第二十話 男子高校生はプレゼントを交換する
前話のあらすじ
チョコレートの祭典バレンタインデー。るちあの提案でプレゼント交換会をすることに。クリスマスイブのストリップ事件を忘れた彼女は、自分からメイド服を着たいと言い出して、今度は乳首を晒してしまう。それを俺が見たことに夕夜が怒り、俺の彼女の裸を見せろとバカなことを言い出した。
◇◇◇
「お前じゃない。お前の彼女の裸を俺に見せろ!」
ん? 俺の彼女?
「誰のことだ? ソレ」
相変わらず、夕夜の言うことは意味不明だ。
俺は最近、コイツのことをホントの馬鹿なんじゃないかと密かに疑い始めている。
「なにトボけてんだ? お前の彼女と言ったら
あー、やっぱり。馬鹿な夕夜め。そう言うと思ったぜ。
俺と
俺は男の美学を貫き通して、キスする時は自分で決めようと思ってたのに……。
「お前が、俺と樹理亞が付き合ってるなんて言い出すからなあ! 俺は樹理亞に笑われるわ、
そこまで言ったところで、ふと視界の端に唖然とした我が親友の顔が映る。
「……言っちゃったけど、ホントに付き合ってまーす!」
「は?」
夕夜はポカンとした顔で俺を見る。
危ない危ない。宏海には俺と樹理亞が付き合ってると言ってしまったんだ。ヤツだって樹理亞のことが好きなくせに、俺に遠慮して自分の心を偽ってるんだ。今さら『ホントは付き合ってない』なんて言えるハズがない。
もしそれを言ったら今度こそ宏海は俺から彼女を奪い取って行くだろう。ヤツは今年になって急に他の女の子たちからチョコを受け取らなくなったんだ。どれだけ樹理亞のことを想っているのか、それだけでわかってしまう。
もしも彼女を奪われたら、俺はどうすればいいのだろうか。
「やっぱりお前ら、付き合ってるんじゃねぇか!」
うん。でもホントは違うんだよ。樹理亞にそう言われてしまったんだから。
彼女の理想の彼氏って宏海のような男らしい男……だと思ってたんだけど、先日、俺にこう言った。
『可愛いわ、
しかしこの言葉にはいくつもの解釈が成り立ってしまう。
解釈その1『可愛い男が理想なの。雪緒と結婚したいわ』
解釈その2『可愛い雪緒は大好きよ。でも男としては見れないの』
解釈その3『雪緒はどうせ男っぽくならないから可愛いままがいいよ。友達だからアドバイスするけどぉ』
『解釈その1』であって欲しいけど『その2』の可能性だってないわけじゃない。いや、そっちの方が濃厚な気がする。
でも、もしも『その3』だったなら、俺はこの先、生きて行けない。
いったい樹理亞は俺のことをどう思っているんだろう?
でもそれを確認する前に、まず今の俺の問題に決着をつけて、すべてを話さなければならない。それから彼女に聞いて……。
「聞いてるのか? 東條! 門倉の裸を俺に見せろって言ってるんだよ!」
「ガチャーン!」
夕夜が叫んだ直後、壮絶な破壊音が耳をつんざく。
本来ならいったいなにが起こったのかと慌てるところではあるけれど、俺たちはどういうわけかこの音に聞き覚えがあった。
夕夜の家のリビングのガラス戸が割れる音である。
そして、この惨劇が誰のしわざによるものなのかも一瞬にして理解できた。
「あんた! なんてこと言ってるの!」
廊下へ続くドアの前にるちあが仁王立ちしていた。
「うわぁ! なにするんだ? このガラス、入れ替えるのに三万もかかったんだぞ!」
「なぁんだ。意外と安いじゃない」
そう言って、彼女は手に持っていた大きなビンを、別の割れていないガラス戸に向かって投げつける。未成年は飲んじゃいけないボルドー産のブドウジュースのビンである。
ふたたび襲いくるだろう破壊音に備えて、両手で耳を覆って目をつぶる。
でも、なにも聞こえない。
恐る恐る目を開けてみると、投げられたビンはガラスを直撃する寸前に、夕夜の手でキャッチされていた。
「お前なぁ!」
「なによ!」
「……」
このやり取りだけで
アダルトビデオ事件で弱みを握られている夕夜に勝ち目はないのだ。
「雪緒はどうしたいの?」
いつの間にか樹理亞もリビングに戻ってきていた。
夕夜の顔が面白いくらいに青くなる。裸を見せろなんて本人に聞かれたら気まずいことくらい誰でもわかるハズ。やっぱりこいつは馬鹿だ。
でも、俺がどうしたいか……だって?
