第16話 クエスト発生?
10日目 9:00 朝の会議
「マックロン商会が空賊団と繫がっているとみていいでしょうね」
杉原たちの浮島が襲われた次の日に、馬謖くんたち4人が戦争奴隷として送られてきたのだ。
マックロン商会が今回の事件に関与しているとみて、まず間違いないだろう。
杉原たちは腕を組み、みなそれぞれに渋い顔をしていた。
「今後の奴隷の購入についてですが、疑わしいマックロン商会はハズシて、……」
「おやおや、ちょっと待ってもらえますか、タナカさん。それは僕たちには
いつも
杉原と野口も田原の言葉に頷く。
「タナカさんには逆にヤツらに近づいてもらって、尻尾を掴む手伝いをしてもたいたいところなんです」
俺としては、危うきに近寄らずというのも一つの手なのだが……田原たちは俺の唯一のスポンサーだ。ダンジョン産のオークをたった200匹、それも仲買人に買いたたかれてですら16Mゴルドの儲けである。自分の店を持ち相場も自分で決められる田原たちの稼ぎは推して知るべしである。稼ぎの半分の税金、今後も毎日50Mゴルドずつ上納してもらい、残りは月末締めで清算してもらうことが決まっている。……今回はスポンサーの意向に沿うのもいいだろう。俺が奴らの立場なら、泣き寝入りはしたくないだろうし。
「まだどんなカラクリがあるかは分からないけどね~、仕掛けてくると分かっている相手を迎え撃つのは、そう難しいことじゃないと思うんだよ。タナカさんには表で派手に動いてもらって、水面下では僕たちが動くよ。手ぐすね引いて、返り討ちにしてやろうじゃないか。ヘスにも頑張ってもらわないとね」
「はわわわわ、任せてくださいなのです」
マックロン商会への探りは俺が入れることになった。
現状の確認
人口 36(22人)
魔素残量 約2.7M(-70K)
瘴気蓄積量 約1.7M(-40K)
残金 約105Mゴルド
生産ダンジョンの開放エリアは森林エリア(亜寒帯ランク3)、温泉エリア(寒帯ランク8)、入国管理エリアの3つ。前者2つは半径500mドーム状。後者は小型輸送船が通れるくらいの大きさ。
温泉エリアの魔素使用量がハンパない。本来、寒帯のそれも最果ての地なので気温がマイナス45℃とかなのを、昨日購入した人員がテントを利用するしかなかったため、温帯くらいまで気温をあげたのが原因だ。
瘴気の使用量は思っていたより少ない。乱獲をしているのは杉原‐孔明ペアだけで、田原‐関羽ペアはピンポイントでの狩、野口‐張飛ペアにいたってはモンスターを狩るというよりは支配下において使役するのだから瘴気の消費は極めて少ない。
ただ今日からアンダくんたちもダンジョンでの狩を再開するので、瘴気はもって1か月。私掠空賊団のこともあるし、それまでに軍備を整えなければならない。
本日の行動予定
(俺班)…周倉くんを護衛に連れて、中古コンテナの買い出し、豚肉の販売、奴隷商での人材の確保など。
(馬謖班)…内政官の2人とアデルくん(内政)、シオンちゃん(鑑定)を連れて街でコンテナハウス制作の監督と生活物資の調達。
(アンダ班)…KDA様、鬼武蔵くんとに残りの子供たちを連れてダンジョンで狩および解体の指導。
(杉原班)…ダンジョンで狩をしたあとそれぞれの店へ。商会を1つにまとめるため公証人に会うとか。
周倉くんたち武将4名を加えたことで昨日よりも戦力はあがった。
戦力は上がったのだけれどまだまだ足りない。というか武将だけ8名いて、兵がまったくいないのだ。兵あっての武将である。かと言って一気に戦争奴隷を領内に入れるのはマズい。そこで今のメンバーで抑えきれるだけの兵を集める事になった。
はじめ俺は、各1名ずつの従士をつけようと提案したが
「うちは2名でも構いませんよ」
と野口が言い、張飛が頷く。
孔明、関羽、周倉くん、鬼武蔵くんと順に頷き、KDA様に至っては、
「多々益々善きのみ(兵力が多ければ多いほど俺様は強いぜ)」
とカッコ良く応えたので、もう既に内政官を2名面倒見ている馬謖くんだけ従士を1名にして計13名の戦闘奴隷を購入することになった。俺の人物鑑定のスキルを使って、武力60台後半から70台前半くらいの人材を、奴隷商を何軒か回って集めてくる。
時間をかけて互いに信頼関係を築いてから、更に兵の増員をする。これの繰り返し。地道な作業になるが、一歩一歩着実にやっていくほかあるまい。
「アンダ殿には従士はつけなくてよいのですか?」
馬謖くんから質問がでた。
「アンダくんには自由にやってもらうのが一番さ」
アンダくんの武力では従士に反抗されたとき危険だからね。
