第49話 水都騒乱 同期生
「はぁ!? も、もう終わったって……そ、それじゃ、私の出番はどうなるのよっ!! あと、竜……竜って……た、確かに、ここら辺一帯、聖域どころか、神域並に清められてるけど……ねぇ? 貴方って、どうしてそうなの?」
一通り事情を説明すると、長い金髪の美少女――僕とリディヤの王立学校同期生で、王国の王位継承順位第二位の王女殿下、シェリル・ウェインライトはいきり立ち、呆然とした。
周囲には対盗聴用魔法を、ずらりと展開してもらっている。テトに。
僕は『きましたぁ。ほめてほめて』と尻尾を振っている、シェリルの使い魔のシフォンを撫でつつ、肩を竦める。
「そう、言われても困る。……と言うか、君が来てどうするのさ」
「来るわよ。貴方の危機なら当然でしょう? 私に友人を見殺しにしろって言うわけ? ……ふ~ん。アレンは、私にそういう子になってほしいんだぁ。へぇ~。知らなかったわぁ~」
「…………僕は、何処で君とリディヤの育て方を間違えたんだろうね」
黄昏る僕にシェリルはきょとん。
同い年な筈なのに、幼く見える。初めて会った時から変わらない。
「え? 最初からじゃない?」「……ちょっと、私は違うでしょう?」
「……テト、この二人に何か言ってあげておくれよ」
「無理です! わ、私は、極々普通の一般平民なんですっ! リディヤ先輩だけでもとんでもないのに、は、話には聞いていましたけど、お、お、王女殿下って……せ、先輩のすけこましっ! 少しは加減をしてくださいっ!! わ、私、見つけた子達の介抱をしてきます!」
「…………イェン、ギル」
「お、御許しを!」「……俺、一応、賊将側の立場なんすよね~」
後輩達が次々と僕を裏切り、テトに続く。薄情者達め。
未だ僕の左腕を確保し続けている、ティナとリィネもやや緊張。カレンは僕へ微笑。『……兄さん。分かっていましたが、それとこれとは別です』。怖い。
リディヤが両腰に手をやりながら、シェリルに勧告。
「とりあえず――間に合わなかった増援さんは、とっとと帰りなさいよ。しっしっ」
「え、嫌だけど」
「な・ん・で・よっ! あんたは、仮にも王女殿下なのよ?」
「だから、でしょう? それに――残敵掃討段階なら、リディヤよりも確実に私の方が役立つわよ。そうでしょう? そうよね、アレン♪」
「……シェリル」
「何かしら? アレンがいないとダメになっちゃう、リディヤちゃん?」
「…………ねぇ」
「駄目です。シフォンおいで。シェリル、よろしく」
「任せて♪」
リディヤが僕に『この子、泣かしたい。泣かしていい? いいわよね??』と視線で訴えてきたのを却下。
小さくなったシフォンを左肩に乗せ、張り切っている王女殿下に依頼。
妙に張り切っているシェリルは長杖を掲げ――光が空を駆けのぼり、分かれた。
あっという間に全域へ広がっていく。
ティナとリィネが目を見開き、カレンが呟いた。
「わぁぁぁ」「こ、この魔法は……」「兄さんの広域探知に似ている?」
「当然よ。だって、アレンのは私が教えたんだもの」
「「「!」」」「……ちっ」
三人が驚愕し、リディヤが舌打ち。
――僕達の前に水都のみならず、郊外までの全域図が浮かび上がる。
先程、僕が使ったそれよりも更に緻密かつ、範囲が広い。
相変わらず見事な精度だ。学生時代よりも遥かに洗練されている。留学していた関係で知っている、というのもあるんだろう。
シェリルが、ちらちら、と僕を見て、これ見よがしに頭を動かす。
「ありがとう。流石だね」
「……言葉だけなの?」
「きちんと言葉にしてくれたら、吝かじゃない」
「! そ、そんなの、い、言えるわけ…………アレンの意地悪! べー、だ。――それで、どうするの? 見たところ、もう殆ど動いている部隊はいないみたいよ? 郊外にまとまった軍はいるけど」
「郊外の軍は無視していい。……後で話しに行くよ。よし、ありがとう。さ、シェリルは帰ろうか。シフォンはいていいからね」
「そうよ! 帰りなさいよっ!!」
僕の言葉に俄然、リディヤが勢いづく。
シェリルはあたふた。
「! ア、アレン、そういう意地悪は良くないと思うわ。第一、そうされて喜ぶのは、リディヤとか、リディヤとか、リディヤだけなのよ?」
「…………シェリル?」
紅髪公女殿下が王女殿下へ微笑。
対して、シェリルは僕の右腕を確保。若干、首筋が赤い。
「えいっ! ……ふふ。こうするのも久しぶりね」
「「あっ!!」」
リディヤと妹が声を出す。
そして、僕を、じーっ、と見てくる。……どうしろと。
「……シェリルにそうされた記憶はないよ。本当について来る気かい?」
「勿論! 最低でも一泊するわ。どうせ、アレンとリディヤは一緒の部屋なんでしょう? 私も同じ部屋にする!」
