第105話 帰る場所

「スーヤ、頼む」


つちふる


俺の掛け声にスーヤが呪文を唱える、目の前にいる、三十センチ程の巨大な蜂、その群れが土の混じった風に煽られ、後ろの崖に叩き付けられていく、それを俺とテオが素早く狩りとる。


「ミーヤ、あそこ」


空間把握でスーヤの魔法から逃れた蜂を指差すと、ミーヤが確実に弓で射落として行く、それを数度繰り返すと魔物の反応は無くなった。


「よし、これで反応は無くなったよ。じゃあテオとミーヤは巣から蜂蜜を取ってきてくれる?俺とスーヤはこの大量の蜂を処理するから」


ここは東の森の奥、俺達はキラービーの巣から蜂蜜を取りにきている所だ、キラービーは一匹一匹は大したことの無い魔物だが必ず集団で襲ってくるのでなかなか手強い相手だ、パーティーに魔法が使える冒険者がいないと銀上級の冒険者でも犠牲になることがある、だがスーヤの覚えたての魔法で牽制したお陰で大分楽に倒せた。


元々はニル達を誘き寄せる為に来た東の森だが、ジーナやノーデンにラージボアの肉や蜂蜜を取ってくると言って出てきたので朝から森に入っているのだ、そして本当はロイド達に馬車を任せようと思ったのだが、まだロイド達のパーティーだけでは東の森の近くは不安という事で、俺達とロイド達のパーティーを混合して狩りと馬車の留守番に分けているという訳だ。


キラービーの素材は大きな針、それと魔石だけであまり旨味のある魔物では無い、美味しいのは巣にタップリと蓄えられた蜂蜜だ、だから五十匹近くになるキラービーの死体をサクサクと解体していく。


「解体早いです、向こうが心配です?ロイド達なら大丈夫ですよ」


俺がキラービーの死体を解体しているとスーヤがそう言って声をかけてきた。


「いや、ロイド達も強くなってるしリズ達もいるから心配はしてないよ。レイナも感知スキルがあるし、セオの嗅覚もあるから不意もつかれないだろうしね」


解体の手を止めずにスーヤに答える、がスーヤが言っているのはそういう事では無いようだ。


「違う、です。リズさんと師匠がロイド達と一緒にいる事が心配、です?」


…………。


「いやいやいやいや、そんな事はないよ?はははっ」


俺が普通に答えるとスーヤが俺の手元を指差す。


「手、止まってる、です」


言われて解体の手が止まっている事に気付く。


「あ、あ〜、これは、これはね」


何とか答えようとするが上手い返事が出ず、頭を掻きながらスーヤにぎこちない笑顔を返す。


「ま、まぁ、心配って言えばそうなの、かな?」


リズ達と離れる事は今までもあったが、年の近い男の人の所に残して離れるのはリズ達と出会ってから初めてだからな、確かに心がモヤモヤしてるんだよな、ロイドはイケメンだし、ザイルも渋みのある男って雰囲気だし。


「はぁ…」


溜め息を吐く、頭では大丈夫だってわかってるんだけどな、俺はどれだけ嫉妬深いのだろうか、我が事ながら嫌になるほどに独占欲が強いな。


「大丈夫、師匠はトーマさんにベタ惚れ、それにリズさんとは宿でとても良い雰囲気だった。ロイド達もわかってる」


「や、宿って何の事かなぁ〜」


スーヤが変な事を言い出したので今度は別の意味で解体の手を早める、そう言えばロイド達も十分に年頃なんだよな、パーティーも男女二人ずつだしどうなんだろう?聞いてみたい、けどこういう男女の話をどうやって聞くのかがわからないな。


「私達四人は小さい頃から一緒だから兄弟みたいなもの、そしてロイドは村でとてもモテた、ザイルは村に許嫁がいる。私は魔法と結婚する、ミーヤは、よくわからない、です」


「へ、へぇ〜」


よく俺の聞きたい事がわかったな、それより魔法と結婚するってどういう意味だろうか?


