第8話 アンダくんといっしょ ダンジョン編




2日目 8:00 本拠地



 けっきょく昨日は鹿肉はおあずけで、サーニアから最初に貰った保存食を食って寝た。ま、猟師のアンダくんが熟成したほうが旨いってんだから三日くらい待ちますわ。


 食料は保存食が残り29日分と肉、肉、肉、肉。

 軍資金はサーニアに最初に渡された10万ゴルド。

 これから国つくってかなきゃならんってえのに国家予算が10万だぜ、10万。ヒノキの棒渡されて魔王倒してこいっていわれるのと同じくらいのムチャぶりだ。



 俺は朝飯くってから外へ出て本拠地を眺めた。 

 本拠地つっても今はただのみすぼらしい木造の掘立小屋なんだけど、いずれは立派な城にしてかなきゃなんだわ。

 切り立つ岩山をひっくり返した上に半径100mの草原が広がる。その中心にポツンと掘立小屋。草原には初期装備に貰ったガンシップ1機と小型輸送機1機が野ざらしに置いてある。これが今の浮島の外観だ。

 浮島の表層。俺の城。

 ここを改造して堅牢な城壁で囲んだり城をおったてたり、側面の岩壁に軍港つくたり大砲くっつけたりして、無敵の空中要塞を作り上げなきゃならないんだ。今は10万しか持ってないけど、なんかワクワクするね。



 冒険二日目の朝だ。

 今俺がいる夜の世界は永遠の闇の中だけど、浮島を取り囲む結界の中には朝昼晩がちゃんとある。


 さて、今日は何をするか。


 昨日行ったのは生産ダンジョンの森林エリア(亜寒帯)。

 生産ダンジョンは魔素を消費してフロアを開放したり維持したりする。本拠地の転移陣から出入りできる。フロアはいくらでも増やせるし、1つのフロアを拡張することもできるけど、魔素を消費する以上よく考えてやりくりしなきゃ後で泣きをみることになる。


 

 初期で登録されているフロアは居住区エリア、森林エリア(亜寒帯ランク3)、耕地エリア(亜寒帯ランク3)、鉱山エリア(亜寒帯ランク3)の4つで、今のところ森林エリアだけアクティベイトしている。今後住民が増えてきたら、いろいろ開放しなきゃだね。いずれは商業区エリア、工業区エリアとか温泉や海水浴場つくって観光区エリアとか作っていくのもいい。

 


 あと温帯の耕地とか熱帯の森林とか欲しいなら、その気候区の大陸なり島に行って採取用の転移陣を打ち込まないとダメで、転移陣を打ち込んだ場所によって採取ランクが1~10が決まる。光の世界を探索して高ランクの採取場所を見つけるのも楽しみの一つだ。まあ、中央に行けば行くほど危険がいっぱいなんで、とにかく強くならなきゃなんだな。



 安全に行くなら今日も森林エリアで狩なんだろうけど、昨日と同じペースで狩をすると、今の狭い森じゃあっという間に動物が全滅しちゃう。

 通常ダンジョンに行くか。スライムとかゴブリンとか、そういう弱いのなら戦闘力の低い俺やアンダくんでもどうにかなるでしょ。とにかく安全第一だ。無理はいかんよ。

 


 

 2日目 8:10 通常ダンジョン1F


 

 さて、アンダくんとやってきましたよ。通常ダンジョン。

 本拠地の転移陣から飛べるんだけど、ここは魔素の採取時にどうしても溜まってしまう瘴気(神気)を消費するためのダンジョンだ。放っておくとスタンピードが起こっちゃうので定期的に討伐隊を送らなきゃならない。ゆくゆくは通常ダンジョン用の施設を建てて、冒険者ギルドを併設してくことになる。

 


 ここからは命のやりとりだ、気を引き締めていかなきゃな。

 

 第一層はオープンエリア。

 


 半径500mのだだっ広いエリア内に小高い山?丘?があったり、森があったり、川が流れている。向こうの奥に砂浜っぽいのも見えるが、あっちは海?湖?

 入口の階段の上から眺める景色は、とにかく長閑だ。

 いろんなミニマムな地形がごちゃ混ぜになって詰め込まれている。


 

 出現するモンスターはスライムだけ。最弱のモンスターだね。

 スライムは中心の魔石を破壊すると死ぬ。このときは残った体だけが回収できる。スライムの体は食用可らしい。しかも栄養価も高いとか。価値はスライムの種類によるけど、50ゴルド~なんで引き取り価格は25ゴルド~かな。たいした稼ぎにはならないが食料確保は優先事項だ。

 ちなみに魔石を壊さずにスライムを二つに切って、石を引っこ抜くという倒し方もあるようだ。魔石はランク外のくず石だが、それでも300ゴルド前後の価値がある。売ると150ゴルド。稼ぎを考えるならこっちの倒し方も試してみたい。

 塵も積もればだ。スライム狩なら数をこなさなきゃだな。


 

 一層への階段を降りると、目の前30メートルくらいのところに白い半透明のスライムが1匹いましたよ。バスケットボールを押しつぶしたくらいの大きさ?ぷるぷる震えて可愛いかも。動きも鈍い。

 さっそく鑑定。



 ホワイトスライム: ランク外 超弱い

           食用可  焼いて食べるとモチモチした触感。炭水化物。

                鍋に入れてもいいアル。

                保存するときは陰干しするアル。



 語尾にアルて…………この解説してるのサーニアか!

 まあ、この浮島はアイツの力で具現化してんだからダンジョンもあいつのデザインなんだろうけど、なんか一気に拍子抜けしたわ!

