第18話 桃園の誓い



  11日目 15:00 奴隷商

 

 

 孔明に借りた金で先ず固定式の貯蔵庫を買った。


 家庭用   1tタイプ  120K~

 業務用小型 10tタイプ 500K~

 業務用中型 30tタイプ 1M~

 業務用大型 50tタイプ 1.5M~

 業務用超大型100tタイプ2.5M~


 これはこちらの世界の冷蔵庫みたいなもので、魔素を消費して使う。マジックバックとは違い高価なモンスター素材を使わず、魔力伝道の良い金属に魔方陣を描いて効力を発揮する。だから効果の割に価格が安い。100tタイプで豚鬼オークが250匹収納できる勘定だ。

 2F、3F、4Fに超大型各1個ずつ、温泉エリアの中央に1個の計4個設置することにした。


 次に奴隷商に向かい戦闘奴隷を23人買った。明日から通いで来るスキル持ちの芸術家たちの数に合わせた。戦闘向きの奴隷を20人と内政向きを3人。こちらの管理まで馬謖くんにお願いすると、馬謖くんが発狂してしまうだろうから、内政に向いた者を3人つけて、マネジメントは自分たちでするようにもっていく。今日は衣服や宿の手配などをする時間が無いので受け取りは明日ということにした。

 残金55Mゴルド。

 

 チョコレートの生産に人手は必要となってくるので孤児の奴隷を6人購入。鑑定持ち一人と料理系に適性がある者を選ぶと男子2人女子4人となった。こちらは今日の内に連れて帰る。

 残金22Mゴルド。


 こちらの男の子くんたちにも今いる子と同じ1Mクラスの弓装備を用意した。

 残金20Mゴルド。

 

 ここで現在の戦力についてだが、杉原たちを襲った私掠空賊団の戦力を参考にすると。


100m級超大型浮島 丸裸  

ガンシップ 4機(2機中破)      

兵力     46人?      

    VS

30m級小型浮島 要塞 

ガンシップ  約20機 

兵力    約300人


 


 といったところだ。


 今の俺たちの戦力では空戦はまず絶望的だ。

 接敵してアワアワしている間に空から一方的に蹂躙される。

 だから唯一勝機のある陸戦に持ち込むしかない。

 制空権は諦め、接敵したら即座にバトルフィールドを張る。制空権をとられている分相手の陣に囲まれてしまうが、それを押し上げて逆転するより仕様がない。


 神級の近接武将  関羽、張飛

 神級の魔法使い  孔明

 神級?化け物級? 杉原、野口

 天才級      周倉 鬼武蔵

 超有能級     田原(バッファー)

 お留守番     馬謖

 みんなのアイドル KDA様

 後ろで見てるだけ 俺とアンダくん


 と武力60台後半~70台前半で固めた精鋭部隊で玉砕覚悟の突撃あるのみだ。

 とりあえず兵力300を目指す事にする。



   11日目 17:00 杉原の店



 杉原から最初に紹介されたのは公証人のキートンさんだった。

 知力76に法律レベル8。法律関係なら知力84の天才だ。

 それと交渉60以上に弁舌レベル5。俺の能力が低すぎて正確な値がわからないけど、法律関係の能力と合わせれば、敏腕弁護士って感じかな。ロマンスグレーの紳士さんだ。

 こういう人が臣下になってくれたらいいんだけど、ちょっとやそっとのギャラではどうにもならないよな。

「拝謁に賜り、恐悦至極にございます。タナカ王さま」

「王と言っても小さな村の村長くらいですから普通にしてください」

「では、お言葉に甘えまして。これよりタナカ商会の顧問を務めさせていただきますキートンにございます」

 杉原たちが商会を1つに纏めて代表を俺にしちゃったんだよね。実質杉原たちが動かしていくんだけど、俺を目立たせてマックロン商会を動かす腹だ。

 そうそう、マックロン商会といえば、そっち関係でもこのキートンさんが手伝ってくれるらしい。法律関係でマックロン商会を追い込んで、賠償金をガッポリいただこうって作戦だ。

