72. 余談(第二回攻略会議)
"恋に必要なのは勇気""踏み出す勇気さえあればなんとかなる"。
こんな言葉がある。…というよりも、あたしが知宵ママに言われたことなんだけど。
『…それで?早く結論を言いなさい。私は明日も仕事なのよ』
「…一応、デートとしてはいつも通り。ただ、あたしを頼ってもらう
『…はぁ、相変わらず彼は面倒な人ね』
「…ふふ、そんなところも好きなのよねー」
『
『…あ、あのぉ』
「『なに?』」
『い、いえ!なんでもありません!!』
時間は夜の9時。夫(になる予定の人)とのデートも終わり、帰って反省会を行っている。参加者はあたし、知宵、胡桃の三人。回数でいえば、この攻略会議は第二回。初回は三人で集まって行い、今回はビジョンを使った電話会議となる。
「どうして敬語なの?適当に喋っていいわよ。あたしと知宵しかいないんだし」
『だ、だって…』
ちらちら見るのはあたしから見て右側の映像。つまり知宵。
『…なにかしら?私は早く寝たいのだけれど』
『うぅ…ひ、日結花ちゃぁん…』
「…めんどくさいわね。知宵になんか遠慮してちゃだめよ。どうせ今日だってお昼寝でもしてたんだから、早く寝かせなくたって全然平気よ」
『なっ…どうしてあなたがそれを知っているのっ?』
だるそうにベッドで寝転んだままにらみつけてきた。可愛らしいパジャマだから全然怖くない。むしろ可愛い。
「なんとなく?で、何時間お昼寝したの?」
『…7時間よ』
『ええー…』
「…まあ、うん。そうよね」
胡桃が呆れ声をもらすのも仕方ない。
7時間って…多くても3時間くらいかと思ったのに、そこまでいったら普通に睡眠じゃないの。
『なに?文句でもあるというの?』
「ううん。別に?そんなんだから出会いの一つもないんだなーとか思ってないから」
『うぐ…あ、あなたこそ何度もデートしておいて手の一つも繋げていないじゃない』
「ぐ…べ、べつにあたしはあーんとかしたし?相手がいないわけじゃないもの」
『う、うーん…どっちもどっちだと思うんだけど…』
文句を言い合うあたしと知宵に苦笑いで言葉をかけてくる。地味にグサッとくる言葉。
「…胡桃、元はといえばあんたが知宵に物申したかったんでしょ?」
『えっ!?そ、そんなことない…よ?』
ちらりと知宵に視線が向かう。
『…はぁ…胡桃さん。私は別になんとも思わないから敬語も遠慮も不要よ。日結花と同じように接してくれて構わないわ』
『は、はい…ええと、知宵さんっ』
『ええ、用件は?』
『え、よ、用件はないよ?』
意味不明なやりとりを経て、ため息をつく知宵。
『…はぁぁ、日結花。あなたの周りには面倒な人しか集まらないのね』
『え!私何か変なこと言いました!?』
「心外ね。胡桃はともかくあたしの郁弥さんは素敵にラブリーな良い人よ」
『わ、私は?ねえ日結花ちゃん。私は?』
『…あの人もあの人で大概だと思うけれど。あなたの現状が物語っているじゃない』
わかってないわね。素敵にラブリーでちょっとだけ面倒なところがいいのよ。郁弥さんのだめなところなくしちゃったら…すぐ他の人に取られそうなんだけど、やめて。
「…ううん。いいのよ。郁弥さんは今のままがいいの」
『そう…それで、私のアドバイスは効いたのかしら?』
アドバイス…アドバイスか。
どうだったかな。知宵のアドバイスって手を繋げとかそんなのばっかだったわよね…。
「…全然。ボディータッチとか全然できなかった」
『どうして?』
どうしてって…あたしの踏み出す勇気がなかったから…。
「やろうとは思ったのよ?でも…いざ手を掴もうと思ったら上手くできなくて、手が動かなくなっちゃって…」
『そう……仕方ないわ。時期尚早だったのかもしれないわね。私も別の方法を考えてみるわ』
「うん。ありがと」
それだけ話して向こうはぽすりとベッドに沈んだ。
『…日結花ちゃん日結花ちゃん。私のアドバイスは?』
「胡桃のは…」
笑顔をたくさん見せる、だったわね。
「それなり?」
『また微妙な感想だね…』
「ええ。なんていうか…笑顔を見せるのはよかったのよ。ただ…いつもとあんまり変わらなくて、郁弥さんの方も慣れちゃったのかも」
デートも数えれば既に6回目。これだけ重ねていればあたしの笑顔にも慣れて、緊張なんてものがなくなるのも当然。1年前の彼とは大違い。
『あれ、ハグはどうだったの?』
「…それ、知宵と同じだから。無理無理。できないわよ」
『えー…ハグくくらいできそうだけどなぁ』
『ふむ、それは私も同感よ。手を繋ぐよりはハードルが低いわね』
『そうですよねー!えへへ』
ぽわぽわ笑う胡桃と真顔で頷く知宵。ずいぶんと好き勝手言ってくれる。
ハグが簡単とか…どこが簡単なのよ。
「あんたたち……はぁ、いいわ。三人でどうするか考えるわよ」
『え、だからハグすればいいんじゃ…』
『手を繋げばいいでしょう?』
「…っもう!」
それができないから困ってるんでしょうが!!
「もっと簡単にできることを考えるの!親友でしょ!一緒に考えて!」
『…ふふ』
『…えへ』
二人して顔を見合わせて笑みをこぼした。
あたし、なにか変なこと言ったかしら…。
『ふふ、胡桃さん。もう少し考えましょう?』
『えへへぇ、はいっ!私も色々考えますね!』
「んぅ…と、とにかくお願いね?」
『任せなさい』
『任せてっ』
別にやる気にさせるようなこと言った記憶ないんだけど…まあ、二人ともやる気満々みたいだし…うん、いいかな。
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