第7話 アンダくんといっしょ 森の狩編



 1日目 15:00 森林エリア


 暇だ~。と~に~か~く~暇だ。

 

 アンダくんと森に狩に来て、まったく何もすることがないのだ。

 餅は餅屋というように、狩は猟師にしかできないのである。

 初めは俺も、アンダくんを守るぞと息巻いて剣を構えていたのだが、まず獲物を見つけられない。俺がしていることはただ、アンダくんの横で音を立てないように息をひそめているだけだった。


 アンダくんが矢をつがえ、放つ。

 矢を放った遥か先に目をやってようやく獲物を見ることができるのである。頭を打ちぬかれた死体をではあったが。



 それにしても俺は狩というのをナメていた。

 森に弓や剣さえ持って行けば獲物が獲れると思っていたのだ。

 しかしそうではない。どうやら俺は気配をプンプン辺りに振りまいているらしく、はっきり言って邪魔なのだ。

 アンダくんは言葉では何も言わないが、目で雄弁に語る。

 猟師は森では目で語るのだ。



 だから俺はアンダくんの指示がでるまで、森のなかでじっと体育すわりをして息をひそめているのである。

 俺が動くと獲物が逃げてしまうらしく、アンダくんが狩って、自分で拾いにいく。俺がすることはただ、アンダくんが差し出す獲物をアイテムボックスに仕舞うことだけだった。


 アンダくんが弓を放つ。鳥が落ちる。アンダくんが拾ってくる。

 アンダくんが弓を放つ。兎が倒れる。アンダくんが拾ってくる。

 アンダくんが弓を放つ。鹿が倒れる。アンダくんが担いでくる。



 俺が不思議の国のアリスなら、そろそろ兎が出てくるころだ。

 いや、兎が出てきたところで、アンダくんに弓で射られてしまう。不思議の国には行けないなと、くだらんことを考えていたときだ。アンダくんが俺の脇に立った。

 アンダくんの目が語る。

 どうやら狩場をかえるようだ。移動で体が動かせる。



 俺はどうやら弓というものを勘違いしていたらしい。

 俺の知ってる弓というのは、ドラマやアニメの学園ものの弓道部が出てくるシーンのイメージだ。矢を引いた後もしばらく狙いを定め、矢を放つまでにたっぷり時間がかかるものと思っていた。

 しかしアンダくんは違った。

 ロングボウも持ってきているが今は俺が運んでいて、M字のコンポジットボウを使っている。小柄なアンダくんにはそれでも大きな弓なのだが、矢を番えたかと思ったら、引いたか引いてないかわからないうちに矢は放たれている。狙ったという感じもない。

 なんか輪ゴムを引っ張ってすぐ放つような軽さ。

 それでも獲物に当たっているのは、次の瞬間バサリという音でわかるのだ。



 だからといって俺は俺たちの戦力を過信したりはしない。ここは森で、相手が兎や鹿だから倒せるのだ。これがゴブリン……は倒せるか……これがオークだったら、矢で死なないかもしれない。相手に近づかれた時点で、俺たちは血だるまになるだろう。無理は禁物だ。


 



 アンダくんの手がこちらに伸びてきた。

 今度は猟師の手が語った。ああ、ロングボウだね。

 俺はアンダくんにロングボウを渡した。

 その時だった。

「オオカミ5」

 とアンダくんがとんでもないことを口にして、一射目を放った。


 

 ちょっ、おまっ、な、な、な、なにしとんじゃ!逃げるぞ!

 と言おうと思うのだが慌てて言葉にならない。

 アワアワしている俺の前で、コンポジットボウほどではないが、それでも十分短い時間でアンダくんはあと二度矢を放った。

 アンダくんの動きが止まった。


 はぁ?打つなら早う次打てやー!

 と思うがやっぱり言葉にならない。

 アンダくんはしばらく遠くを見てから、矢を放った方へ歩き出した。

 ん?矢は3本しか打ってないよな。オオカミ5?オオカミ3?

