第1章 出会いと想い

独白1

ふ、と思うことがある。


"どうして生きているのだろう"。


きっかけも何もないけれど、自分が目を逸らしていたことに気付いてしまった、というのがきっかけといえばそうなのかもしれない。忙しく忙しく…逃げるように生きて早10年近く。勉学に励み、仕事に追われ、ようやく落ち着いた…落ち着いてしまった。

落ち着いて…そうして自分を見れば独りだった。友人がいないわけでもない。話し相手もいる。ただ…心にぽっかり空いた穴は埋まらず、あの頃のまま。いくら年を重ねても僕は変わっていないらしい。救いようがないな。


"人は一人では生きていけない"。


どこだったか…テレビだったか。ラジオだったか。誰かから聞いた覚えがある。確かにその通りだと思う。一人で大丈夫だと、昔の僕は言っていた。あの頃はまだ自分のことを何もわかっていなかったからそんなことが言えたのだろう。自分自身がこんなにも小さく、こんなにも弱い生き物だとは知らなかったからだ。もっと早くにそれを知っていれば……いや、どちらにしろ"僕"には無理なことか。いくら自分を知っていたとしても…自分を知っているからこそ何も変えられやしない。"僕"はそういう人間だから。


誰かに縋って、誰かを頼って、誰かと共に歩く、そんな生き方ができればどれほど…どれほどいいか。何度もその機会はあったし、それをふいにしてきたのは僕自身だけど……今になって後悔が押し寄せるなんてね。昔の僕は予想すらしていないだろう。今に必死で、過去から目を逸らすことに必死で、未来を見ることなんてしていなかったから…なんて度し難い。


…結局、僕は怖いだけだったんだ。人とかかわることが怖くて、人と歩くことが怖くて、人に怯えて人を恐れて。それでいて、なお人を求めていた。自分から求めておいて、近付かれると拒絶する。その結果が今の孤独さ。自ら招いた結果だというのにそれを怖がるだなんて笑わせる。逃げ切ることも視野に入れて、結局実行に移せないところが僕らしい。ひどく惨めで臆病だ。

自分を理解し、自分を貶め、それでも自分を捨てられない。言い訳ができていた頃はよかった。両親の言葉が言い訳になってくれていた。けれど、自分を知ってしまった今はそうもいかない。こんな生き汚い僕だとしても、その上で僕自身が僕を大事に、それこそ何より一番に大切にしようとする…。


自己愛にもほどがあるというものだろう…あぁ、本当に度し難い人間だよ。僕は。



―――。

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