第4話 北の夏 上
トンネルを抜けると、見えたのは美しい新緑でした。
ティナ御嬢様が窓を開けられると、気持ち良い初夏の風が入ってきます。
「わぁ~お姉さま、見てください! とっても綺麗です!」
「ティナ、落ち着きなさい。見てますから。エリー、止めるのを手伝って!」
「は、はひっ」
ステラ御嬢様に言われて、外の景色を嬉しそうに眺められているティナ御嬢様の腰を抱きしめて離します。
……相変わらず華奢で、肌も白いです。
東都で美味しい物を食べ過ぎたせいか、最近、ちょっとだけ体重が。うぅ。
こ、こんなんじゃ、アレン先生に嫌われてしまいます。
私が黙っているとティナ御嬢様とステラ御嬢様が怪訝そうな顔で尋ねてこられました。
「エリー?」「どうかしたの??」
「い、いえ、何でも……」
「? よく分からないけど、これを食べて元気出して!」
鞄の中から、ティナ御嬢様がエリン様御手製のクッキーを取り出し、私へ取り出されました。
ち、違うんです。わ、私も持ってます。大事に大事に食べてるんです。だけど、そのあの……御嬢様にクッキーを食べさせてもらいます。
あぅぅ……誘惑に負けてしまいました……。
楽しそうにティナ御嬢様が、御自身でも食べられ、ステラ御嬢様へも渡されます。
「うん、美味しい♪ 御母様、お料理がとってもお上手なんだもの。今度、お会いする時は、私も教えてもらおうかしら」
「ティナにはちょっと難しいんじゃない? 私が習うし、必要ないわよ」
「む……お姉様、一度、聞いておきたかっんですけど」
「何?」
「先生のこと、どう思われているんですか?」
「――……よく分からないわ。ただ」
「ただ?」
「私、この歳まで殿方と親しくさせていただいた経験がないの。そういう意味では、現時点でアレン様が一番親しい存在ではあるわね」
「……はぐらかされた気がします」
「ティナはどうなの? 好きなの?」
「!?! ななななな、な、何を……」
「エリーもよ。どうなの?」
「?!? し、しょれは……その、あの、あぅ……」
ステラ御嬢様が楽しそうな口調で、ティナ御嬢様と私へ聞いてきました。
私がアレン先生を……思わず両手で顔を覆って、首を何回も振ります。
楽しそうな笑い声。
「……お姉さまぁぁ」「ス、ステラお嬢様」
「ふふ、ごめんなさい。二人が余りにも可愛くて。アレン様の気持ちがよく分かるわ。貴女達を見ている目はお優しいから――本当はこの場にいてほしかったわね」
「……先生には大事なお仕事があります。課題も渡されましたし、それに、御手紙送ってくださる、と仰ってました!」
「そうね。私ももらったわ」
「!」
「あのあの、わ、私もいただきました」
「!? そ、そんな……私だけ、特別だと思ってたのに……先生のバカ」
ティナ御嬢様が、愕然とした様子で項垂れます。
アレン先生は、そんな所で依怙贔屓はされません! だってだって、とってもお優しくて、温かい方ですから。
視線を、私の鞄に落とします。えへへ。
「……エリー?」「……どうして、そんな嬉しそうに鞄を見てるの?」
「! な、何でも、何でもありませんっ。べ、別にエリン様からは何も……あぅ」
「ティナ」
「はい!」
「あぅあぅあぅ、な、何も入ってないですぅ。か、返してくださいぃ」
「――こ、これは!」
「古い映像宝珠? 数枚しか撮れない廉価版ね」
「あぅぅぅぅ」
ティナ御嬢様とステラ御嬢様に見つけられちゃいました。
折角、エリン様から『エリーちゃんは、私の名前が似ているから、特別に』といただいたのに……。
御二人が、中を確認されています。そして
「「……エリー」」
「あぅあぅあぅ。か、返してくださいぃぃ。わ、私の宝物なんですぅ」
「先生の小さい頃の映像じゃない! 東都で見せていただいて、わ、私も欲しいと思ってたのに!」
「エリー、他にも持っていないの? 今、話せば――味方になってあげるけど」
「! 御姉さま、私を裏切るつもりですかっ」
「ティナ、恋は戦争、らしいわよ? カレンが言ってたわ」
「な、何もないですぅ。もうっ!」
ティナ御嬢様から、宝珠を取り返して胸元で抱きしめます。
う~。頬を膨らまして抗議です。
「テ、ティナ御嬢様、それにステラ御嬢様まで……酷いです。あ、あんまりです。もう見せてあげませんっ!」
「エ、エリー、それは……」
「そうね、ごめんなさい。やり過ぎたわ。お願いだからもう一度見せてくれる? そしたら――」
「!」
「ね?」
「…………分かりました」
「む~! 二人で、勝手に話を進めないでくださいっ! そ、それと、今、御姉様が見せたのは何ですかっ! 秘密の気配がしますっ!!」
「「別に何でも」」
「む~!!」
ティナ御嬢様が地団太を踏んで、むくれられます。とっても――愛らしいです
ステラ御嬢様と顔を見合わせ、くすくす、と笑ってしまいました。
ますます、頬を膨らました御嬢様は、顔を窓へ向けられます。
――その姿を見た時、とっても温かい気持ちが沸き上がってきました。
数ヶ月前まで、こんな風に楽しい時間を三人で過ごせる、なんて考えられませんでした。
それも全部全部――えへへ。嬉しくなって、後ろからティナ御嬢様へ抱き着きます。
「! ち、ちょっと、エリー!?」
「えへへ♪ ティナ御嬢様、大好きです!」
「……私も大好きだけど、でも、さっきの事、許した訳じゃないんだからねっ! 御姉様も、撮らないでくださいっ!!」
「えー。アレン様へ送らないといけないでしょう?」
「だ・め・で・すっ!」
――汽車は私達を乗せたまま進んで行きます。
もう少しで北都です! 帰ってきましたっ!
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