 俺が混乱している間にアンダくんが5度往復してオオカミを担いできた?

 なぜ5匹も死んでる?

 意味がわからんが、説明を求めても、アンダくんのことだ、言葉数が少なすぎて結局意味がわからんのだろう。

 オオカミは大丈夫と言ったのが、きっとこれだ。

 


 だからといって俺は俺たちの戦力を過信したりはしない。ここは森で、相手が鹿や狼だから倒せるのだ。これがオーク……は倒せるかもだな……これがオーガだったら、矢で死なないかもしれない。相手に近づかれた時点で、俺たちは血だるまになるだろう。無理は禁物だ。

 



 1日目 18:00 本拠地前



 ふっ~う、初日の狩終了。

 夕方までたっぷり狩をしてきましたわ。

 つうか、俺は途中からウトウトとしてただけだけど。しかし、まったく役に立ってないわけじゃなかったんだよね。

 俺ってば優秀なポーターだった。

 アイテムボックスさまさまだったわけよ。



 いくらアンダくんが猟人としては優秀だとしても、一人じゃ今日の成果にはならんのだよ。途中でそこに気付いて気が楽になったね。俺達っていいコンビだ。



 さてさて、今日の成果は……大物だとオオカミが5匹、鹿が15だっけ16だっけ、とにかくいっぱい。んで兎や鳥は途中から多すぎて数えるのやめた。

「全部並べて数えてみようぜ」

と言ったら、アンダくんの手に制された。

「体温さがる」

ん?

 俺が「?」って目でアンダくんを見つめると、

「血抜き」

と単語でこたえた。


 並べるのを止めて、「体温がさがる」、「血抜き」…………なるほど、血抜きは動物の体温のあるうちがいいらしい。

 アイテムボックスは状態維持するしね、入れてる分には体温が落ちない。

 


 そんじゃ何から血抜きするかだ。やっぱ鹿だろ。今日狩った新鮮な肉を今から味わいつくしてやるぜ。


 俺が鹿を取り出すとアンダくんが作業をはじめた。

 俺はウゲッとかグガァァァァとか顔をしかめながら及び腰で手伝ったか邪魔したのかわかんない感じでアンダくんのまわりをうろちょろしたんだ。


 鹿は綺麗にヘッドショットされていた。そういや鳥も兎もみんなヘッドショットだったような。

「アンダくんは頭ねらうんだね」

「苦しんだ肉は不味い」

 なるほど、血が体にまわるとかなんとかかな?ちがうかな?まあいいやこれ以上の説明はアンダくんには酷だ。つか出会って初めてアンダくんが主語述語で話してくれたよ。

 感動だ。



 アンダ君が皮を剥いで綺麗な肉が現れた。

 俺が手で触れてみようとすると、アンダくんにまた手で制された。

「肉触らない」

「?」

「毛触った手は駄目」

 おおお、また主語があった。毛を触った手で肉に触れちゃだめなんだね。つか、何で?匂いが移るとか?匂いなら全部同じような。意味が分からんが、そういうものなんだろう。なんせ猟師の言うことだ。



 手とナイフを綺麗にしてからアンダくんが肉を切り分けた。よおおし新鮮な鹿肉GETだぜ。背肉だったっけか旨いの。さっそくいただくとしましょう。


 

 俺がアンダくんに背肉をプリーズ、プリーズすると、アンダくんが言った。

「涼しい所で、3日置く」

 なぬ?


 熟成があったのか!

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援した人

応援すると応援コメントも書けます

ビューワー設定

文字サイズ

背景色

フォント

一部のAndroid端末では
フォント設定が反映されません。

応援の気持ちを届けよう

カクヨムに登録すると作者に思いを届けられます。ぜひ応援してください。

アカウントをお持ちの方はログイン

フォロー機能を活用しよう

カクヨムに登録して、気になる小説の更新を逃さずチェック!

アカウントをお持ちの方はログイン

フォロー機能を活用しよう

カクヨムに登録して、お気に入り作者の活動を追いかけよう!