 そのへんは孔明とキートン先生に丸投げにしとこう。


 次に紹介されたのが、アベタカ・ライアンさんだ。

「俺はNONKEだってかまわずEATしちゃうZE」

 意味不明な挨拶をされた。

 濃い。とにかく濃い。

 昭和のおとこって顔。うん、地顔だなこれは。

 神様に頼んでワザワザこんなのにするハズがない。

 なぜか黒い皮のツナギを着ている。

 ツナギの前のジッパーを上げたり下げたりしている。

「そしてコイツがマイハニー」

 腕を引っ張られて、つんのめって前に出てきた劉備少年の大きな耳を、濃い顔の漢が、ハムッと甘噛みした。

「ら、ら、ら、らめぇ~」

 うん、最初の臣下を女体化しなかったからといってマトモだと思うのは間違いのようだ。

 コイツが一番やばい奴だ。 


 アベタカは残念なヤツだった。

 ボーナス均等振りで全ステータス60前後の器用貧乏タイプ。

 魔道具作成系のチート持ちで、そっち進むなら知力上げとけよって感じだ。

 まあ、発明持ちの孔明と組めば何かつくってくれるかも知れない。

 臣下の劉備が内政特化。二人とも戦闘向きじゃないので最初は苦労したらしい。

 なんとか4Fの豚鬼オークを倒せるだけの力をつけて、そこで稼いでいたらしい。

 なんでも戦闘員を17人も雇っていたそうだ。

 劉備と二人で抑え込める以上の戦力を領内に入れていたとか、何を考えてんだって感じだ。いや、何も考えていなかったのかも知れない。

 とにかく4Fの豚鬼オークでの稼ぎで軌道に乗りはじめ、まとめて大量に奴隷を購入しはじめた。このあたりから杉原たちと同じパターン。マックロン商会で孤児の奴隷を借り受けた直後のログインで私掠空賊団に追い詰められてしまった。

 しかしここからが杉原たちと違うところ。

 アベタカは、空賊団を前に、ログアウトしたのだ。

 敵前のログアウト、それは自殺行為だ。次ログインした瞬間に罠が発動する。移動もログアウトも封じてしまう罠。完全に詰んでしまったのだ。70人もの領民を抱え、頼みのダンジョンにも籠れず、魔素も刻一刻と減り続ける。浮島をスリープ状態にして、途方に暮れていたところで杉原に出会った。

 途方に暮れていたって、それで最初の挨拶がアレかよ。何を考えてるんだって、何も考えてないんだろうな。ノリで行っちゃうタイプっぽいし。

「どうかなタナカさん、アベタカさんと共闘という形をとって、しばらく領民たちと共に助けてやってくれないかな~」

 うーん、杉原が何を考えてるかは分かるよ。マックロン商会の手口を調べるために、アベタカの浮島を調べたいんだろうし、領民の中に裏切り者がいないかも調べたいんだろう。

 アベタカだけなら即答で却下だ。俺には無理な人種だ。

 けど劉備なんだよな臣下が。劉備だけ仲間にしなかったら、ウチの最高戦力の3人が黙ってないよな。孔明とは会話がある。けど関羽と張飛に避けられてるんだよな、なぜか。ここで劉備を助けなかったら、関羽、張飛とは修復できない溝ができちゃうのだろう。

「わかりました。共に私掠空賊団を打ち破りましょう」

 俺が苦渋の選択をしたことをこの能天気な男は知るはずもなく、

「OH! それでこそ我がDOUSHI」

 なにが同志だよ。

 つうか抱きつくなよ、尻触るなよ!

 こうして俺は生理的に受け付けない奴までも仲間にしたんだ。




  11日目 20:00 森林エリア


 アベタカの領民たちは明日受け入れる事になった。

 今日はアベタカと劉備だけ先に来て、ウチの領民たちと顔合わせをした。

 夕食後、歓迎会だといってなぜか森林エリアに会場を移した。

 なぜか宴会の席のまわりに桃の花が満開に咲いている。

 なぜだろう……解せぬ。



 じゃ~ん、じゃ~ん、じゃ~ん。


  我ら三人、生まれし日、時は違えども…

    兄弟の契りを結びしからは…

      抜け駆けはやめよう…

 

 同年、同月、同日に生まれずとも…  

    同年、同月、同日に… 

      横並びでいこう…


 強敵つよそうなヤツはだいたいマブダチ…

    レッツパーリナイッ…


  

 おお、桃園の誓いか、劉備、関羽、張飛が楽しそうに杯を重ねている。

 桃の木の陰で孔明が寂しそうに涙を流している。

 『三顧の礼』はまだまだ先なんだね。


 そこへKDA様乱入。

 「おめえ、見ねえ顔だな~どこちゅう出身よ~」

 おっ、劉備を殴った。

 劉備が殴り返した。

 いい勝負だ。

 関羽と張飛がKDA様を取り押さえる。

 「「敵将を捕らえました」」

 KDA様の逃走スキル発動しなかったんだね。

 「きっ、斬れっ!」

 うわ~温和な劉備がマジ切れしちゃってるよ。

 さっきまで木陰で泣いていた孔明が出てきた。

 「はわわわわ、そちらはタナカ王の寵臣、いわば親会社の重役のようなものです」

 「うほっ」

 「「「レッツパーリナイッ」」」


 いつの間にか俺の近くにきていたアベタカがアンダくんをチラリと見て、

 「やはりDOUSHI」

 うん、違うから。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る