第7話 魔道具を活用しよう

「じゃあママ、それにみんな、始めるよ!」


 夫が掛け声とともに網を滝壺に突っ込む。すると案の定、一瞬の間もなく数匹の竜魚が飛びかかり、2匹が網と枠に喰らいついた。


「二匹来た!ママ、行くよ……お、重い……」


 ズシリと重い網を引き上げて地面に置くと、竜魚はすぐさま網を離して地面を這い始める。

 そこへ美香のスコップがひゅんと音をたてて振り下ろされた。

 昏倒する竜魚にナイフを差し込みとどめをさすダダ。


 もう一匹はズーラが雷の魔法で麻痺させて、ガットが剣を突き刺す。

 竜魚は硬い鱗が全身を覆っている。そのため、動いていると切っても刺してもなかなか攻撃が通らないし、仮に刺さってもビチビチ跳ねて危険だ。しかしエラと目の間に一点、ナイフの通る急所があるので、動きを止めてそこを狙えば、一撃で倒す事ができる。


 ガットとズーラは竜魚とほぼ同じ大きさだが、陸での戦いはさすがにこちらが有利だ。ダダも小さいながらも手に持ったナイフをピンポイントで急所に突き刺し仕留めている。


「これはいいわね。さっきは何回叩いたら倒せるのかって思ったもの」


 動きを止めた竜魚を一か所にまとめて、冷凍の魔道具を起動させておく。


「これで、後で食べられるわね」


「美香は……よっぽど竜魚が食べたいのですね。そんなに美味しくはないと思いますが……」


「食べれるなら、まずは食べてみなくっちゃね!」


 刺身は無理かしら?毒がないから、一度食べてみたら良いわね。治癒魔法もあるし!

 よしっ!

 と、気合を入れなおしてスコップを握る。


「さあ、パパ。次をお願い!」


「行くよっ、ママ、ズーラさん!」




 こうして網を引き上げること数回、11匹の竜魚が後方に積み上げられている。

 滝壺の中はどうなったかと見てみたが、まだまだ竜魚の影が沢山見える。

 ……と、網を滝壺に突っ込んだ夫が、異変に気付く。


「あ、あれえ。ねえママ、なんか変。食いつかないよ」


 夫の声に、美香が駆け寄り、ダダも空から滝壺に近付いた。そこに見たものは……

 残っている竜魚たちが互いに食いつき、戦っている姿だった。


「まずいです、共食いでまた大きくなる!」


 焦ったダダの声に、ガットとズーラも近寄ってきた。水の中で激しくもつれあう魚は、今や差しこまれた網には目もくれず、お互いを食い合っている。


「ズーラ、雷の魔法は?」


「撃てるけど、滝壺がかなり深いから効かないと思う。でもやってみるね!」


 杖を構えたズーラが、ギャッギャッという呪文と共に、雷を滝壺に打ち込んだ。底の方で戦っている竜魚たちは一瞬動きを止めたようにも見えたが、浮き上がってくる事もなくそのまままた戦い続けている。


 この寒い中、動きにくい水中に潜っていくわけにもいかず、試しに石を投げつけてみたが何の意味もなく、ただただ、竜魚が戦い進化するのを見ているしかない。

 そんな時、ふと美香が振り返った。


「ねえ……冷凍の魔道具って、水の中で使えるの?」


「そんな使い方はしたことがないよ」


「冷凍の魔道具って、アシドに売ってる?高い?」


「あるよ。うんっと、10万円くらいかな。それと1万円くらいの魔石が入ってる」


「じゃあアシドに帰ったら買って返すから、これ頂戴?」


 そう言って竜魚を積み上げているところから、冷凍の魔道具をひょいと拾うと、スイッチを入れたままポイっと滝壺に投げ込んだ。

 元々、氷点下の気温で、滝は真っ白いつららだ。当然滝壺の水も冷たい。

 そんな中に冷凍の魔道具を放り込んだらどうなる?

 みんなが見守る中、滝壺の底に白い塊が現れ、見る見るうちに竜魚を巻き込んでいった。


 水底の氷は徐々に広がり、あっという間に滝壺は白いスケートリンクへと変わった。


「竜魚の進化はとりあえず止められましたが」


「これ……どうしようかしら」


 底まで凍ってしまった滝壺は、春まで解けない気がする。

 そして、中の竜魚は死んでいない気がする。

 つまり……竜魚巨大化問題は春まで先送り!


 ……

 ……

「獲物を持って、帰りましょうか」

 刺身は鮮度が大事だから!



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