第29話 真相
「姉様――先生は今、私達の授業で此処に来られています。こういうのはルール違反だと思います」
「ティナ、大丈夫ですよ。ありがとう」
「……申し訳ありません。これがルール違反なのは重々承知しております」
「カレン?」
「今日、この子が余りにも思い詰めた表情してたから聞き出したんです」
「ふむ……」
ちょっと虚を突かれてしまった。
――さっき、アンナさんからの報告書を確認していたのに。
やっぱり、ポンコツなのは僕ですよ、アンナさん。
僕が黙ったのを見て不安に思ったのだろう、ステラ様が口を挟んだ。
「……アレン様、その……気分を害されたのは仕方ないのですが、責めるのは私だけに」
「ああ、失礼しました。自分に呆れ返っていまして――ステラ様、友人思いなのは素晴らしい事です。カレンも。僕は優しい妹を持てて本当に嬉しい――だけど、何と言ったらいいかな……」
「――兄様のお立場をお考え下さい。兄様は誰よりもお優しい方です。このような話を聞いてしまえば、何とかして下さるでしょう」
「ですが、先生は、この件で両公爵家を代表されているのです。身内に相談されたからと言って、手心を加えるのは決して褒められた行為ではありませんっ!」
リィネとティナが冷たく言い放つ。
……言ってる事は正しい。
だけどそんなにキツイ言い方をしなくても。フェリシアが少し涙目になってるよ?
やれやれ――二人に向けて手を振る。浮遊魔法を発動させて僕の隣へ。
「ひゃぅ」「あぅ」
「二人とも、僕の事を想って言ってくれてるのは分かります。ですが――」
全てを承知した上で此処に来られている人の勇気を責めてはいけません。二人には出来れば、きちんと褒めれる女性になってほしいと僕は思います」
「はい……あの、兄様……」「先生……人前で頭を撫でられるのは、その……」
「何時もは自分達から要求するでしょう?」
「……意地悪です」「……そうですっ!」
頬を赤らめながら同時に抗議してくる二人――仲良しだなぁ。
エリー、いそいそとこっちに来てどうしたんだい?
仲間外れは嫌? 仕方ないなぁ……。
三人の頭を撫でつつ、呆気に取られているフェリシアへ話しかける。
カレン――そんなにむくれないの。ステラ様、どうしかしましたか?
「申し訳ない。まだまだ子供で……甘えたがりなんですよ。さっきの言葉は気にしないで下さい」
「……リィネ様とティナ様が仰られた事は正しいです。友人の力を借りて、無理矢理押し掛けて来ているのですから」
「けれど、フォス商会を実質的に差配されている身としては看過も出来ない、という事ですか?」
「!?」
「取引をする際、相手の事は出来る限り調べています――最初は気付きませんでしたが」
アンナさんの報告書に書かれていたのは、ここ数年に渡るフォス商会の決算状況分析だった。
――綺麗な右肩上がり。
けれど、表にすると一年だけ激しく落ち込み、赤字になってる年がある。
そう、この見え方が問題だった。
「この年は先代――つまり、貴女のお爺様が亡くなられ、現代表が就任された年ですね。てっきりその影響によるものと先日の交渉時は判断してしまいました。けれど……終わった後で分析をして奇妙な事に気付いたんです。実際には一年以上に渡って落ち込み続けていましたね?」
「兄さん、それって……」
「月別の取引を調べて分かったんだけどね。低迷を続けていた二年目の途中から、突如として好転し始めている。結果、その年は黒字だ」
「…………」
フェリシアが視線を此方へ向けてくる。
どうやら落ち着いたみたいだ。
「これだけ見ればエルンスト代表が敏腕を発揮したのかもしれない――けど、先日の商談で感じた印象とズレる。リィネ、君がさっき渡してくれた資料で疑問は氷解したよ――フェリシアさん、貴女が王都へ出て来られたのは、黒字転換する少し前なのでは?」
「…………その通りです。私は子供の頃、身体が弱かったのでずっと田舎で静養していました」
「リンスター家のメイド長で、頼りない僕を補佐してもらっているアンナさんとメイドさん達が調べてくれました。……さっきまで気付きませんでしたが。資料上に貴女を思わせる内容は何も残っていないですしね。商談に同行する事はあっても、その場では口を出されていないからでしょうか?」
「……何故、私だと?」
フェリシアの顔には疑問の色。
この子、とっても賢いけど真面目過ぎるな。
「僕が商談をしたのはつい一昨日のこと――それにも関わらず、事情がありながらも此処に来た行動力と、貴女がさっき言った言葉で。普通の学生さんは幾ら実家が商家でも、条件内容を確認したりしませんよ」
「……流石です。噂通りのお方ですね」
「噂? 僕のですか?」
「はい。こんな機会ですが――お会い出来て光栄です。カレンのお兄様なのは今日初めて知りましたけど」
色々やってるのはあの傍若無人な腐れ縁であって、僕ではないんだけどなぁ。
巻き込まれてるだけで、何をしてる訳じゃないのに。
……君達、さも当然、みたいに頷かないの!
「僕は凄くないんですよ。凄いのはリディヤ――『剣姫』です」
「……先生」「……兄様」「……アレン先生」「……兄さん」「……アレン様」
「ふふ、アレン様、どうやら皆様、そうは思われていないみたいですよ?」
「……この話はここまでにしましょう。フェリシアさん」
視線を向ける。
緊張した面持ち。多分、これから言われる内容を理解しているから。
やっぱり真面目な子だ。
仕方ない……後でリサさんからの折檻は覚悟しよう。
「手心を加えてあげる事は出来ません。僕個人としてなら協力は惜しみませんが……両公爵家の交渉担当者としては、内容と相手を信頼出来るかのみで決めます――申し訳ありません」
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