「兄ちゃん沢山取ってきたぜ」


スーヤと何だか掴み所の無い会話をしているとテオとミーヤが戻ってきた、二人とも専用の革袋に沢山の蜂蜜が取れたようだ、それから四人で手分けしてキラービーを解体し、素材を持って馬車に戻る。



馬車に戻ると大きな猪を解体している所だった、聞くと俺達が戻る少し前に、レイナとセオの料理の匂いに釣られてラージボアが森から襲ってきたのでリズが倒したようだ、 ラージボアの肉も欲しくて森の中を探したのだが見つからなかったので丁度良かった、これで夕方の鐘が鳴る前に町に帰れそうだ。


俺達はそのまま昼食を済ませ、それから町に戻った。






「「「カントリ〜ふ〜ん、ふふみ〜ち〜、ず〜っと〜、ふ〜ふ〜ふ〜、あ〜の〜町〜に〜、ふふふ〜ふ〜ふ〜」」」


帰りは魔物に会う事も無く暇だったので、馬車の中で自然と田舎の道を連想する歌を口ずさんでいたのだが、リズとテオが歌詞を覚えてしまい、それを余程気に入ったのか三人で延々とリピートしながら帰路につく、ちなみに御者はザイルだ、俺よりもニィルの扱いが上手い。


そして日が落ちる頃にラザの門が見えてきた、街道から見る、夕日に赤く照らされた町が綺麗だ。


「おう、トーマ、ギリギリだな」


タインに挨拶をして、ラージボアの肉を見せながら、明日の夜にささやかだけど酒宴をする事を伝え、それからカードを見せて町に入る、そしてそのまま宿に行き、ラージボアの肉と、キラービーの蜂蜜をノーデンに分けながら俺達の分も厨房に置かせてもらう。


そのまま食堂で夕食を食べる。


「明日町の人に挨拶をして、明後日には町を出ようか」


「そうだね、予定よりも大分長居しちゃったしね」


俺達が町を出る話をするとロイド達が残念そうな顔を見せる、だが直ぐに笑顔を見せて頭を下げる。


「今回は何から何までありがとうございました、おかげで俺達も冒険者として少しはやっていけそうです」


「…………いつか必ず恩を返します」


「私達、村の中で少し腕が立つからって浮かれてたの。今回は皆に色々な事を教えてもらったの、本当にありがとうございます」


「森人の言葉、凄いです。これだけでも村を出た甲斐がありました。今度トーマさんと師匠が町に帰ってきた時も、また教えて下さい。それと、他にも色々と、ありがとう、です」


四人がそれぞれの感謝を言葉にして表す、それを受けて俺達も笑顔を返す。


「俺達もまた戻ってくるからさ、その時は一緒に依頼を受けたりしたいね」


俺達とロイド達が話をしているとジーナが声を掛けてきた。


「あんたら明日は何人呼ぶつもりだい?一応食堂の半分は使ってもいいけどそんなに大勢は入らないよ」


「そんなに大勢は呼びませんよ、二十人くらいですかね」


明日は宿の食堂を半分だけを借りて酒宴をするつもりだ、前に町を出る時は宿の食堂を貸し切りにしたのだが今のラザは人が多く、風の安らぎ亭には料理の評判を聞いて泊まる人も結構いるみたいなので流石に食堂を閉める事は出来ないらしい。


ジーナを通じて宿泊客には許可を得ていて、更に俺達が騒ぐ代わりに明日の夕食には俺達が今日とってきたラージボアの肉と蜂蜜を出すと伝えると逆に喜んでくれたようだ。


俺達はジーナと軽い打ち合わせをして部屋に戻った。






翌日、まずは朝早くギルドに向かい、セラに東の森で襲ってきた奴等のカードを渡して簡単な説明をしながらギルド長と話をしたい事を伝えて昼に時間を取ってもらった、そして最近は受けていなかった町の手伝いの依頼をロイド達と一緒に受ける。


ギルドを出た後は俺、ロイド、ザイルの三人。リズ、ミーナ、テオの三人。レイナ、スーヤ、セオの三人に別れて依頼をこなす。


内容は庭の草刈り、溝の掃除、雨漏りの修繕、煙突掃除などだ、確かに冒険者という職業名にはそぐわないかもしれないがこれも立派な依頼だ、子供が嫁いで年寄りだけだったり、夫が忙しくて手が行き届かない家などを周って雑談をしながら丁寧に依頼を終わらせていく。


依頼人からパンや飲み物をご馳走になったりしながら昼には依頼を終わらせ、昼の鐘を合図に噴水広場で皆と合流して昼食がてら町の人への挨拶も兼ねて屋台を冷やかしながら町の中を歩く。


