第10話 お披露目
「うん……やっぱり、こっちの方がいいわ」
「確かに、そうですね……私はリディヤさんに賛成です!」
「迷いますが……私は、片眼鏡の方が好きです。兄様のこんな姿、初めてですし」
「そうね。あと、こうやって、アレン様の前髪を後ろにして――」
「「「「いいっ!!!! 決定っ!!!!」」」」
「………………」
リリーさんの罠に嵌った翌日、僕は黄昏ていた。
目の前には大きな姿見。着ている服は、今日も執事服。
周囲にはドレス姿の、紅と蒼の公女殿下が四人。見るからに興奮している。
少女達はさっきから僕に眼鏡をかけたり、片眼鏡にしてみたり、髪を弄ってみたり……一応、この後、リリーさんのお婿さん候補の猛者達とやり合わないといけないんだけどなぁ。
少し離れたところから、僕へキラキラした視線を向けている、花飾りを着けているアトラとリアと一緒に、眺め中の妹へ救援要請。『カレン! 助けておくれ!!』。
……が。
「アトラ、リア、兄さんは褒めてほしいそうです。いっぱい、褒めてあげましょう」
「「アレン、キラキラ~☆」」
「…………くっ」
思わず、目頭を押さえ、身体を震わす。
どうして、何で、こんなことに……。
リディヤが興奮しながらも、冷たく論評。
「あんたは被害者じゃないからね? むしろ、加害者側よ」
「そうですっ! 先生がリリーさんの誘惑に負けたのが、そもそもいけないんですっ! や、やっぱり、胸が大きい女の子が好きなんですかっ!?」
「兄様……これは、当然の対価だと思います。猛省なさってください」
「アレン様は、もう少し私達のことを考えてほしいです。……私の時もしてもらいますから」
「…………」
味方が、味方がいない。
扉が開き、部屋に二人の少女が入って来た。
一人は淡い赤のドレス姿で、今日は純白のリボンで後ろ髪を結っているリリーさん。前髪には『矢』の髪飾り。
もう一人は、リリーさんの着替えを手伝っていた、メイド服姿のエリーだ。
紅髪の御嬢様は僕を見ると、にっこり。
「アレンさん、お似合いです☆」
「……リリーさん、僕はこの仕打ちを忘れないでしょう」
「ア、アレン先生、とってもカッコいい、です!」
「ああ……エリー……」
近づいて、天使を思わず抱きしめる。
聖女な生徒会長様まで悪に墜ちた今……僕の救いはこの子しかいない!
エリーが抱きしめてくる。
「…………でもでも、私達がいない時に、変な事に巻き込まれたのは、いけないと思います。後で、埋め合わせはしてほしいです」
「!?」
エリーから離れ、よろめく。四人の公女殿下と妹も首肯。アトラとリアも、真似して何度も頷き、ぴょんぴょん。
……どうやら、やっぱり、この場に僕の味方は一人としていないらしい。
リリーさんが楽しそうに微笑む。
「さぁ、行きましょう♪ 私のメイド人生の為に!」
「…………かくなる上は……わざと負けるのも選択肢に入れるべきですね」
「うふふ~♪ アレンさんはぁ~そんなことしません☆ だってぇ」
ニヤニヤ、と紅髪の御嬢様が室内にいるリディヤ達を見渡した後、可愛らしく、自分自身を指さす。
「御嬢様方の前でぇ、カッコ悪いところを見せよう、だなんてぇ、貴方にはどう足掻いてもぉ、無理ですぅ~★ あと……私がメイドさんになりたいことも知ってますしぃ♪」
「……ぐぅぅ」
図星だ。
この子達が見ている以上、無様な姿を見せる気は更々ないし……まぁ日頃から『メイドさんになるんですぅ!』と叫んでいる、何処ぞの紅髪のお姉さんも知っているわけで。
僕は、腐れ縁を呼ぶ。
「リディヤ」
「とっとと、終わらせなさい!」
近づいてきて、自分の愛剣を渡して来たので受けとる。
次いで、薄蒼髪の公女殿下を呼ぶ。
「ステラ」
