第37話 水都騒乱 増援要請
考える僕を後目に、四翼の『火焔鳥』が飛翔。
『!?!!』
体勢を立て直しつつあった悪魔が、魔法障壁を張るも、容赦なく喰い破り直撃。
周囲一帯に凄まじい絶叫が響き渡る。
炎の中で、灰色の光が明滅し、燃やされながらも再生していく。
リディヤが剣を構えながら僕へ問うてきた。
「で? どうするの?」
「……考えるのは後にしよう。今は、あいつを倒すことに集中する」
「そ。なら――本気を出す必要があるわね。ね!」
一瞬で距離を詰め、僕の唇を奪おうとし――カレン、ティナ、リィネに阻まれる。
リリーさんは「え? 何ですか?? 私はメイドさんです! いいですか、そこは間違えちゃいけないことで」一角獣達に力説中。ブレないなぁ。
リディヤが微笑。
「……どうして、邪魔するのかしら? これは必要措置よ。他意もあるけど」
「駄目です!」「あ、姉様、慎みをお持ちになってくださいっ!」
「――先生、相手が悪魔なら、私とも」
「「ティナ!」」
「……リディヤ、『真朱』を」
「ちっ」
不満気に舌打ちし、紅髪の公女殿下は剣を左手に持ち替え、右手にリンスターの炎剣『真朱』を顕現。
僕は指示を飛ばす。
「前衛はリディヤとリリーさん」
「了解」「あ、は~い」
「中衛は僕と、この子達」
一角獣達の頭を優しく撫でる。
紫電が舞い散った。
「兄さん、私も!」「兄様、リィネも御力になれます!」
「カレンとリィネはティナの前衛だ。僕達の援護を」
「先生、私は」
「ティナは全力で魔法を紡いでください。遠慮なしで構いません。僕が許可します」
薄蒼髪の公女殿下が目を丸くし、くすくす、と笑う。
「温室の屋根を突き破る位に、ですか?」
「ええ、遠慮しないでいいですよ。この際です、全力を見せてください」
「分かりました。なら」
ティナは長杖を高く掲げた。
無数の氷華が舞い始め、周囲の建物が白く氷ついていく。
――魔法を紡ぐだけでこう、か。
「先生に私の全力全開を御見せしますっ! 上手くいったら、いっぱいいっぱい、褒めてくださいね? あと、ぎゅー、もお願いしますっ!!」
「分かりました。約束します」
「……ちょっと?」「……兄さん?」「……首席様はこれだから」
「はいはい! アレン様、アレン様、私も頑張るので~メイド服をですね……」
「リリーさんは、大埠頭と帆船の件をチャラにします」
「…………いけずですぅ~。お姉さんでメイドな私を見たく」
「それと、これを」
リリーさんの手を握り、組んだばかりの魔法式を渡す。
きょとん、としていたお姉さんは、直後、僕の手をにぎにぎ。
二振りの大剣の切っ先に、新式の『火焔鳥』を紡ぐ。
「えへへ~♪ アレン様って、本当に意地悪ですけど……甘々に甘々ですよね~♪ なので~」
大剣を交差――大きさだけなら、リディヤのそれを上回る『火焔鳥』を生み出すと
「え~~~~~~いっ!!!!」
思いっきり、悪魔へ放り投げた。
同時に疾走。リディヤが僕を一瞥『後でお説教!』リリーさんへ追随し、並ぶ。
僕は肩を竦め、魔法を紡ぎながら駆ける。
並走する二頭の一角獣は角から雷球を乱射。
ようやく炎から抜け出した悪魔は、襲い掛かってきたリリーさんの『火焔鳥』と雷球を黒灰色の魔法障壁で迎撃する。
『おのれぇぇぇぇぇぇぇ!!! 我等ノ信仰が、コノヨウナことでぇぇぇぇ!!!!』
「信じるモノが必要なのは理解しますよぉ~。でも」
「少なくとも、あんた達のやっていることは……無茶苦茶過ぎる。言っておくけど、あいつを怒らすと本当に、本当に、本当に大変なのよ?」
『ガァァァァァァァァ!!!!!』
間合いを詰めた二人のリンスター。
四振りの魔剣、名剣が繰り出す、正しく斬撃の嵐が襲い掛かる。
――悪魔の両腕と双翼が刻まれ、消失。障壁が崩壊。
『火焔鳥』と雷球が身体を直撃。身体を炎上させ、大穴を穿っていく。
僕は『深紫』をくるり、と回し、カレン、リィネ、そして、ティナへ呼びかける。
「いきますよ?」
「「「はいっ!!!」」」『アトラもー……』
『深紫』を振り下ろし、雷属性極致魔法『雷王虎』を解き放つ。
カレンは雷槍の穂先に雷属性上級魔法『雷帝乱舞』を五連発動。
リィネは何時もの片手剣と懐から取り出した暗器を用いて、炎属性極致魔法『火焔鳥』を二羽顕現。
そして――
「これがっ、私の、全力ですっ!!!!!!」
ティナが今までで最大の氷属性極致魔法『氷雪狼』を発動。
ボロボロになった悪魔は絶望的な戦況にもかかわらず、未だ戦意を喪わず、両腕と双翼を再生しようと、藻掻いている。
『我等の、我等には信仰ガ、聖霊ノ加護が…………聖女様ノ御力ガ付いていルのだぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!!』
…………聖女だって?
