独白3
自分の人生を振り返れば、あまり良い物が見えてこない。辛いこと、嫌なこと、疲れたこと、苦しいこと。
"七難八苦"という言葉を以前聞いた。それほどまでに散々な苦労ではないけれど、弱い僕には厳しいものだった。"弱い弱い"と自分に言い聞かせることで耐えようとするのも度し難い。
人との繋がりが欲しくて、まだ彼女が僕の手を掴んだまま離さないでいてくれるのが嬉しくて、幸せで…それでいて恐ろしい。共にいる距離が近ければ近いほど、共にいる時間が長ければ長いほど、喜びのぶんだけ離れるときの恐怖が大きくなる。
"馬鹿なやつだな"。とは誰だったか。誰かから言われたことがある。僕の友人だったか。
記憶は朧気で、自分が傷つくことを恐れて思い出さずにいたらこうなってしまった。大事だった記憶、大切だった記憶も多くが薄れて、それに気づいたときは愕然とした。自分で忘れておいて返せとは…僕は阿呆だな、本当に。
誰に言われたのだったか…今となっては思い出すこともできない。僕の友人の一人だったはずなのに…彼か彼女か。その友人が僕を見たらなんと言うだろう。"愚か者"とでも言われそうな気がする。こんな"僕"でも懐かしいと思えることがまだあると思うと、少し救われた。
本当の"僕"を知ったら彼女はなんと言うだろうか…彼女との付き合いも長くなってきたから…そうだ、きっと彼女は僕を知ろうとする。
これでも人の考えは読める方なんだ…彼女が何を考えているかくらいはわかるさ。彼女のことだから、僕が心配なのだろう。僕を助けたいと、僕を救いたいと、そう思ってくれているのだろう。けれど、それは"僕"を知らないからこそ言えるだけであって…僕のことを、僕の心を、僕のずる賢い、自分勝手で醜悪な"僕"自身を知ったらきっと離れていく。これほどまでに自分を愛する僕でさえ自己嫌悪に苛まされているんだ。当然さ。
だから話せないと?…あぁ、そうだね。だから話せない。話したいと思っても話すことができない。それが自己愛の塊である"僕"だ。
知られるわけには…いや。ただ知られたくないだけか。僕は既に彼女の毒に染まってしまっているらしい。……笑えるね。毒と言いつつ、結局は僕が居心地の良い場所にいたいだけじゃないか…ひどく滑稽で見るに堪えない。
…あぁ、思い出した。僕の友人に言われた言葉は"馬鹿なやつだな"ではなく、"愚か者だな、馬鹿者め"だった。はは、既に言われていたんじゃないか。"愚か者"。正しい。彼か彼女かわからないけれど、それは正しい判断だったよ。ははは。
………あぁ、誰か助けてくれ。
―――。
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