そして昼を少し過ぎた頃にギルドに戻り、セラに依頼の報告をし、そのままセラと一緒にギルド長の部屋に上がる。


「襲ってきたのは二十人、ニルとモストール以外は知らない顔でしたね。決闘の時にはいなかったメンバーだと思います」


俺達が襲われた事を詳しく話すとギルド長は深い溜め息を吐いた。


「まさか紅の風が盗賊紛いの事をするとはな、だが確かにギルドでの素行は悪く他の金級ともよく言い争いをしていたようだ。他の者もギルドで大なり小なりの問題を起こしていた奴等だな、わかった、後はこちらで処理しておこう」


紅の風とは俺が倒した炎使いのイムル、それとリズの倒した魔法使いを中心としたパーティーで、似たような冒険者を従えて町で色々と問題を起こしていたようだ。


ギルド内でもドルントや他の金下級にも色々と絡んだりしていたようだが大きな問題にまでは発展しなかったようで、ギルドも強く諌める事は出来なかったらしい。


俺達を平気で殺そうと襲ってきたイムルがドルント達と争わなかったのは同じ金下級というのが大きいだろうな、俺がイムルの魔法を防いだ時にイムルは銀上級なのにと言って驚いていたし、俺達がもし金下級だったならイムルはニル達の誘いに乗らなかったかもしれない、やはり肩書きは大事だな、これはいよいよ昇級の事を考えないといけないようだ。


ギルド長との話を終え、明日には町を出る事を伝えて今日の夕食に誘う、もちろんセラも、そしてバリィとダリも誘う事にした。


下に降りた俺達はそのままギルドの訓練所で訓練をする、レイナも大分動ける様になってテオに遅れを取る事も少なくなった、やはりいくら魔力強度が高くても実際に普段から体を動かす事は大事だ、いくら魔法が得意でも最低限の身のこなしは必要だよな。


訓練を終えて訓練所を出ると丁度ドルントがギルドに帰ってきた所だった。


「ようトーマ、明日町を出るんだって?やり残しは解決したようだな」


ドルントは今日も見廻りをして、その時に町の人から俺達が明日旅立つ事を聞いたようだ、その隣にはモストールの仲間だった二人がいた、二人は俺達に気付くと、ミーヤを見た後で頭を下げた、モストールがどうなったのかを理解しているのだろう、複雑そうな表情だ。


俺はそのまま皆と別れてドルント達と一緒にギルドの二階に上がる、一緒に酒を飲む約束をしていたアウル達を誘う為だ、レイナ達は料理の準備もあるので先に宿に戻ってもらった。


二階にはニル達の仲間だったメンバーもいたのでドルントを交えながら事の顛末を話す、ニル達の元仲間も複雑そうな表情をしたが特に文句も無いようだし、ニル達の自業自得だという雰囲気の方が強かった、元仲間に対して少しドライな気もするが、ここら辺の感覚はまだ俺にはわからない所だ、冒険者にもずっと同じメンバーで活動するパーティーや、メンバーの入れ替わりが珍しくないパーティーがある、入れ替わりが珍しくないパーティーはこういうものなのかもしれないな。


その後はアウル達が戻ってきたので夕食に誘ってから宿に戻った。




宿に戻ると体を流してから着替え、先に戻って準備を終えていたリズを部屋に呼んで金下級の事を話す、レイナとセオは先に厨房に行ったようだ。


「今回の件では相手を油断させる効果もあったけどそろそろ金下級に上がってもいいかなって思ってるんだ」


「まぁ確かにこれだけ名前が広まっているのに銀上級じゃその方が余計な騒動に巻き込まれそうだね。私は良いと思うし、レイナも頷くと思うよ」


リズも賛成してくれたので後でハミルに話をする事にした、リズとレイナも一緒に金下級に上がるようだ、俺としては金下級になって目立つのは自分だけでもよかったのだが、リズはどうせ上がるなら三人で上がった方が良いと言う、その話をテオも聞いていたので、リズが俺とテオに理由を聞かせる。


まず第一に、パーティーに金下級が一人よりは三人の方が下手に手出しをしないだろうという考え、それから今後俺達が狙われたり襲われたりする場合、俺だけが金下級だとパーティーを二手に分ける時に俺がいない方が狙われてしまう可能性があるからだ。


その事をテオに伝え、今後は俺達を狙うような相手が出てきた時にまずテオとセオが狙われる事を伝えてなるべく一人では行動しないように言い聞かせる、今はまだ狙われている訳ではないがこういうのはいつ襲われるかわからないしな。