「はい。どうぞ使ってください」
生徒会長様もまた、愛剣を躊躇なく渡して来た。
不満気な、ティナとリィネの頭を乱暴に撫でる。
「「!」」
「他意はありません。単に、今回は南方の貴族の方々が相手なので、多少は剣技を見せた方が良いかな? と思っただけです。今度は……もう、未来永劫ないと思いますが、万が一あった場合には二人の杖と剣をお借りします」
「約束ですよ?」「兄様、次回はすぐだと思います!」
「……リィネ、僕は言霊を信じています。エリー。剣を持ってくれますか?」
「は、はひっ! ……えへへ♪」
エリーへリディヤとステラの愛剣を渡す。
すぐさま、左腕がリリーさんに拘束される。
「えへへ~♪」『あっ!』「…………」
紅髪の御令嬢がはしゃぎ、ティナ達は僕へ視線で強い不満を要求。
一人、リディヤだけは腕組みをし、指で自分の腕を叩くだけ。……ただし、魔力は明らかに拗ねている。
幼女二人が、跳ねながら近づいてきた。
「♪」「アレン、リアも、リアも手伝う?」
「ありがとう。でも、大丈夫だよ。ぎゅー」
「「♪」」
アトラとリアを抱きしめると、きゃっきゃっ、とはしゃぐ。
嗚呼……僕に残された希望は、もうこの子達しか……!
大きな音を立てて、扉が開いた。
――瞳を輝かせ、活き活きとしているりフェリシアが入って来て、状況説明。なお、リンスターのメイド服姿だ。
「会場の準備完了です! 飲み物や食べ物が、飛ぶように売れていますっ!!! くふふ♪ 帳簿上の桁が増えていくのも楽しいですけど、小銭には小銭の良さがありますね☆ 大きな益も得られそうですし?」
「…………フェリシア、もしや、賭け事を」
「当然です。凄く意外でしたけど……アレンさん、人気ないですね? 圧倒的になり過ぎて、成立しないと思ったんですけど、あっさりと成立しました。約七倍程度になる予定です。あ、勿論、身内は賭けていません。あくまでも、御客様だけです。映像宝珠も禁止にしています。人気が出たら、許可が出るのなら売ります★ 言わずもがなですが、『アレンさん』の許可、じゃないですよ? くっふっふっ~♪ 楽しみです★」
「…………」
僕は震え、再度、幼女二人を抱きしめる。
リリーさんへ求婚しているのは、何れもリンスター公爵家幕下の猛者、勇士達。
その数――書類審査で大半をふるい落とされてなお、十名を超えている。
僕はその人達を全員倒さないといけないのだ。
…………たった一人で。
抗議はしたのだけれど、リサさんは平然。『アレンならば、何も問題ないわ』。
ならば、とリリーさんへ訴えると『??? 何か問題があるんですかぁ? 早めに終えてぇ、紅茶を淹れてくださいねぇ♪』。
最後の頼みの綱だった、リディヤ達は『負ける? 誰が?? 誰に???』。
アトラとリアが僕へ笑う。
「アレン♪」「終わったら、抱っこ♪」
…………退路は完全に断たれた。
両目を瞑る。
こういう時、シェリルがいたら――ああ、いや。状況を悪化させるだけだな。
下手すると『む、婿候補、です』とか言って、乱入しかねない。あれで、暴走しがちなのだ。
せめて、せめて、アンコさんが王都から戻られたのなら、僕を慰めてくれたのにっ!
リリーさんが、手を伸ばしてきた。
「さ――アレンさん。行きましょう! 私達の未来の為に」
「語弊があります。『貴女』の未来の為にです。まぁ……」
手を取り、立ち上がる。
エリーの頭をぽんぽん、とし、気持ちを落ち着かせ、御令嬢へ向き直る。
「貴女の『夢』を守る程度には、頑張りましょう。…………結果、どうなっても後のことは知りませんからね?」
「はーい♪」
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