これまでアンダくんには能力以上に頑張ってもらったんだ。もう少しの間だけ頑張ってもらって、子供たちが解体できるようになったら、あとは自由に得意な狩でもやっててもらうことにしようか。
あと人材登用関連では、孔明から1つ提案があった。
リカリスの市民権を持つものでいいから、芸術や工作の技能を持つ者を何名か雇用するという案だ。彼らには杉原の店の裏の空き地で偽城や偽城壁の制作にあたってもらう。
本格的な城や城壁をつくるとなると何百億、何千億という資金が必要になってくるし、人手も何千、何万という数が必要になってくる。
現状ではまったく手が出せないのである。
今はまだ蓄積している魔素も瘴気も余裕がある状態だが、いずれまた採集にログインしなければならない。その時今の状態、丸腰のまま出ていくのは不安なのだ。
だからハッタリ用にハリボテの偽城、偽城壁、偽砲門などを造って表層に並べようというのだ。
接敵してしまったとき、相手が弱小勢力なら逃げ出すように。
かかる時間も費用も少なくてすむし、それで回避できる戦闘があれば儲けものだ。
俺はこの案を採用することにした。
次に購入した奴隷の待遇についての取り決めだ。
俺としては購入後すぐに開放して市民として受け入れていいと思うのだが、それは馬謖くんに反対された。権利はただ与えるだけでは駄目だというのだ。
労働には適切な対価を支払い、その中から自分を買い戻すようにさせる。自分の力で掴み取った権利だからこそ価値をまし、それが国民意識につながるのだと。
住環境の整備こそまだではあるが、衣食で不自由させるつもりはない。我が国が暮らしやすいことを十分理解してもらうことにしよう。
賃金の設定など、俺にはそのへんは良くわからないので馬謖くんに丸投げすることにした。
会議のあと、俺は子供たちを集めた。
ゴブリンから作ったチョコレートの試食会である。
昨夜寝る前にアンダくんに頼んでマッドウルフを解体してもらっていたのだ。
ゴブリンもマッドウルフも4Fへの移動中に遭遇した分は狩ってあった。
試しにと1匹ずつアイテムボックスの中から取り出し、剥ぎ取ってもらった狼皮でゴブリンを包んでおいた。本拠地の室内で一晩放置しておいたら、朝には『超臭い』の表示が消えていた。
朝食後、田原に見栄えをどうにかできないか相談した。
田原が試しに鍋に入れ湯煎をしたら、肉は溶けてチョコレートになった。
それを会議の間に冷まして固めておいたのだ。
これまでに見たこともない茶色い塊に、子供たちは少し戸惑っていた。
最初に行動に移したのはオルガくん(料理)だった。
チョコレートを口に入れ、しばらく神妙な顔をしていたが、パッと花開いたように笑顔になった。
「うめぇ~!あっ、いえっ、美味しいです。魔神様」
なんか昨日から子供たちが俺のことを魔神様、魔神様と呼んでいる。訂正するのも面倒なのでそのままにしている。
ご満悦のオルガくんの様子に安心してか、子供たちはみなチョコを口に入れる。
「うめぇ~!」「美味しいです」「あま~い」
みな喜んでくれているようだ。
特に女の子ちゃんたちからの反応がいい。
食べ終わったあと、エルマちゃんが跪いて祈りを捧げる格好をすると、子供たちもそれに倣った。ついでに鬼武蔵くんも同じようにしている。
うーん。これもなんか習慣になりつつあるんだよね。朝食のときもしてたし。まあ「命を捧げる」とか物騒なことを言わなくなったし、感謝する気持ちはそれはそれで大切なんで放置することにしておく。
「たいへん美味しかったです。魔神様はお食べにならないのですか?」
とエルマちゃん。
うん。それゴブリンだしね。作る前の状態を見ちゃってるからどれだけ美味しいって言われても無理なんだわ。
10日目 11:00 交易都市リカリス
「これはいったいなんですのん?」
中古のコンテナを買いあさり、昨日杉原たちが利用した工務店と話をつけてから馬謖くんたちと別れた。そんで昨日と同じ豚肉の買取業者をまわっている。
検品を終え、納品している間に、店主にチョコの試供品を勧めた。
「お菓子ですよ。試してみてもらえませんか」
「けったいな色してまんな」
手に持ったチョコを
不思議そうな顔がしだいに
「ほうほう、程よい苦みのあとに、甘みが立ち上がってきますな。おもしろい。どのくらい持ってきてはります?」
「今日はそれだけですね。買ってもらえるなら明日にでも用意しますよ」
「是非にお願いしますわ」
今日は試供品だけしか用意してないからね。
豚肉を売りに行った店ぜんぶに撒いておくつもりだ。
店主の反応もよさげなんで、チョコの生産体制も考えていかなきゃだね。
鑑定持ちの子と調理に適性のある子を優先して探すか。
10日目 16:00 リカリスの武防具屋
