第42話 大樹の秘密
「やぁ、リディヤ嬢、ステラ嬢、カレン嬢。休暇中のところ、すまないね。おや? リィネ嬢は御機嫌斜めのようだ。いけないよ。女の子は笑っている方が可愛いのだから。拗ねた顔ですら愛でるのは、アレンくらいのものさ」
兄さん達が旅立った翌日の朝。
王立学校の大樹前で私達を待っていたのは『あの』教授でした。
手紙で兄さんが、
『教授は凄い人ではあるんだ。ただ、性格が……』
と書いて来るような御方です。
リディヤさんが腕組みをされながら、冷たく促されます。
「……用件は手早く。あいつから連絡があったら、この場でも飛ぶわ」
「相変わらずで何よりだ。では」
教授が指を鳴らされた。
――その瞬間、いきなり景色が一変した。
目の前にあるのは石造りの神殿らしきもの。大変、立派なものだ。神殿前には、数十の柱があり、その上に魔力灯が見える。
見上げると太い幾つもの根。……魔法で大樹の地下に転移させられた?
ステラと私、未だにティナ達と一緒に行けなくて拗ねているリィネは声を漏らした。
「……魔法式は全く見えなかった……」「……流石、兄さんの恩師ですね……」「……こういうの貴重な経験ですが、私は兄様と一緒の方が……」
前方から呵々大笑。
教授がにこやかに手を振られた。
「はは。その反応、素晴らしいね。何処かの『剣姫』様も最初はそういう反応だったんだけどねぇ……アレンの袖を無意識に握りしめていて、彼に気付かれた途端、恥ずかしそうに離し」
炎の短剣が教授の首筋を掠め、後方の石造りの柱を貫通した。
リディヤさんは微笑を浮かべ、教授に一言。
「あら? ごめんなさい。手が滑ったわ★」
「……リディヤ嬢。言っておくけれど、僕はアレンじゃないんだよ? 彼と同じ照れ方をされても受け止め切れない。そういうのは、そこにいる御老体に向けて放つべきものだと愚考するよ」
「……ふ。甘いな。若造」
柱の影から、白の魔法衣姿で長杖を持った老エルフ――王立学校学校長『大魔導』ロッド卿が姿を現した。
額には冷や汗が見て取れる。
「『剣姫』が私に忖度なぞする筈がなかろう? 危うく心臓を貫かれそうだったわ。……明らかに鋭さが増しておるのだが。つ、次は手加減をだな」
「さ、挨拶も済んだことだし、とっとと説明しなさい。大樹の秘密を。……私も全てを知っているわけじゃない」
「あ、挨拶だと!? 十数の魔法障壁の悉くを貫通されたのだぞっ!?!!」
「……御老体。大学校ではそこにアレンの魔法介入が加わっていた。甘いのがどちらかは、一目瞭然のようだ」
「っ! ……ふ、ふんっ! 此度の件、最後の最後まで『やはり、内々に処理を。……リディヤ嬢はともかく、アレンにこのことが知られれば……』とのたもうていたのは、何処の誰だったか、忘れているようだなっ!」
「「っ!!!」」
教授と学校長が胸倉を掴んで睨み合う。
……この人達、一応、王国最高の魔法士様達の筈なんだけれど。兄さんが認める位なのだし。
リディヤさんとステラが、二人に要求した。
「……あんたらの小さなコップ内の争いなんて、これっぽっちも興味がないのよ」
「……教授、学校長。私達は、アレン様に着いて行かず、此処にいるんです。その意味、御汲み取りください」
「「……はい、ごめんなさい……」」
王国最高の魔法士様二人が、南と北の公女殿下に頭を下げる。ちょっと、震えてる? 「あ、姉様も、ス、ステラさんも、ちょっと怖いです……」。リィネが私の背中に隠れ呟いた。
私は、兄さんがそうするように後輩の赤髪公女殿下の頭を、ぽん、とし、視線を合わせ頷く。確かに、この二人を怒らすのは怖いかも。
教授が咳払い。
「こほん――ま、挨拶はこの程度にして、こっちだ。ついて来てくれたまえ」
そう言われ、神殿内を先導。学校長もその後に続く。
私達は視線を合わし、頷き、歩き始めた。
「――で? 此処は何なんですか? リディヤさん」
「カレン、気付いているんでしょう? 私、義妹には素直であってほしいわ。あと、姉を敬って、私とあいつの邪魔をしない子がいいわね」
「何千回だって言いますが、私に義姉はいません! 第一です。リディヤさんやステラ、リィネは、兄さんと結婚出来ないじゃないですか? 『公子・公女殿下の婚姻は伯爵位以上』。それが不文律な筈です! 私、こっちに来てからちゃんと調べましたんです!!! ……私は、その……で、出来ますけどっ!!!!」
「はんっ! 何を今更。いざとなれば亡命するだけのことよ。北部五侯国を影で操るとか、面白そうじゃない?」
「私の! 兄さんを! 巻き込まないでくださいっ!」
手足に紫電を纏わせ、私は乱打。
が、リディヤさんは笑いながら、ひょいひょい、と全てを躱す。
くっ! こ、この人、明らかに強くなっているっ!?
「カレン~? 貴女、弱くなったんじゃない~? あいつに甘えすぎなのよ。私は強くなったけど♪」
「くぅっ!!! こ、こんな短期間で、い、いきなり、ここまで――……兄さんですねっ!!! 今度は、何をしたんですかっ!!!!」
「え~♪ 教えな~い♪」
リディヤさんが、にへら、と表情を崩す。
私は一旦、攻撃を停止し、成り行きを見守っている親友と後輩に増援を要請する。
「ステラ! リィネ! 貴女達も手伝ってくださいっ!!」
「――私は……リボンをいただいたから」
「……カレンさん、残念ですが、私一人が加わっても、戦局は変わりません。あと、リィネは傷心なので、姉様に挑む気概がありません」
ステラは右手首に結んでいるリボンを愛おしそうに見つめ、リィネは諦念。
……二人して、頼りにならないっ!
前方では教授と学校長が話し込まれている。
「……御老体。カレン嬢の卒業なのだが……その、す、少しばかり延ばせない、だろうか……? あ、あの乱打。来年以降、大学校の研究室で、私が受けることになりそうなのだが……?」
「ハッハッハッ。王国が誇る大魔法士様の言葉とは思えぬなぁ。それにカレン嬢だけではあるまい? おそらくは、ステラ嬢も彼の影響を受け、急成長することだろう。精々、苦しめ」
「馬鹿なっ!? 楽しみは私。苦痛は貴方の担当だろう!?」
あちらもあちらで、大変なようだ。
――神殿奥が見えてきた。
少し離れているにも関わらず、はっきりと分かる。張られているのは、明らかに戦略結界級。しかも、既知のそれじゃない。
リディヤさんが視線で私へ『一時停戦よ』。私は、了承する。
……兄さんの秘密、気になるもの。
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