瞬間――大閃光が走り、水都全体を揺るがすように、地面が震えた。
悪魔の魔力が急速に喪われ、消えていくのが分かった。
けれど……右肩のアンコさんが注意喚起。先程の『ヴィオラ』と呼ばれた魔法士の魔力!
魔力の奔流を無理矢理、抑え込み視界を回復。
フードを深く被った魔法士が悪魔の頭を長杖に引っ掛け、飛翔していくのが見えた。
魔法の嵐の中、自らは無傷で飛翔魔法をも使いこなすなんて……間違いなく大陸級の魔法士。
どうやら、あの人は役割が異なる、と。そして――この戦い、まだ止まらない。
周囲を見渡す。
大図書館だけでなく、他の建物にも大きな被害。
呆然と僕等と悪魔の戦闘を見ていた侯国軍の兵士達は次々と武器を捨てて、逃げていく。
僕は「やってやりました~。ふんすっ!」と大剣を地面に刺しているメイドさんへ話しかける。
「リリーさん」
「はい~? あ、メイド服をくれる気になりましたかぁ? うふふ~そうですよね! 私、頑張りましたしっ~!!」
「――……今すぐ、アンナさんに御連絡願います。『政治的に可能な最精鋭で増援を請う』。東都への緊急連絡、可能ですよね? あの人なら短時間で移動も可能な筈です」
「!? に、に、にゃぜ――……あの相手、それ程の?」
「ええ。本番はこれからです。リディヤ」
「……分かってるわ。どうやって出してくるかは知らない。でも――ここまで、なぞっているのなら」
腐れ縁と頷き合う。
――僕等もあの頃に比べれば強くなった。
この場には、リリーさんも、カレンも、リィネも、ティナだっている。
けれど、それでもなお……予測通りの怪物が現れるのならば死戦は必至。
相当、分が悪い勝負になるだろう。
僕は右肩の使い魔様にも頼む。
「アンコさん、すいません。少し、御力をお借りするかもしれません」
てしてし、と頭を叩かれ、一鳴き。怒られてしまった。
――ふっ、と大きな力が離れる感覚。
左肩に重み。そこにいるのは、すやすや、と眠る幼狐の姿。
「! 兄さん」「先生、獣耳が!」「兄様、尻尾もないです!」
「……初めてでしたからね。アトラは頑張ってくれました。アンコさん」
闇が幼狐を包み、消えた。
肩を鳴らす。
さて、と。
リディヤへ笑いかける。
「僕の予測が外れていることを期待しようか」
「あんたの予想は外れない。でも、問題ないわ。だって――私の隣にはあんたが、あんたの隣には私がいる。敵はいない!」
紅髪の公女殿下が僕へ微笑み返し、愛剣を渡してきた。
左手で受け取り『紅剣』擬きを発動。
「カレン」
「はい!」
右手の『深紫』を手渡す。
戦力均衡が必要だ。次の相手は……僕の力じゃ、完全にこの子達を守れない。
……ティナとリィネには、ここで待っててもらっても。
「小っちゃいの、リィネ、ここから先、足手まといはいらないわ。私達にも余裕はなくなる。今すぐに決断なさい。どうするの?」
「リディヤ!」
「そんなの」「決まってます」
「「私達は足手まといになりませんっ!!!」」
「――だ、そうよ」
「……約束してください。危なくなったら、僕を見捨てて逃げる、と」
「「「! そんなこと!!」」」
「それが出来ないならここでお別れです。……リディヤもだよ!」
「はいはい」
『剣姫』は楽しそうに、手をひらひら、させた。……まったく。
リリーさんが真面目な顔で報告。
「――アレン様、メイド長からです。『委細承知。暫し敢闘願います!』。最悪の場合、私が皆様の楯にぃ。ア、アレンしゃまぁ?? ひたいんですけどぉ」
馬鹿なことを言って来たメイドさんの頬っぺたを抓り、額を指で打つ。「……いいなぁ……」今、呟いたのは誰かな?
少女達へ告げる。
「相手が何であれ、怪物であれ……災厄と呼ばれる存在であれ、みんな無事、が最低限です。それ以外は拒否します。いいですね?」
「「「「はいっ!!!!」」」」「…………私は二人きりでもいいけどね」
腐れ縁がポツリ、と呟いたのが聞こえた。無茶を言うなよ。
――『竜』なんて、そもそも人が相手にする存在じゃないんだから。
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