第7話 異世界の空

 美香たちがダンジョンから出ると、そこにはズーラに似たリザードマンがふたり、長い槍を持って立っていた。

「オ……オーガだ」

「2体もオーガが出てきたぞ!」


 槍を構えながら脂汗を流すリザードマンに、ダダが慌てて声を掛ける。

「攻撃しないでください!今朝言っておいたでしょう、ダンジョンボスのオーガを連れて来るって。引き継いでないのですか?」

「あ、ああ。聞いてはいたが……だが2体いるではないか!」


「こちらのお方は、オーガにしてSS級冒険者、タッキー様です。なんと美香の、ダンジョンボスのお知り合いだったのです」


 ダダが羽をぶわっと膨らませて、胸を張って自慢げに隆行を紹介した。

 美香に対する態度と違いすぎるのでは?と思わないでもないが年の功か。年長者を立てるのも良い主婦なのだと思い、黙って成り行きを見守った。


 見張りを納得させて歩き始めた先は、防風林のような松林の中を通る石畳の道だ。

 松林はすぐに通り抜ける事ができた。そしてその先には美香の背の倍以上もある壁と、大きな門が見える。


「ようこそ、アシドへ。私たちの町へ」

 ダダが胸を張って嬉しそうに指し示す先を見て、美香もまた見知らぬ新しい世界に胸を高鳴らせるのだった。




「ダンジョンのこんなに近くに町があるのね」

「ええ。ダンジョンからは様々な資源やアイテムが手に入りますから、大きなダンジョンの近くだからこそこうして町ができるのです。そしてもう一つ……こちらに来てください」

 門をくぐる前に外壁の外側に建てられた、古く小さな小屋に案内された。

「この小屋の戸が、美香の鍵が使える魔道具のドーアになっています。美香のダンジョンをイメージして鍵を使って開ければ、一瞬で戻れるでしょう。これもまた、ここに大きな町ができた理由のひとつです。美香のものと同様に使える魔道具があって、王家もそれを数個所有していますので、移動に便利だということで、ドーアの傍に町が作られることが多いのです」


 ドーアはまだ作り方が解明されていないアーティファクトのなかでも不思議な性質を持っている。建てられた建物の戸が意図せずドーアとなるのだ。偶然見つかった魔道具の鍵が、最初に差し込まれた戸がドーアになるのだと言われている。見つかった鍵とドーアはペアとなり、無意識にドーアを開ければ世界中どこからでもそのドーアにたどり着く。

 アシドのドーアはここがまだ小さな村だった時に見つかった。そのカギは王家に献上され王都をここに遷都するきっかけとなった。

 ドーアを中心にして王城が立てられてもいいのではないかと思ったが、美香のように偶然手に入れた者も使えるので、危険を避けて町の中ではなく街壁の外にあるのだとか。このように町で管理されているドーアには見張りがいて、使用する者の記録を取っている。ここでは身分証を見せて記録を取ること以外は、特別な使用制限などはない。

「美香もこれから冒険者ギルドで登録しますから、その後はギルドタグを見せればここのドーアが使えるようになります」



 町に入る門の所では、またしても立っていた見張りに怯えられた。ここに立っていたのはコボルトと蛇族だった。

「左側のコボルトの女性は、この町の門番の中でもいちにを争う美人と評判だ」

 ガットが嬉しそうに教えてくれた。なるほど。女性だったらしい。

「ガットは結婚しているの?」

「いや、今は冒険者の仕事が楽しいから結婚はしていない。20歳を過ぎたら良い人を探そうと思っている」

 何でもない風に言っているが、ふと見るとしっぽがシュンと下がっている。


「……もう少し仲良くなったら悩みを聞いてあげよう」と美香は心のメモ帳に記した。



 門を入ると大きな通りがまっすぐ伸びていて、かなり向こうの突き当りには、また高い壁と門があるようだった。王城はその向こうなのだろう。

 大通りの両端には思ったより大きな建物が並び、道には多くの人々が行き交っていた。人は今まであったような妖精族や鳥族、リザードマンやコボルトの他にも、今まで見たこともがない姿の人達もいた。ほとんどが身長1メートルもなく、小さな者だと30センチくらいしかない。そのわりに建物の入り口は美香が通り抜けられるほど大きいのは何故だろう。


「ああ、今見た中にはいませんでしたが、背の高い種族もいるのですよ。」


 どんな種族が来てももてなせるように。それがサリチル国の民としてのモットーなのです。

 そう言って胸を張ったダダに、可愛くてつい「よしよし」と頭を撫でてしまった美香。その後猛烈に不貞腐れたダダをなだめながら、一行は冒険者ギルドへと向かった。


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