第33話 三姉妹

「う~ん……やっぱり、まだまだ自動車は使いにくいですね……。集中運用すれば馬車よりも早いのは事実ですが、故障が多過ぎますっっ! こんなに多くちゃ、連続運用出来ません!! ……御姉様、集結地点で立ち往生した車で、重傷なのは一旦放置しましょう。以後は、うちの家と、一部整備能力が高い家でどうにか出来る車だけで運用を!」

「そうね、そうしましょう。……むしろ、高速性を活かすのならば、補給部門じゃなくて、御父様にお預けして、前線への移送用に使った方がいいのかもしれないわね」

「う~ん……そうですねぇ……。でも、街道以外では使えないですよ? それに、帝国に近づく程、道路状況は悪いですし。今後、車の運用を考えていくなら、道路の強度も上げて」

「えっと、えっと……ティナ御嬢様、ステラ御嬢様!」

『何? エリー?』


 同時に、御二人が私を見られます。

 わぁ。やっぱり仲良し――……じゃないですっ!

 頭をぶんぶん、振って両手を腰に付けて、胸を張ります。


「お、お食事中の時くらい、資料を持ち込むのは、だ、ダメ、ひゃっ!」

「…………エリー、貴女、また、大きく、なったんじゃ、な、い…………?」

「テ、ティナ御嬢様、や、止めてくださいぃぃぃぃ」

「ティナ、みんな見てるわよ。座りなさい」

「……は~い。おっきくなってた。絶対に、おっきくなってた」


 ティナ御嬢様に隠すように胸を隠します。後ろで控えている、メイドさん達がくすくす、と笑っています。

 も、もうっ! ……ち、ちょっとだけ、だと、思いますっ。


「テ、ティナ御嬢様。だ、だから、お食事を」

「エリー、貴女も一緒に食べなさい。まだ、食事とってないんでしょう?」 

「ス、ステラ御嬢様……それは、そうですけど……わ、私はメイド」

「はい、なら決定ね。ティナ、場所を空けて」

「あ、は~い。うんしょ」

「あのあの。その……」


 ティナ御嬢様とステラ御嬢様は、私に構わず大きな執務机上の書類の山を動かして一人分のスペースをあっという間に、確保されました。

 ステラ御嬢様が予備の皿にシチューを注ぎ、ティナ御嬢様が焼き立てパンを用意。うぅぅぅ……。


「あ、あのですね。わ、私のお仕事は、中々、お食事もとられず、ずっ~とお仕事をされてしまっている御嬢様達に、ちゃんとお食事をとってもらうことで、だ、だから、御屋敷に戻ってきたんですっ。そ、それに、私、お腹は減」


 く~――……うぅぅぅぅぅ!!!

 頭を抱えて、その場にへたり込みます。更に、くすくすと笑い声。

 ち、違うんです。

 今、ハワード家は戦時態勢。きちんと、一日四食+おやつ+夜食も食べてるんです。でもでも……ずっと、お仕事してると、すぐにお腹が減るんです。

 だ、だから、これは、その、あの……ステラ御嬢様が、楽しそうに笑われます。


「我慢すると身体に毒よ? さ、座って」

「で、でもでも」

「エリー、座らないと……『エリー、実は先生と一緒に食事をとりたくないそうなんです……』って言うから」

「!?!! テ、ティナ御嬢様、お、横暴ですっ! う、嘘つきですっ!!」

「ふふ~ん。だって、教えられてる方が、とっっても意地悪な方なんだもの。……御姉様とエリーには甘いけど」

「そんなこと」「ないですよ?」

「っぐ……無自覚? 無自覚なんですか?? いえ! そんな訳ありませんっ!! 御姉様、エリー、今日こそはそこのところをはっきりと」

「エリー、このシチューもサラダもとっても美味しいわ」 

「は、はひっ! あ、ありがとうございます。ティナ御嬢様のお陰で、たくさん、たくさん、お野菜を使えるようになったので、たくさんお料理出来て嬉しいです。そのシチューとサラダも、みんなで一緒に考えたんですよ♪」


 嬉しくなって、にこにこしちゃいます。

 ほぇ? ティナ御嬢様、どうかされましたか??


「……くっ。これだから、御姉様とエリーは……。危険です。とっっても、危険です。この二人のほわほわ空間は、危険過ぎます」 

「「?」」

「な、何でもありません。さ、早く食べましょう。……お仕事、もう少しですし」

「そうね。突貫でやれば、あと半日、ってところかしら」

「そうですね。そうしたら……」

「ええ、東都へ行けるわ。――移動手段は」

「当然、最優先で押さえてあります。御父様とグラハムの許可は取得済みです」

「そう。なら、早く終えて――……」


 ステラ御嬢様の言葉が途中で止まり、私の頬をハンカチで拭かれました。

 きょとん、としてしまい、綺麗な御顔を見ます。


「ついてたわよ。エリーは本当に、昔から変わらないわね」

「そ、そんなことない、でしゅ……ス、ステラお姉ちゃんだって――……い、今のは、ち、違うんですっ。ち、ちょっと、昔の癖が出ただけで」

「あら? お姉ちゃん、でもいいわよ♪」

「あぅあぅ。ス、ステラ御嬢様ぁぁ」

「まったくっ。エリーは、本当にお子様ですね。そんなじゃ、先生だって呆れて――……エリー?」

「? 頬っぺたに食べかすがついてました♪」

「ふふ」


 ティナ御嬢様の頬っぺたをハンカチで拭います。

 すると、御嬢様は目を丸くされました。可愛いです。

 隣のステラ御嬢様が笑われています。


「うぅぅぅぅ! ほ、ほら、早く食べて、お仕事、お仕事ですっ!」

「そう、ね……ふふ……」

「お、御姉様ぁぁ!」 

「本当に、昔と変わらないわね。――ティナ、エリー。こんな時に不謹慎かもしれないけど、私は幸せよ。アレン様達を助けに行きましょう。私達で」

「「はいっ!」」


 三人で頷き合います。

 そうです! わ、私達で、アレン先生を御救いして、それで、それで……いっぱい、いっぱい、お褒めいただくんですっ!


『エリー、ありがとうございました。君が来てくれて、とても嬉しいです』


 えへ……えへへ……えへへへ♪

 ティナ御嬢様も、頬に両手を置いて、身体をくゆらしています。

 対して、ステラ御嬢様は、少し心配そうです。



「――私達の仕事はいいとしても、グラハムがうまく交渉をまとめてくれるといいのだけれど。帝国南方限定の戦いならともかく、帝国全体との戦いになってしまうと……。そうなったら……アレン様……」

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