あなたのドラゴン、差押えます~アラサー公務員の異世界徴税~

作者 飛野 猶

異世界転移の新風

  • ★★★ Excellent!!!

拝読して驚きました。
この物語の主人公には、異世界に転移するにあたって何のチート能力も与えられていません。
元の世界で税金徴収の公務員をしていたわけですが、転移先のファンタジー異世界では国の制度、法体系が全く違うので、彼の知識はそのままでは役に立ちません。
彼にあるのは、元の世界で働く中で培った経験からくるもの、例えば人の嘘を見抜く力とか。後は目の前の問題に誠実であろうとする人柄だけなのです。
その彼の頑張りが、人々を、人ならざる竜をも動かし、なんと世界を変えていく。
にもかかわらずストーリー展開に不自然なところは無く、伏線が巧みに機能していて、作者の筆力に感嘆します。

主人公の性格も、絶妙なバランスで設定されています。
悪い意味での大胆さ、俺は凄い、無双してやる、劣った異世界を啓蒙してやる、異世界人は俺の引き立て役で女は俺についてこい、そういう鼻につく不遜さが一切無い。
ファンタジー異世界というのは魔法が発達している代わりに現代日本より封建的だったり科学が未発達だったりするわけですが、彼は異世界に対して謙虚で、そこに住まう人々に敬意を払い、現代日本の価値観を一方的に押し付けることなく、過ちを自省できる、そして女性に対して紳士的に振る舞う、常識人でその中で自分の信念を持った人間です。
また、近年の異世界転移の定石を覆し主人公が元の世界にリアルな未練を持ち、残してきた仲間や好きなひとがいる。主人公の周囲を魅力的な男性キャラが囲んでいる。
この作品が従来の異世界転移と違う、異世界系が苦手な人でも読めたという声が多い理由はそれらにある思います。
しかし、そうやって差別化をはかりつつ、異世界系の良い部分、基本をしっかり押さえているのがこの作品の凄いところです。
決してでしゃばるのではなく自然にですが、ここぞという時には主人公が必ずアイデアを出し、仲間の協力を得つつ主人公がきちんと主導して問題を解決し、読者の期待に応え続けている。
主人公の周囲の人間も、主人公を序盤から凄い流石と簡単に褒めたり惚れたりするのではなく、問題解決を経て自然に信頼関係を築いていきます。
この自然な運びは、作者に実力があるからこそでしょう。

作品内容は、タイトルから税金徴収の専門的で難しい設定が多用されているのかと思いきや、そういう知識の無い読者に分かり易く一般化されていて、税金徴収の仕事を出発点にしながら読者の共感できる人情味のあるエピソードで構成されています。
作者は税金徴収の仕事に専門的な知識をもっておられますが、その知識を最低限に抑えて異世界ファンタジーに昇華しておられる。日本のみならず海外にも展開できる内容です。
また各エピソードは、伏線が短いタームで回収されるから読み易いですし、個々のキャラクターに効果的に光が当てられ、世界観も少しずつ明らかになっていくので頭に入り易い。

結論として、テンプレの良い部分を活かしつつ差別化がはかれており、読み易く、共感でき、面白い。異世界転移を書く人間としてこの作品には学ぶところが極めて大きく作者の猶様には敬意を表したいですし、一見カテゴリーエラーに思える要素があるにもかかわらず本質を見抜いて受賞を決めたKADOKAWA様の慧眼に拍手を送りたい。このような良作が受賞・書籍化されるならカクヨムコン、ライトノベルというジャンルには大いに希望がもてます。

最後に、受賞おめでとうございます。出版の日を楽しみにしております。

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