「だ、駄目よっ! あんたは、昔から、何時も何時も、私の邪魔をするんだからっ!! さっさと、帰りなさいよっ!!!」
リディヤが声を荒げる。
左腕が解放され、カレン、ティナ、リィネは集まり内緒話。「……ティナ、リィネ」「……分かっています」「……姉様だけはズルいです」。
どうやら、紅髪公女殿下は孤立無援らしい。
シェリルが俯き、落ち込む。
「……私、偶には、話をしたかっただけなのに。リディヤは私のことが嫌い、なの?」
「っぐっ! そ、そういうことは、い、言ってないわよ」
「なら……いいわよね? 一晩だけ。一晩だけだから!」
「…………ひ、一晩だけだからね」
「ありがとう。アレン、そういうことだから☆ ティナ達も」
王女殿下は片目を瞑り、ティナ達に合図。
その意は『貴女達も一緒にね』。教え子二人と妹は微かに頷いた。
なお、リディヤはまだ気づいておらず、不機嫌そうに腕組みをしている。
……懐かしい光景だなぁ。
リディヤにとって、シェリル・ウェインライト王女殿下は同い年の同性としては、唯一の友人。どうしても、普段の強気強気だけでは押しきれないのだ。
「よーし、俄然やる気が出てきたわ! 次、次は何をすればいいの?」
「そうだなぁ……とりあえず、腕を離してほしい」
「うん、それは聞けないわね。ほら? 私、リディヤよりも大きい、きゃっ」
リディヤが強引に割り込み、僕の右腕を奪取。
普段よりも押し付け、唸る
「ぐるる……」
「リディヤ、ひどーい。アレン、比べてどう?」
「…………あのねぇ、シェリル。恥ずかしいなら、そういうことを無理して言わないし、しないように。あんまりふざけてると、本気で帰ってもらうよ?」
「…………バ、バレてた?」
「当然。これでも、僕は君の」
「わ、私の?」
首筋をますます赤くし、恥ずかしがりながらシェリルが僕に視線を向けてくる。そこにあるのは期待。人差し指と人差し指を合わせながら上目遣い。凄い破壊力。
……無自覚なんだろうなぁ。
僕は大きく頷き、回答。
「数少ない同期生で、友人だからね」
「………………ねぇ、リディヤ」
「こいつはこういう奴よ。諦めなさい。知ってるでしょう? だから、諦めてっ!」
「……ふんだっ。アレンの意地悪。う、腕は抱きしめないから」
おずおず、と手を伸ばしてきた。
僕は苦笑しながら手を握る。
「こうしたことはあったね。それなりに」
「そ、そうね……えへへ……♪」
「……シェリル、アンナ達を止めて。あの女、無駄に逃げ足が早いわ。逃して魔法生物で追った方がいい。出来るわよね?」
「勿論。……アレンも見てるし、ね」
「? シェリル??」
「何でもないわ」
小さく、王女殿下が何かを呟いたような?
杖を振り、無数の白い小鳥を生み出したシェリルは上機嫌。
この子が使う魔法生物の持続時間と行動半径は、少しばかり次元が異なる。捕捉されたら、叩き落とす以外に対処法はない。
どうやら、ヴィオラという灰色ローブは短距離転移魔法の呪符を駆使しつつ、三人のメイドさんの猛攻を凌ぎに凌いでいるようだけど……跳べる距離はこの全域図を見ていれば理解出来る。
追撃を断念した、と思わせ小鳥に後をつけさせれば……色々と情報を得られるだろう。僕は左手を振り、小鳥達に風魔法を付与。静謐性を向上させる。僕の方から殆ど魔法式を弄っていない。
それだけ、シェリル・ウェインライト王女殿下の魔法制御は精緻極まるのだ。
同期生が嬉しそうに笑う。
「学生時代以来ね。二人の魔法を合わせるの。……まぁ、誰かさんが、王宮に寄りつかなかったせいだけど!」
「そうだねー。その誰かさんは酷い人だねー」
「そうでもないわ。少なくとも、私にとっては――大事な人よ」
「シェリルは、ちょっと変だよね」
「あ、女の子にそういうわけ?」
懐かしい掛け合い。僕達は、案外と仲が良いのだ。
対して、僕から離れたリディヤ、カレン、ティナ、リィネは顰め面で、ひそひそ話中。「……あんた達、理解したわね?」「ま、まさか、これ程とは……」「き、強敵過ぎますっ」「兄様の魔法と合わせる水準の魔法って、神業の類なんじゃ……」。
――小鳥達が水都全域に広がっていく。
最早、この水都はシェリル・ウェインライトの手の内だ。
僕が管制すれば、何処にでも、リディヤ達の魔法を降り注がせることが出来る。怖い怖い。
アンナさん達は追撃を止め、大議事堂へ向かう、とのこと。
右肩のアンコさんが降り、一鳴き。テト達を見てくれるらしい。後で御礼をします。僕は少女達へ告げる。
「さ、僕等も行きましょう――大議事堂へ。もう、終幕にしないと」
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