工務店で今日仕上がった分のコンテナハウスを受け取り、馬謖君たちと合流した。
あとは武防具店に寄って装備を新調しなきゃだな。
本日のここまでの収支。
豚鬼300匹の販売で約24Mゴルドの収入。
中古コンテナの購入と改造費の前払いで約30Mゴルド。
家具や衣服、生活雑貨の買い付けに約10Mゴルド。
戦争奴隷13名の購入代金で約19Mゴルド。
借金奴隷(孤児)5名の購入代金で約26Mゴルド。
残金が約44Mゴルドってところ。
杉原たち6人は自分たちで装備を揃えるだろうから今必要なのは周倉くんたち武将4名と今日購入した兵13名、そして男の子くんたち6名分かな。
周倉くんたちには昨日、間に合わせの安い武器は買って持たせているけれど、これからダンジョンに毎日入ってもらうんだ。ちゃんとしたものを揃えてあげなくちゃね。
武器の相場は
(Fランク)…駆け出し冒険者用。剣なら青銅製、槍は柄が木製で穂先が青銅、弓は木製。数打ちの鋳造品で粗悪品が多い。20K~100Kゴルド。
(Eランク)…下級の冒険者用。鉄製。数打ちの鋳造品が大半。80K~500Kゴルド。
(Dランク)…中級の冒険者用。魔鉄製。鍛造品の割合が増えてくる。400K~2Mゴルド。
(Cランク)…上級の冒険者用。ミスリル製。1.5Mゴルド~8Mゴルド。
これ以上になると今は手が出せない。
男の子くんたちはアンダくんに任せるので、Eランクの短弓と革製の防具、サブウエポンにFランクの剣か槍を付けて1人平均1Mゴルドくらいのセットにした。
武将および兵の武装は、Cランクの中でも安めの物、穂先だけミスリルで柄は魔鉄の槍をメインにEランクの皮鎧、サブの剣を付けて1組平均2.3Mゴルド。
値引き交渉を馬謖くんに任せたので、残金が2Mゴルド。財布の中が軽くなった。
10日目 18:00 リカリス武防具店前
さて、みな腹を減らしているだろうし帰って風呂に入って晩飯だ。
今日仕上がった分のコンテナハウスだけで十分に今の住民を賄えるだろうし、残りもおいおい仕上がってくるから、今後の人員の増加にもしばらく対応できる。
飯食ってから馬謖くんの指示に従って設置だな。
「帰るぞ」と皆に声をかけ、フロアの中心の転移陣に歩き始めたときだった。
ん?
武防具店の横にある井戸に向かって赤ん坊がヨチヨチ歩いている。
母親らしき人影はあたりに見当たらない。
大丈夫か?
赤ん坊は井戸の井筒によじ登ろうとしている。
放っておくわけにもいかないので俺は近づいて赤ん坊を保護しようとした。
あぶねっ!
井筒によじ登った赤ん坊があわや井戸に落ちるギリギリのタイミングで、赤ん坊を抱き寄せる。
「ダーダァ!」
俺の腕の中で赤ん坊が、それでも井戸の中をのぞき込もうと足掻いている。
肉まんを押しつぶしたような顔。
どこか気候の穏やかな国の王子のようだ。
ブサ可愛い。
母親を探そうと、とりあえず赤ん坊の名前の確認にステータスを見てみた。
名前 未定
年齢 1
職業 忠臣?ペット?(Fランク)
武力 22以下 知力 20以下
魔力 20以下 政治 20以下
交渉 5前後 運 100
スキル 鈴虫大好き LvMax
井戸に落ちる (0/1)
能力低っ!
けど、アトちゃんじゃねえか!
つーことは運以外の能力ぜんぶひと桁?
1歳ってところも謎だし、
FランクってガチャではEランクまでしか出ないよね。
俺が謎にテンパっていると、目の前にウィンドウが開いて
『クエストを受けますか? (Yes or No)
クエストの説明 (Help)』
と表示された。
俺はHelpをタッチした。
画面に説明が1行ずつ表示される。
『これは劉禅を井戸に落とさないように成人するまで育てるクエストであるアル』
14年間も井戸に落ちないように見張らなければならないイベントだと。
『成人するまで井戸に一度も落ちなかったら、劉禅は覚醒するアル』
覚醒だと。スーパー阿斗ちゃんか!
覚醒したら、どうなるんだ?
俺は大いに期待した。
『覚醒した劉禅は能力が運以外いちりつ75になるアル』
微妙~
全ステ一流以上天才未満って使い勝手はいいが、
14年の労力に見合わんよ。
『しかも、108人に分裂するアル』
な・ん・だ・と!
一流以上天才未満が一人だったら大勢に影響はないが、108人だと話が違う。
騎馬隊にでもして108匹アトちゃんズで大軍に突撃させられるじゃないか!
胸熱だ!
『クエストを受けますか?(Yes or No)』
「もちろんNoだ!」
俺は即座に却下した。
14年とかぶっちゃけめんどい。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます