第33話 水都騒乱 急
「ふふ~♪ 良いことをした後は、爽やかな気持ちですねぇ~☆ そう、思いませんかぁ~? リディヤ御嬢様、カレン御嬢様~?」
「……リリー」
「……リディヤさん、先程、ティナも言っていましたが、リンスターの教育はどうなっているんですか? 何処かの我が儘『剣姫』様対策の一環で、平然と嘘をつき過ぎなのでは? アトラが覚えたらどうするんですかっ!」
「わ、私のせいじゃないでしょう!? 全部、全部、そこにいる似非メイドの企みじゃないっ!」
「あ、あのぉ~……い、幾ら、私でも、傷つくんですよぉぉ……?」
「「誰のせいだと?」」
「うぅぅぅ……」
屋根の上を移動しながら、怖い怖い御二人が私をなじってきます。
酷いです。あんまりです。わ、私は良いことをしたのにっ!
――当たり籤は確かに一本だったじゃないですかぁ。ええ、私の分を除いては!
けれど、私はお姉ちゃん。最初から譲るつもりだったんです。
……え? アレン様と二人きり?
言葉の綾です。嘘じゃありません。だって、そういう風に言わないと皆さん、引いてくれませんし?
結局、籤を見事、引いたのはリィネ御嬢様でした。素直に喜ばれている御姿は可愛らしかったです。
そして、もう一人を選んだのは
「文句ならぁ、ティナ御嬢様を選んだアレン様へ言うべきだって、思うんですぅぅ~。直接、言えないからってぇ、私を責めるのは~」
「……リリー、分かっていて、そういうこと言うのは止めなさい」
「……兄さんがティナを選んだのは理解出来ます。私達の中で一番、実戦慣れしていないあの二人は、自分が直接助けられるよう一緒に行動したい、と思われるのが私の兄さんです。たとえ、私達が引いても、ティナと交代だったでしょう。ですが」
「「これはこれ、それはそれ!」」
「ひ、酷いですぅ~……アンコさん、アンコさんなら、私のことを~」
頭の上の黒猫な使い魔様が鳴かれます。
私達の目標――大埠頭が見えてきました。国旗のない大帆船が停泊しています。
あらぁ~……もう占拠されちゃってますねぇ。大倉庫はまだ粘っているようですが、時間の問題でしょうか?
私達は近くの建物から、敵の数を把握します。
…………思ったよりも多いですね。
侯国北部の正規兵さんだけじゃなく、灰色ローブの人達もいます。
う~ん、こういう時はぁ――リディヤ御嬢様が片手を振られました。
「さ、リリー、リンスターのメイドとしての見せ場よ。『単騎よく千を屠る』。殺ってきなさい」
「! リ、リディヤ御嬢様、そ、そのぉ、こ、言葉が違うかなぁ~って思うんですけどぉ……あ、あと、私、そ、そんなに強くないですしぃ……こ、ここは『剣姫』様の武勇をですねぇ」
「あら? 私とカレンで片付けてしまっていいのかしら? ここで頑張ったら、アンナに口添えしてあげても良かったのよ? ……ああ、でも、そうね。リリーはもうステラに魂を売ったのだものねぇ。困ったわぁ。第三席を選びなおさないと」
「!?!! に、にゃぜ、そ、それ――……カ、カレンさん!?」
慌てて見るからにお兄ちゃんっ子なカレン御嬢様へ視線を向けます。
満面の笑みです。こ、怖いですぅ……。
「――何時から私が貴女の味方だと思っていたのですか? 兄さんはよく人を褒めますが、貴女に対する態度は少し特別です。リディヤさんだけでも大変なのに、これ以上の敵は不必要です。また、当たり籤を私にくれなかった時点で貴女は半ば敵です!」
「ひ、酷いですぅぅ~。わ、私は、御二人と違って、か弱いメイドなんですよぉぉ~? あ、あ、あんなたくさんの兵士さん達相手にしたらぁぁ……おっと~」
御嬢様達と遊んでいたら、灰色ローブの人達に気づかれました。
口々に何事かを叫び、剣や長杖を向け攻撃魔法を乱射してきます。
私は即座に紡いでいた炎属性初級魔法『炎神弾』で迎撃、防ぎます。
爆炎の中、リディヤ御嬢様とカレン御嬢様が肩を竦められました。
「リリー、私とカレンは大倉庫へ回るわ。適当に叩いて、とっとと合流してきなさい。ああ、私達が向こうを潰す前までに来なかったら置いていくから」
「アンコさん、此方へ」
「あ~あ~あ~!!!」
頭の上にいた黒猫姿の使い魔様がカレン御嬢様へ飛び乗り――瞬間、御嬢様達の姿が消えました。闇魔法の移動術!