 炭水化物か…………つうか餅だよなあれ。大きな鑑餅だと思えば、ありがたい食料だ。



 俺は手をあげてアンダくんに倒すように指示を出した。

 アンダくんはずっと前からスライムの存在に気付いていたようだが、今回はいろいろ試したいことがあるからと緊急のとき以外は俺の指示をまってから攻撃することになっている。

 アンダくん放った矢がなんなくスライムの核を破壊する。

 よし、大丈夫そうだ。

 大量のスライムに囲まれないようにだけ気を付けていけばいい。



 俺たちは前に進んだ。

 すぐに次のスライムに遭遇。今度は白3匹だ。

 俺は指を2本立てて、アンダくんに2匹処理させた。

 1匹は俺が倒そう。

 俺は剣を持つ方の右腕を腕まくりして、気合を入れて前にすすんだ。



 ぷるぷる、ぷるぷる。震えながらスライムもこちらにむかってくる。

 動きは鈍い。大丈夫、これなら余裕だ。

 あと一歩で剣の間合いというところで、

 ピュ!

 スライムが液体を吐き出した。

 酸弾か……近いけどそんなに早くない。

 俺は左手のバックラーで酸弾を受けた。

 よしっと思った次の瞬間だった。右腕に激痛が走った。

 痛っ!

 俺は慌てて手を引っ込めるように振った。条件反射だ。

 バックラーで受けた酸弾のしぶきが、腕まくりしていた肌に直接かかったのだ。

 たいした傷ではない。ただびっくりしただけだ。

 


 しかし、あの酸弾はヤバイな。間違って目にでも入ったら失明する。

 俺はスライムに飛び掛かり、2つに切り伏せた。

 そして急いで左手を突っ込んで魔石を引っこ抜く。

 ゼェゼェ……スライムは強くはない、強くはないがたった150ゴルドのためにリスクのある倒しかたをする必要はないだろう。……アンダくんに丸投げだな……ここでも俺はポーターに徹しよう。



 酸のかかった右腕の皮膚はやけどのようにただれていた。



 2日目 9:00 通常ダンジョン1F



 そのあとの狩は順調にすすんだ。

 多数のスライムがまとまって現れたとしてもスライムは所詮スライム。

 一流の猟人であるアンダくんにかかれば、俺の視界に入る前にサクサク処理されていった。俺はアンダくんの目と手の指示に従って、倒したスライムを集めていくのだった。

 ん?なんかこれって主従逆転してね?

 ちらと心をかすめる疑問はあったが、適材適所。俺はなにも一流の冒険者になる必要はないのだ。

 


「主」

 アンダくんが喋った。

 アンダくんが指さす方向を見ると森に入る手前あたりに緑色のぷるぷるが見える。

「おおお、新種じゃん」

 アンダくんには白のスライムはガンガン倒してもらって、違う種類が出てきた場合だけ、鑑定がすむまで倒すのを待ってもらうように言ってある。


 さっそく鑑定、鑑定。



 グリーンスライム: ランク外 超弱い

           食用可  食物繊維たっぷり。ビタミン・ミネラル豊富

                新鮮なうちにお召し上がりくださいアル。 



 おっ野菜じゃん。最初にもらった保存食にも干し固めた野菜なんかもあったんだけど、新鮮なのは農場エリアを開放してからかな?なんて思ってたんだよ。いやー新鮮な野菜はうれしいねぇ。スライムだから歯ごたえに違和感があるんだろうけど。ありがたい、ありがたい。



 俺たちの狩はどんどん進む。

 アンダくんが使っている弓は、今はコンポジットボウ。M字の短弓だね。


 なんでも1分間に30射できるようになったら一人前だそうだ。

 1分間に30射だぜ。2秒で1発。俺弓をなめてたよ。



 矢筒の方は魔法具の矢筒でEランクの魔石が埋め込んである。

 矢筒に手をかざすと白い光の玉が現れてそれを弓に持っていくと矢の形になる。魔法の矢だね。さすがファンタジー。魔石のランクとかは高くもないし、そこまで高価な装備ではないみたいだけど、初期装備としては悪くないものらしい。これからもアンダくんには狩で頑張ってもらわなければだから、資金に余裕が出てきたら、アンダくんの装備だけはいいものにしてあげないとね。

 


 あと、アンダくんはロングボウも持っていて、そっちは1分で10射できれば一人前なんだそうだ。それに驚いたことにロングボウの方は1射で敵を2人倒したりもできるらしい。貫通させて後ろの的にも当てるそうなんだが、昨日5匹のオオカミに3射しかしなかったからくりは、こういうことだったんだね。



「アンダくんなら速射もできるし、一分間に10以上撃てるんじゃない?どのくらい撃てる?」

「数えてない」

そかそか。

「こんど数えてみたらいいじゃん」

「興味ない」

そかそか。



 アンダ君が敵の位置を指さす。

 餅、野菜ときたのだ。次はなんだ?

 黄色?黄色ってなんだ?卵?



イエロースライム: ランク外 超弱い

          食用可  遠い世界の食材

          伝説の調味料『まよねーず』の味がするアル。



 なんじゃそりゃ!


 いや、マヨネーズは嬉しいよ。生野菜っぽいのも手に入ったし、塩だけじゃ寂しいと思ってたし。けどなんか残念な気がする。サーニアなりのサービスなんだろうけど、なんだろこのモヤモヤした気持ちは。


「マヨネーズ味だって、どうするよ」

 溜息まじりに俺が言うと、

「やるべきことをやるだけだ」

 どこまでもストイックなアンダくんであった。

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