第47話 一騎討ちへ……

「ふっ……、ふふ……」

「……、……」

「ふふふ……、ふはは、ふはははははっ!」

「何がそんなにおかしいっ!」

アリストスは、顔をゆがめたまま笑い出した。

 ゴードンは、笑うアリストスを不快そうに怒鳴りつける。


「私が、裏切りのオーブを持っていると?」

「……、……」

「それでルメール宰相を操っていたと?」

「……、……」

「ふふふっ……、もしそう思うのなら、何故、私に緊縛呪を仕掛けないのです?」

「……、……」

「取り押さえて、身体をあらためれば良いじゃありませんか?」

「……、……」

アリストスは、酷薄な表情で語り続ける。

 先ほどまで、あれほど貴公子然とした顔に見えたアリストスが、悪魔でも宿したかのように、陰惨な笑みを浮かべて……。


 だけど、やっぱり卑怯者はそう言うだろう?

 暗黒オーブ……、どうしてアリストスに緊縛呪を撃たなかったんだ?

 俺みたいな戦いの初心者でもそう思うよ。

 小手はあるけど、少しでもリスクは排除した方が良くないか?


「あなた方は甘いっ! 私を追い詰めれば、すべて認めて大人しく捕まるとでも思ったのですか?」

「……、……」

「それとも、王命に逆らったら、私が王宮にいられなくなるから、そんなことをしないとでも……?」

「……、……」

「ふふっ……、甘いですよ。私はこの国でなくても生きていける。そして、すでに他国に渡る準備も出来ている」

「……、……」

「私にこの大いなる力を授けてくれた、あの人の下へ……」

「……、……」

「いつでもこの国を棄てられるのですよ」

「……、……」

「ふふっ……。先ほど私を捕らえなかったことを、死ぬほど後悔していただきましょうか」

「……、……」

アリストスは、そこまで言うと、大きく後ろに飛び退いた。


「負の心に宿る精霊の御名に於いて、オーブよ目覚め聞き届けよ……」

アリストスは、酷薄な笑みを浮かべたまま、呪文を唱えだした。


「……、精霊の意志によりて、人を操る魔を召喚す。現れ来たり、力を示せっ!」

呪文が警備庁の広場に響く……。

 しかし、ヘレンも、アイラも、ゴードンも、身じろぎもしない。


 ただ、エイミアだけが俺を強く抱きしめ、頬を俺にすりつけたまま不安そうに震えている。


 呪文を唱え終わったアリストスの額から、濃いねずみ色の煙が立ち上る。

 そして、そのねずみ色の煙は球となり、大きく膨らんだ。


 ……って、これ、緊縛呪のグレーバージョンだな。

 やっぱり、同じ闇のオーブだから似てるってことかな?


「せいっ!」

アリストスの気合い声とともに、ねずみ色の球は、音もなく高速移動を始める。


 誰だ?

 誰を狙ったんだ?


 真っ直ぐ、俺達に向かってくるねずみ色の球……。

 あ、アイラだっ!

 アリストスの奴、アイラを狙ったんだ。


 狙われたのを自覚したのか、アイラがわずかに動き、左腕を顔の前にかざす。

 ねずみ色の球は、真っ直ぐにアイラの左腕の小手に向かうと、そのまま当たり吸収された。


「ふっ、ふははっ! アイラさえ操ってしまえば、あとは何とでもなる」

「……、……」

「アイラは確かに強い。何処の国の強者と戦わせてもひけをとらないくらいにね」

「……、……」

「さあ、アイラ……。私の言うことを聞けっ! まずは、秘密を知ったその三人を殺してしまえっ!」

「……、……」

アリストスは高笑いとともにアイラに命令した。


 俺の胆が縮み上がる。

 た、頼むっ!

 小手よ効いていてくれっ!





「んっ? どうした、アイラ。何故、命令通りに動かない?」

思惑と違い、アイラが動こうとしないのを見て、アリストスが懐疑の声を上げる。


「ほらっ、さっさと命令通りにしろっ! オーブの命令が聞けないのか?」

「……、……」

「ま、まさか……、シュレーディンガー家の末裔だから効かないとでも言うのか? アイラが聖剣を使えるとでも?」

「……、……」

「いや……、そんなことはない。昔、デニス国王は裁きのオーブを持たない状態で操られたと聞いている。今は裁きのオーブに護られて、まったく効かないけど……」

「……、……」

「おかしい……。おいっ! アイラ、動けっ! 俺の命令通り、そいつらを殺せっ!」

「……、……」

半狂乱になるアリストスだが、アイラは命令通りにしようとはしない。


 それどころか、狼狽の極に達したアリストスをにらみつけ、小首を傾げると、

「クスっ……」

と笑った。


「アリストス様……、無駄でございます」

「……、……」

ヘレンが静かに語りかけた。

 アリストスは目を見開いて、ヘレンの方を向く。


「私達は暗黒オーブに護られております。ですので、あなたの裏切りのオーブは効きません」

「なっ、何ぃっ!」

「あなた様は仰られましたわね、何故、緊縛呪をアリストス様に撃たなかったのかと……」

「……、……」

「それは、暗黒オーブがあなた様を撃たないことを選択したからです。暗黒オーブの意志なのです」

「暗黒オーブの意志?」

「はい……。それに、あなた様が魔術を使っても無駄なことを、暗黒オーブ自身が分かっていたからでございます」

「……、……」

ヘレンは変わらず静かに語り続ける。


「暗黒オーブは、私達に教えてくれようとしたのでしょう。あなた様の背後に、もっと大きな力が働いていることを……。このロマーリア王国を無きものにしようと画策する者がいることを……」

「……、……」

「そのことを、アリストス様自身の口から語らせたかったので、暗黒オーブは敢えてあなただけを自由にし、あなた様の油断を誘ったのでしょう」

「……、……」

「私は、最初から疑問に思っていたのです。新たなオーブがこの王宮にあり、デニス国王陛下の意に背こうとしているのなら、何処からそれが王宮内にもたらされたのかを……」

「……、……」

「はからずも、あなた様はその疑問に答えて下さいました。他国の人なのですね? その裏切りのオーブを授けた人は……」

「……、……」

「お聞きいたします。誰なのです? その、大いなる力を授けてくれたあの人……、とは?」

「……、……」

「お答えになって下さい、アリストス親衛隊隊長様っ!」

「くっ……!」

ヘレンの厳しい追及に、アリストスが急にきびすを返す。

 そして、自身の乗ってきた馬に向かって走り出した。


「させるかよっ!」

予期していたのか、アイラがその後を追い、すぐに追いつくと、馬に乗りかけたアリストスの尻をハイキックで蹴り上げた。


 蹴りを食らい、バランスを崩し馬の向こうに落ちるアリストス……。

 その身体に、さらに一撃加えようと、アイラがサッカーボールでも蹴るような蹴り放つ。


「ざっ……」

しかし、アリストスは辛うじてそれを避けた。

 海老のように地面を擦って飛び退いたのだ……。


 そして、二人の間に入った馬に阻まれて追撃出来ないアイラを確認しながら、素早く立つと、腰の剣をスラリと抜いた。


「アイラっ! 私も親衛隊の隊長だっ! 尋常に勝負しろっ!」

アリストスは、そう甲高い声で言い放つと、馬の陰から出て、アイラと正面から対峙する。

 油断なくアリストスをにらみつけるアイラ……。


「ふんっ……、尋常な勝負だと? 何を言ってやがる。馬に乗って逃げようとしたくせに……。それに、魔術が効かなくて、もうそれしか手段がないんだろう?」

「うるさいっ! このアリストス、おまえみたいな小娘に遅れはとらんからそう思えっ!」

「上等だよっ! あんたは、あたしに負けたら死ぬほどキツイ拷問が待ってるんだ。死ぬ気でかかって来いっ!」

「……、……」

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