コイツに裸を見せるかどうか俺に聞いてるのか?
「そんなの……ダメに決まってるじゃないか。夕夜だけじゃない。誰にも見せちゃダメだ」
俺の本音が口から勝手に漏れていく。
そんなことを言う資格なんか、俺にはないというのに……。
「わかったわ、雪緒。あなた以外、誰にも見せない」
樹理亞は嬉しそうに微笑んだ。
「だいたいねぇ! 樹理亞のおっぱいが見たいだなんて、あたし彼女として恥ずかしいわ! まぁ、でも、そんなに見たいなら……」
るちあはそこまで言って、チラッと俺の顔を見る?
ん? なんだ?
「東條くんのおっぱい、見せてもらえばいいじゃない。こないだみたいに」
あー。そう言えばそんなことも……。
……って、なんで俺が?
「こないだってなんだ? なにがあったんだ?」
今まで黙って見ているだけだった宏海が、どういうワケか急に立ち上がって怒ったように声を張り上げた。
そして俺の顔を睨みつける。
「ええと……あれはたしか、体育の授業の後に乳首が擦れて赤くなって痛くって、それを夕夜に診てもらったんだよ」
「なんで
宏海の目が真剣だ。
なんでって、そんなの……。
「ちょうどそこにいたからだよ。おかしいか?」
「おかしいだろう! お前は近くにいたら誰にでも……」
そこまで言って、宏海は急に向こうを向いて黙ってしまった。
なにを怒ってるんだ?
◇◇◇
「さて、なんだかいろいろあったけどぉ、お楽しみのプレゼント交換だよ!」
割れたガラスを片付けて、寒風吹き込むサッシに段ボールをガムテープで貼り付ける。そんな作業を続ける彼氏を見下ろしながら、るちあが持ち前の切り替えの早さでイベントを進行させていく。俺たちはテーブルの上のお菓子やジュースを片付けて、それぞれが持ち寄ったプレゼントを並べた。
「プレゼントは抽選で振り分けまーす。ただしぃ、自分のプレゼントに当たっちゃった場合と、カップルがお互いのパートナーからのプレゼントに当たった場合はやり直しとしまーす」
るちあが楽しそうに説明する。
でも、そんなの聞いてないぞ。自分のプレゼントはわかるけど……。
「そんなルールなの? 俺、樹理亞向けのプレゼント用意しちゃったよ」
「だってぇ、それじゃぁ面白くないでしょ!」
そう言って微笑むるちあ。それって、二人でプレゼント交換するのに飽きた君らの理屈だよね? まぁそれはこのパーティーに参加した時からわかってたことだし、いまさら突っ込むことでもないけどさぁ。
「じゃあみんな、持ってきたプレゼントをテーブルに置いて、コレを貼ってね」
るちあから渡されたのは数字が書かれた付箋だった。高校受験の時に参考書の重要な箇所にパステルカラーの付箋をたくさん貼ったのを思い出す。
るちあは丸く穴を開けた段ボールの箱を持ってきた。表面にチェック柄の包装紙を貼り付けた手製の抽選箱だ。こんな小物一つにこだわって飾り付けるなんて、女の子の感性って可愛いなぁ。
「すごいね、それ。るちあが作ったの? 」
「ううん。夕夜よ」
は? ソウデスカ。
それから彼女はリビングの壁に作りつけられた大きな棚の前まで行くと、ガラス扉を開けて中からゴルフボールをいくつか出してテーブルに並べ始めた。それを何に使うのかと見ていると、黒いサインペンのキャップを外してゴルフボールに番号を書き出す。
ここは夕夜の家だよね? 勝手に棚を開けて、おそらくは夕夜の親父さんのものだろうゴルフボールを出して、こんな遊びに使っちゃうの?
ウチの親父は趣味が釣りくらいのものだけど、釣り竿や道具類に勝手に触ると烈火のごとく怒ったものだ。だから、彼女の行動を見ているうちに俺はどんどん不安になってくる。
でも、夕夜はなにも言わない。ひょっとして彼女は、この家である程度自由にすることが許されているのだろうか? 二人の付き合いは両親に公認ということなのかな? でも、一人息子の彼女というだけで、ゴルフボールを遊びに使っていいものだろうか?
俺の視線は無意識に樹理亞を探す。彼女も数字の書かれたゴルフボールを見つめていた。
「さぁ、やるわよ! 若い順にいこうかな? 最初は三月生まれの
松崎とは宏海の苗字だ。五人の中で一番身体がデカイくせに、一番産まれが遅かったのか。
数字を書き終わったゴルフボールを抽選箱に投げ込み、るちあは全員を見回してプレゼント交換会の開始を宣言した。
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