独白2

"人は一人では生きていけない"。


確かにそう思う。誰かと接することがこんなにも自分を落ち着かせるなんて思ってもみなかった。ただの恩返し…いいや。当然欲はあった。僕のことを知ってほしい。覚えていてほしい。話してほしい。挙げればキリがないほどに欲望塗れだ。この欲を一切見せないところが僕の人間性の現れだろう。気持ちが悪い。自分自身のことだというのに気分が悪くなった。


…彼女は良い人だ。自覚はないだろうけれど、僕に対する振る舞いがずいぶんと優しい。自身の持つ無自覚な優しさが毒になっているとは、思いも寄らないことのはず…彼女は優しい子だから。


もともとすぐに失せるはずだったというのに…彼女の優しさに、僕への思いやりに甘えてしまった。

僕が誰かに話をできる人間だとは…自分のことを棚に上げて綺麗な部分だけを伝えたことに自身を殴りつけたくなる。家族、友達、周りの人…これほど嘘に塗れた答えもそうそうないだろう。ああいや…嘘じゃないんだ。嘘じゃない。ただ一部なだけ。この"僕"の持つ皮の部分だとしても、彼女の助けになったことは確かだし…嘘ではないんだよ。


彼女が持つ、あの優しさを、あの明るさを、あのきらめきを曇らせることだけはだめだ。だめなのに…だめだというのに、僕は離れられそうにない。自分から離れる勇気はもうない。一度きりのチャンスを逃してしまったからね。"僕"らしい欲が出てしまった。もう少しもう少しだけと…彼女の想いに照らされて手を伸ばしてしまったせいだ。だから…臆病者の僕にはできなくなってしまった。遠ざける力も気も生まれない。僕にできることは、ただ停滞することだけ。昔と変わらず、進まず、戻らず、変わらないまま。


もしも…もしも彼女から距離を取ってくれるなら、それなら離れることはできる。一人は嫌だと、孤独でいるのは嫌だと…いくら僕が叫んでも、無理やり押し込めて離れることはできるはず。"僕"はそれほどまでに弱い人間だから…どうしようもない。心からそう思う。


願わくば、彼女が僕を見捨ててくれることを。


…こんなときでも、やはり僕は自分を捨てられないらしい。ここまで考えて、それでも僕と一緒にいてほしいとはね。本当に…ひどいものだよ、"僕"という人間は。



―――。

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