紅雨「私、高校生になったら友達....が欲しいの」


母 「あら。あーちゃんがそんなこと言うなんて珍しいわね」


紅雨「お友達と.....お買い物とか、実はちょっと羨ましかったn」


父 「俺はあーがそうやって言ってくれて嬉しいぞ!」

  「俺が良いお友達が出来る秘伝の技を教えよう。」


父親が食い気味でそう割り込む


母 「あなただって大して友達いなかったでしょう....」


父 「そ、そんなことないじゃないか。ないぞ?あー!信じてくれ」


母 「いつも教室の角っこの席に座ってひとりで本読んでるお父さんに私が話しかけてあげたのよ〜」


父 「う、うるさい....」


紅雨「ふふっ。私、やっぱりお父さんに似てるのかな?」


母の猛攻にどんどん萎んでいく父親と和かな母の表情。

中々口で言い表すのも難しい。うーむ。そうか、恋する乙女はこんな顔をするのだろうか。


ふふっ


いつでもこうやってみんなで楽しくおしゃべりして、笑って、そんなこの家が私は大好きだ。

夕ご飯の時のお父さんとお母さんの話はとっても面白くて、学校で思い出すと不思議とひとりでに笑いがこみあげてくる。


みんなが学校終わりに友達と遊びにいく中、私は真っ先に家に、大好きなお家に帰ってしまう。


教室でなんだかわからないがいつも1人で笑っていて、帰りには気づいたらもういない。

でもそんなことばかりしていたから、いつの間にクラスメイトの輪からは外れていた。



男1「なぁお前!」

紅雨「痛い....蹴らなくてもわかるってば....」

男1「お前、変な薬飲んでいつもひとりで笑ってるってマジ?」

男2「キモすぎ」

紅雨「違っ」

  「行っちゃった....」


女1「ねぇ蝶ちゃんてなんか不気味だよね」

女2「なんか、障害があるみたい」

女3「あんまり近づかないほうがいいよ」


担任「なぁ紅雨、ちょっといいか」

紅雨「は、はい」

担任「ちょっとこっちへ来てくれ」


  「放課後に知らないおじさんと遊んでいるというのは本当か」


紅雨「えっ...?」


担任「なにか悩み事があったらなんでも言いなさい」


先生まで


あらぬ噂話を


「もう嫌だ」

いやいやいやいや

なんで。私は何もしていないのに。なんでなんで。


私の居場所はこの家しかない。頼れるのはお母さんとお父さんしかいない。

そう妄信していた。


でも結局学校でのことは言えなかった。


たった1つの私の居場所まで暗く滲んでしまうんじゃないか。

この話をしたらお母さんとお父さんの私を見る目は憐れみを含んで黒く濁ったものになるんじゃないか。

そうなったら私はどこに居ればいい?


怖かった。でもそうやってまた私は1人になって自分を苦しめた。




父 「そんな昔話はもうどうでもいいんだ」

  「友達ができる秘伝の技はだな」



  「あいさつすることだ」



紅雨「挨拶.....」


父 「そう。挨拶だ」

  「お母さんが俺に最初に話しかけた時はな」


母 「ちょっとお父さん?」


お。形成逆転か?


父 「緊張してたのか知らんが裏返った声で『ごきげんよう』って。思わず笑っちゃったよ」


母 「お父さんは明日お夕飯抜きね」


父 「そっそんなぁ」


紅雨「あははっ」


今日も母の勝利だ。

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