第43話 王都攻防戦 中
皆さん、こんにちは、こんばんは。
私はリンスター家メイドを務めています、リリー・リンスターです。
――ここ、大事なところです!
私は、メイドさん、です!
メイド長達の陰謀によって、未だ可愛いメイド服を着たことはありませんが、れっきとしたメイドさんなんです! けっっして、御嬢様~、じゃありません。そこのところ、くれぐれも誤解しないでください。
嗚呼、でも……今だけは、メイドじゃなくてもいいかもしれません。
うぅ……水都からようやく帰って来たと思ったら、リディヤ御嬢様付きになって、気付いたらこんなことに……。
『リリー、だったかしら? そろそろ、到着するわよ! 準備を!!』
『……はぁい』
隣を飛ぶ飛竜から、シェリル・ウェインライト王女殿下が、風魔法で話かけてこられます。その周囲には数頭の飛竜。エルフさん達が乗られています。
王族直属の護衛隊の方々です。皆さん、緊張されていますね……。
眼下には王都。対空警戒をしていないのか、それどころじゃないのか、全く迎撃はありません。
私達が目指しているオルグレンの屋敷からは既に炎が噴き出しています。
うぅぅ……い、行きたくないです……。
思わず、乗っているグリフォンさんの背中に頭を埋めます。ちょっと、固いですが、これはこれで……グリフォンさんが振り返り『大丈夫? 帰る??』と聞いて来られました。
い、いえ! だ、大丈夫です!!
リンスターのメイドたる者、御嬢様を御守りするのは、最低限以下の義務! そして、私はメイドさん!! そうっ! メイドさんなんですっ!!!
……でも。でもぉぉ。
再度、視線を屋敷へ向けます。もう……手遅れな気がします……。
『リリーは、少し、おバカさんな時があるのよねぇ』
御祖母様ののほほんとした声が聞こえたような。
どうして、どうして、こんなことにぃぃ。
※※※
「…………リディヤ御嬢様は、リサ様とリィネ御嬢様が先行されたことに気づかれていらっしゃいました。けど『……我が儘を言うとね、あいつ怒るの』って。でもでも……御嬢様は、もう、限界なんですっ! 一刻も早く、あの方に――アレン様に会わせてさしあげないと、もう……もうっ!」
私はリカルド叔父様へ訴えました。
すると、叔父様は頭を抱えられ呻かれました。
「……王都にどれ程の兵がいると思って……いや、あの子ならば、問題はないのか……しかし……」
「軍を動かす。レオ」
「承知した。『剣姫』は国の至宝。リンスターの娘、考えを聞こう。『剣姫』は王都の何処を襲撃していると思う?」
美貌のエルフさん――レオ・ルブフェーラ公爵殿下が私へ問いかけてきました。
とても不思議な質問です。
「??? こういう局面で、頭以外に狙うところがあるんですか? 指先とか?? 痛いんですよね、ぶつけると♪」
「…………リカルド・リンスター公爵殿下?」
「言うな、聞くな。……我が家の女達は、皆そうなのだっ! 貴様の家も似たようなものだろう?」
「失敬な。何をもって――……この話題は止めるとしよう」
「うむ……」
髭面の大男さん――ワルター・ハワード公爵殿下が腕組みをされ、俯かれた二人の公爵殿下を笑われます。
「リンスターもルブフェーラも、困ったものだ。貴様等、仮にも公爵家である自覚を持ってだな」
「……ワルター」「……そう言ってられるのも、後僅かではないか?」
「うちの娘達は妖精なのだ。貴様達の家と同じにしてもらっては困る」
「「……その言、忘れぬぞ……」」
え、えーっと……現実逃避をしている場合じゃありませんっ!
私は一生懸命、主張します。
「と、とにかく、リディヤ御嬢様は、叛乱軍の司令部を御一人で襲撃されているんですっ! このままじゃ……このままじゃ、王都が燃え尽きちゃいますっ!!」
御三方が私を顔をじっと、見てこられました。
な、何か、付いているのでしょうか。戦場なのに、とっっても御食事が美味しくて、ついつい食べ過ぎちゃったので。古参の人達が驚いていました。『普段だって、信じられないくらい美味いんですが、今回は更に美味いです!』。魔法使いさんが、いるのかもしれません。
――ハワード、ルブフェーラ公爵が苦笑され、リカルド叔父様が額を押さえられました。
「はっはっはっ。『剣姫』の心配よりも」
「ふっふっ。王都の心配をするか」
「……だが、事実でもある。我が娘ながら、リディヤを討てる者が今の王都にいるとは到底思えぬ。リリーの言う通り、王都炎上の心配をすべきだろう。その前に止めねばな。軍を急進させる。すまないが」
「気にするな」「王都が早く落とせるのであれば歓迎する」
お話はまとまったようです。
う~ん……でも……。
ルブフェーラ公爵殿下が私へ話しかけてこられます。
「リンスターの娘、まだ気になることがあるのか?」
「え、えーっと、ですね……」
「リリー、言いたいことがあるのなら、手早くだ」
「あ、は~い。んーと……軍を急進させるのはいいんですけど……」
『?』
「――誰が、リディヤ御嬢様を止めるんですか? もう、止まらないかな~、って思うんですけど……あ! リカルド叔父様が止めて」
私は両手を打ち鳴らして、叔父様を見ました。
そうです! 当代リンスター公爵殿下であれば、リディヤ御嬢様を止めることだって!!
叔父様が穏やかな笑みを浮かべられました。
「リリー」
「はい! すぐにグリフォンを御用意しますね!!」
「……人には無理な事もある。幸いこの場には、王国が誇る二人の勇猛果敢な公爵殿下が」
「リカルド、王都で会おう」「……同情する。後程な」
ハワード、ルブフェーラ公爵殿下は、叔父様の肩を叩かれて、さっさとグリフォンと飛竜に乗られ、飛び立って行かれました。あ、あれぇ??
……これ、ヤバイです。
「さ、さー、わ、私も御仕事が」
「……リリー」
「む、無理ですっ! い、今のリディヤ御嬢様を止められるのなんて、そ、それこそ御祖母様か奥様か……あっさり止められるのはアレン様だけですよぉぉぉぉ」
「そこを何とかせよ。――リンスター家メイドの務めだ」
「!!! そ、そ、それは……」
「ああ、そうだったな。リリーはメイドでは」
「メイドさんです! 私は、リンスター家メイド隊第三席です!! 分かりましたっ!!! 私が、リディヤ御嬢様を止めて」
「――リディヤ? リディヤがどうしたんですか!? この魔力、あの子のものですよね?」
上空から声がしました。
仰ぎ見ると飛竜が数頭。先頭のそれに乗られているのは金髪をたなびかせている美少女。見るからに高貴な方だと分かります。
リカルド叔父様が頭を下げられました。慌てて私も頭を下げます。
「これは、シェリル王女殿下」
「リンスター公、今は戦時です。……もしや、王都へ?」
「……はい。単独で司令部を襲撃しているようです。軍は急進させますが」
「――分かりました。私が行きます」
「殿下、それは」
「アレンがいない時のあの子を止められる可能性を持っているのは、王国でも極少数。その一人が私だと思います」
「……分かりました。こちらからは、この」
背中を押されました。……え、ええ!?
王女殿下を目が合います。好奇の視線。……アレン様に少し似ているような。
リカルド叔父様が話を続けられます。
「リリー・リンスターを。足手纏いにはならぬでしょう。我が娘をよろしくお願いいたします」
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