ひ、酷いで
「すぅぅぅぅぅ~~~!!!!!」
次々と着弾する魔法の嵐の中を駆け、壁を駆け下ります。
一瞬、攻撃魔法が止まりました。好機!
地面へ駆け下り、呆気に取られている兵士さん達へ掌底と蹴り。
『!?!!!』
メイド長仕込みの一撃で十数名が吹き飛び、宙に舞います。
次いで『火焔鳥』を顕現。戦列へ放り投げます。
「! あ、あれは……」「リリリリ」「リンスターの『火焔鳥』だぁぁぁぁぁ!!!!!!!」「逃げろ! 逃げるんだっ!! あ、あの魔法は、俺達じゃ止めようがないっっっ!!!!」
兵士さん達が悲鳴を上げ、迎撃することもなく逃げ惑います。士気低いですねぇ。
『火焔鳥』はそのまま後方に停泊している大型帆船へ着弾。大炎上を起こしました。魔力の感じからして死者は無し。
アレン様の御命令『灰色ローブ以外は殺さないように』を守る、私は偉いメイドさんですねっ!
腕組みをし、うんうん、と頷いていると、未だ戦意を喪わない兵士達の一団が見えました。脇には灰色ローブの人達がいます。その後方には大きな木箱が数個。
どうやら、あの人達が『頭』のようです。
指を突き付けます。
「ここまでですぅ~! 誰が一番偉い人ですかぁ? 用事があるのはその人と……そこの灰色ローブの方達だけですぅ~」
「っぐっ! お、おのれ、おのれ……き、貴様もリンスター、なのか? 交渉する、と口では言いながら、聖霊教の司祭様が仰ったように貴様らのような破壊工作を行う者を忍び込ませているとは、ば、蛮族めっ!!! わ、我等は国を、連合の将来を思って止むを得ず立ったのだっ! 邪魔をするなっ!!!!」
兵士達に守られている軍服姿の若い男性が騒いでいます。茶髪で身なりが良いので、おそらくはアトラス侯爵でしょう。
……聖霊教、ですかぁ。
小首を傾げながらも、私は再度『火焔鳥』を顕現。通告します。
「降伏しないのならぁ、是非もなしですぅ~。アレン様には怒られるかもしれませんがぁ……証拠を残さなければ、完・全・犯・罪★、なのでぇ♪」
「なっ!? ま、待」
「さよならですぅ~」
本気の『火焔鳥』を放り投げ、私は身を翻します。後方から爆裂音。
勿論、直接は狙っていません。後方の帆船に炎を足しただけです。でも、抵抗を止めない限り燃え続け、かつ襲い続けるので、何れ力尽きるでしょう。
えーっと……大倉庫は~――瞬間、本能に従って全力で横に退避。短剣が通り過ぎます。
けれど、メイド長に選んでもらった服の袖が切り裂かれました。
…………これはメイド服じゃなくても、お気に入りだったのに。
「――リンスターの『血』。興味深い。捕獲出来れば、さぞや我が主は御悦びになられるだろう」
炎の中から、灰色ローブの男達が出てきました。
男達の前には、奇妙な人型の存在が三体程。巨人族よりもやや背が低く。成年男子二人分程の高さ。兜を被り、重厚な鎧と巨大な楯。それに剣や槍を持っています。人じゃありません。
…………どうでもいいですけど。
「娘よ! 大人しく捕まるのだ。な~に、殺しはせん。何しろ『火焔鳥』を使える貴重な実験動物――!?!!!!!」
ギャーギャー、と何かを言っていましたが、無視。
最も近くにいた謎な存在を両断。奇妙な灰色の血が飛び散ります。
思ったよりも脆いですね。拍子抜けです。即座に炎で処分。
灰色ローブの男達と、炎から逃げてきた侯爵が絶句しています。
「なっ! ば、ば、馬鹿なっ!! せ、せ、聖霊の加護によって動く魔導兵を、斬った、だと!?!!」
「ば、ば、化け物めっ!!」
「失礼ですねぇ~……私なんか、なんちゃってリンスターですよ~? 御祖母様や、奥様、リディヤ御嬢様に比べらたらぁ~赤ん坊も同然ですぅ~。でもぉ」
私は右手の愛大剣『
次いで、左手へ愛大剣『
眼前の男達と魔導兵? が怯え、後退。
「――私のこの服を傷つけた罪は万死、いえ……億死に値します。聞きたいことも出てきたので、苦しんだ後、全部、教えてくださいね? ああ、出来れば、全力で抵抗して★」
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