、花屋なんかで売られている植物のこと。
僕自身もついさっき花屋の横を通って鮮明な赤い鳳仙花を見かけた。どうしていきなりこんなことを思ったかというと、それは鳳仙花の花言葉にある。
鳳仙花の花言葉は、"私に触れないで"。
まるで最近の僕の心境でも表しているかのような言葉。
…訂正、心の一部。もう半分は"私に触れて"とか"私を愛して"とかそんな感じ。
―――ぷしゅー
電車に揺られながら思うのは、当然僕自身のこと。
これからどうするべきか。いい年して青春っぽい悩みを持ってしまったが、それは仕方ない。こんなにも心を揺さぶられたのは、それこそ十年前とかそれくらい昔のことなのだから。
僕の"恩人"であり"良い人"であり、"大切な友人"である咲澄日結花ちゃん。冷静に考えて友達にちゃん付けするというのはあまりよろしくないが、呼び捨てはさすがに年齢的にも精神的にも辛いので無理だ。
「……」
最近、彼女からのアプローチがすごい。…いや、前からすごかったけど。
笑顔が眩しい、可愛い。声が、表情が、動きが、存在そのものが僕を魅了してやまない。
あの子は声者であって別に
とにかく、彼女の攻勢がすごい。あーんやら手作りやら恋人っぽい話はいいんだ。恋人(仮)ならぬ日結花ちゃんの良い人になったから、それは付き合って当然。ただ…距離が近い。本当に距離が近い。なんの躊躇もなく手と手が触れ合う距離に入ってくるからもう…色々といっぱいいっぱいなんだよ。
「…ふぅ」
一つ小さく息を吐いた。
心が幸せで満たされて、正直言うとこれ以上何もいらないくらいに満ち足りている。僕個人としては、これ以上彼女に何か求めることはないけれど、彼女が僕に求めるのなら…恋人になるのもやぶさかではなかったりする。というかなりたい。むしろこちらから頭を下げて告白したい気持ちがある。
でも…そう簡単に上手くいくものでもないのは確か。
一つは僕がまだ怖がっていること。
関係が変わって、日結花ちゃんに嫌われることが怖くて怖くてたまらない。彼女から離れるのが怖すぎる。…完全に依存に入っているけど、もう諦めた。離れたら離れたで、思い出を胸に生きていけるくらいには立ち直れたからね…本当にありがとう。日結花ちゃんにはいくらお礼を言っても足りないよ。
それでも、怖いものは怖いんだ…。
二つ目は、彼女が若いこと。
まだまだ人生経験…は僕より濃いかもしれないけど、恋は一時の迷いなのかもしれない。僕より素敵な人なんていくらでもいるんだから、時間を置いて冷静になってほしいとは思う。…今の感じだとかなり難しいかもしれないが…。あと年齢的に…いや、もうセーフなんだった。びっくり、一年ってほんと早いね…。
三つ目は、日結花ちゃんが本当に僕が好きかどうか判断がつかないところ。
あの子の好きは、ラブかライクか…。これも難しいなぁ。前に話したときは、もう結論出したみたいだったし…あの感じだと完全にラブな…。
―――♪
「っと」
降りないと。あぶないあぶない。
…それにしても、僕ってほんと日結花ちゃんのこと大好きなんだよね。本人にはあれだけ「ラブじゃないよライクだよ。友愛だよ親愛だよ、恋情かどうかはまだわかんないよ」とかなんとかごまかしておいて、実際は好きで好きでどうしようもないくらいに心の底から大好きなんだから…。
もちろん、友愛や親愛だってあるさ。そういうのも全部ひっくるめて愛してるんだよ。
それほど好きな子から近づかれたら、一瞬で落ちても仕方ないと思う。これまで何回手を繋ごうと思ったことか…。できることなら、これ以上心が揺れるようなことはしないでほしい。会話や遊びに行くことは全然大丈夫なので、方向性を恋に向けるのはあんまりやらないでもらいたい…。
「……はぁ」
僕は、あの子に…日結花ちゃんに、いつまで普通の友人らしく振る舞えるのだろうか…。
―――。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます