第26話 尋問

「まず、お茶でもいかがですか?」

「……、……」

ヘレンは、テーブルの上にあるお茶を、太った中年の男に勧めた。

 中年の男は、それを強張った顔で見つめている。


 テーブルは、先ほどアイラが脚を切り落としたものだ。

 ロベルトが応急処置をし、とりあえずテーブルとしてまた使えている。


 中年の男の向かいにはヘレンが座り、テーブルの左右にはニックとアイラが陣取る。

 ロベルトは中年の男の後ろに立ち、エイミアは少し離れたところに俺を抱いて座っている。


「こちらの対応を看ていただければ、敵意がないことは明らかだと思います」

「……、……」

「警備隊の皆様の治療もさせていただきましたし、今、外ではイノシシの肉なども振る舞わせていただいております。まだ、身体が本来の感じに戻っておられない方もいるようですので、野営の準備もさせていただきました」

「……、……」

中年の男は、ヘレンが柔らかく対応すればするほど怯えた表情となり、相変わらず何も言わない。

 何も言えないのか言わないのかは分からないが、明らかにこちらを警戒しているようだった。


「では……、本題に入らせていただきます」

ヘレンは、これ以上当たり障りのないことを言っても意味がないと悟ったのか、いままでのにこやかな表情を引き締めた。


「あなたの名前と身分をお答え下さい」

「……、……」

「聞こえませんでしたか?」

「スミスだ。ランド地区の警備署長だ」

「ようやくお答えいただけましたね、スミスさん。先ほどから申している通り、私共はそちらに危害を加える気は毛頭ありません。ですので、職務上答えられないことは、答えなくても結構です」

「……、……」

「ですが、私共を捕らえに来たことは明白のように感じましたので、その理由をお聞かせ願いたいのです」

「理由……?」

「これだけの人数で捕らえにいらっしゃったのですから、当然、それなりの理由がございますよね?」

「上からの命令があったからだ」

「上から……? 具体的にどなたから命令があったか教えていただけますか?」

「それは知らん。わしらは警備総長に命じられて来ただけだ」

「……、……」

「そもそも、重大事であればあるほど、わしらのような地方の警備隊に、理由など明かされるわけもない」

スミスは、やみくもに酷いことをされないのが分かったようで、口を開きだした。

 まあ、確かに、何処の世界でも、下っ端には何も知らされないのは当然かもしれない。


「では、具体的に、誰を捕らえに来たか教えていただけますか?」

「ホロン村の武闘家アイラ、占い師ヘレン、薬屋エイミアだ。おまえらで間違いあるまい」

「こんなか弱い女三人に、わざわざ一個中隊でですか?」

「ふんっ……、か弱いとは片腹痛い。武闘家アイラは、バロール一家を壊滅させた際に一味の者三十人以上を一人で叩きのめしたと報告書が来ておる」

「それ、少し誇張して伝わっていますね。正確には、二十六人だそうです」

「二十六人だろうが三十人だろうが、大差ないっ! どちらにしても化物みたいに強いだろうがっ!」

「……、……」

「それに、誰か分からんが、魔術を使う者がおるから弓隊で行けと指示があった。遠巻きに囲えともな……。だが、指示では大人数なら大丈夫だと言っておったのに……」

「……、……」

魔術を使う者……、と聞いて、ヘレンはアイラとかすかにうなずき合った。

 やはり、暗黒オーブを使えることも、俺達が持っていることもバレている。

 ただ、スミスは正確に誰が使えるとまでは知らないようだ。


「スミスさん……、私共も困惑しているのです。実は、つい四日前に、私達は王宮にバロール討伐の報告に参ったのです。そこでは宰相閣下にもお会いしましたし、国王陛下とも直にお話をさせていただきました」

「……、……」

「宰相閣下などはたいそう歓迎して下さり、褒美に馬車やお金まで下さったのです」

「……、……」

「それが、いつのまにか罪人のような扱いをされたのですから、私共もどうして良いか分からないのです」

「わしにそんなことを言われても、何とも言えん」

「……、……」

「ただ、おまえらが敵意を持っていないのは分かった。手厚い看護もありがたいと思っておる。しかし、わしも職務だ。おまえらを捕まえないわけにはいかんのだ」

スミスは、根が正直なのか、意外と色々と喋ってくれた。

 もしかすると、本当に治療に感謝しているのかもしれない。


 それからも、ヘレンは色々とスミスに質問したが、返ってくる答えに有益な情報はなかった。

 スミスは本当に命令されただけのようだし、職務の失敗をどう上司に報告するかで頭がいっぱいのようだった。

 まあ、一個中隊が、なすすべもなくあっという間に戦闘不能にされたのだから、どう申し開きしても警備総長は納得しないだろうが……。


「そうですか……。スミスさんもお困りなのですね」

「……、……」

「では、こうしたらいかがでしょうか? 私共が警備隊に同行し、警備総長様に直接出頭すると言うのは……」

「つまり、罪人として大人しく出頭すると言うのだな?」

「いえ……。私共は何ら罪を犯してはおりませんので、罪人ではございません」

「……、……」

「ですが、あらぬ疑いをかけられているのを釈明もしなかったら、それはお国に対して反逆しているのと同じでございます。ですので、どんな罪で告発されているのかを警備総長様に直接お聞きし、誤解を解きたいと思います」

「む、むう……」

スミスは困ったような表情を見せた。

 今まではそれでも虚勢を張っていたようだが、つい、素が出てしまったかのようだ。


 それにしても、さすがにヘレンだ。

 とんでもないことを提案する。

 自ら乗り込んで行って、直接情報を掴もうと言うのだろう。


 とりあえず俺も緊縛呪が使えるし、アイラが一暴れすれば一個中隊と言えども何とかなるだろう。

 あと、良く考えてみれば、警備総長に会うまでは警備隊が護衛してくれているようなものだから、その間は襲われる心配もない。

 見えない敵に怯えるよりも、敵の懐に飛び込んでしまった方がよほど安全とも言えそうだ。


 それに、スミスはともかく、警備隊の下士官達は、エイミアにとても好意を持っているようであった。

 まあ、得体も知れぬ魔術から解き放ってくれたのは紛れもなくエイミアなのだから、それも分からないではない。

 口々に感謝の言葉を投げかけられて、エイミア自身は戸惑っているようであったが……。


 ただ、不心得にも、エイミアの手を握ろうとした奴が何人もいたのには、内心で怒りを覚えた(もちろん、エイミアはすぐに手を引っ込めて、それに応じようとはしなかったが……)。

 エイミアの手は、俺を抱くためにあるんだ。

 おまえらが気安く触って良いわけがないだろっ!

 ドサクサに紛れて、とんでもないことをしやがって……。





「わ、わしには何とも言えんっ!」

散々考えた揚句、スミスはこう言い放って判断することを止めてしまった。


「では、私達が勝手に警備隊に付いて行ったことにしましょう。スミスさんも手ぶらでは帰れませんでしょう?」

「か、勝手にせい」

「そうですか……。では、勝手に付いて参りますね」

「……、……」

ヘレンはニッコリ笑ってそう言うと、席を立った。

 そして、

「さあ、スミスさんもイノシシの肉をお食べ下さい……」

と、困り切っているスミスの手を取り、小屋の外に連れ出すのだった。

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