そして話を終えると、部屋で待たせていたロイド達を誘って食堂に降りる、今日は食堂を半分に分けていて、俺達が使うのは食堂の左側半分だ。


左側半分ではテーブルを中央に寄せて、そこに料理を置いて思い思いに好きな料理を食べる立食形式になっている、食堂には既に俺達が声をかけた人達が集まっていた。


皆に挨拶をしながら先ずは厨房に行き、レイナに金下級になる話をする、レイナも説明を聞いて納得してくれたので、ジーナと話をしているハミルを見つけて早速金下級の事を聞きに行く。


「トーマ、レイナやセオの料理は面白いね。あんたが教えたんだって?うちのノーデンもあんたの所に弟子入りさせようかね」


「あ、いや、俺はアドバイスしただけで食べられる様にしたのは二人の努力ですよ」


この世界の料理は、元々の素材の味が良いので基本は素材の味をそのまま生かす方向が多く、あまり凝った調理はしないので俺がレイナ達に教えた料理は珍しいようだ、まぁそれでも地方によっては特殊な調理法も色々とあるのでそれほど怪しまれてはいないが。


「お前らなら町で料理店を開いても十分に儲けが出そうだな、それに多才なのは良い事だ、俺は冒険者しか出来ない奴が怪我をして苦労したのを見てきたから尚更そう思うぞ」


ハミルがラージボアのスープを飲みながら言ってきたので頷いて、それから金下級の事を話す。


「ハミルさん、俺達は金下級に上がりたいと思ってるんですけど試験とか、そういう話を聞かせてもらってもいいですか?」


その話を聞いたハミルは少し驚いたが直ぐに頷き笑顔になる。


「そうか、わかった。なら私に冒険者カードを預けておいてくれ、今日の帰りにギルドに預けておこう、明日お前達が町を出る前には手続きは終わらせておく、それで明日の朝にはお前達は金下級だ」


カードを預けるだけで明日の朝には金下級になれるというハミル、いくらなんでも簡単過ぎやしないだろうか、銀上級からは昇級する時に試験があるはずだ、そう思っているとハミルが理由を説明してくれた。


「実はな、お前達は上がる意思さえあれば金下級には直ぐに上がれるんだ。リストルでの活躍、ジーヴルでの活躍、それにスゥニィさんの手紙、それと今回の決闘の件も依頼ではないが町やギルドにかなり貢献してるしな」


ハミルによると俺達の情報はある程度ラザのギルドで把握しているらしく、それに加えてスゥニィの手紙にも実力は十分だという事、ギルドからは勧めないでほしいが本人達が望むのなら上げても大丈夫だという事が書いてあり、更に今回の決闘は依頼ではないが町やギルドに大きく貢献した事で資格は既に満たされているらしい、特に大きいのがスゥニィの手紙やジーヴルでの件だ。


元々個人的な繋がりや、貴族から直接の指名などが無い場合ギルドは貴族からの依頼を金下級以上の冒険者にしか受けさせない、なので金下級への試験は貴族と上手く付き合えるかをギルドが見極める為のものになる事が殆んどのようだ、だが俺達はジーヴルで貴族の中でも最上位の公爵家からの依頼を達成したという事、それに森人のスゥニィからの依頼も貴族からの依頼と同じ様に扱われるので、公爵家からの依頼と森人からの依頼を達成している俺達は資格は十分という訳だ、それと今回、町やギルドの為に動いた事で人間性も大丈夫だという判断もある。


ハミルから説明を受けた俺達は厨房に行き、レイナに簡単に説明をしてカードを預かる、ついでにテオとセオも銀下級に上げるというのでセオのカードも預かる、俺達と依頼をこなしている事、それと訓練所の動きを見て、ギルド職員の間で二人は銅級の実力ではないという噂になっているらしい。


ハミルの所に戻って五人の冒険者カードを預ける、これで俺達は明日から金下級冒険者だ、色々と理由を考えて金下級に上がる事はまだ早いと思っていたが、位が上がるというのはやっぱり嬉しいな。


ハミルにカードを渡した後は堅い話は終わりだ、次はドルント達とアウル達の所に行く、この二組のパーティーは決闘の話やリストルでの俺達の話で盛り上がってから仲良くなり、それからちょくちょく話をするようになったらしい。


「おう、夕食はお前らが出すって言ってたから何も食わずに来たけど本当によかったのか?キラービーの蜂蜜を塗ったパンやラージボアの肉を使ったスープだぞ?これをこの人数に出すなんてかなりの金額になるんじゃないか?」


ドルントがキラービーの蜂蜜を塗ったパンを食べながら、俺に乾杯と言って果実酒を差し出して来たので、それを受け取ってドルントと乾杯しながら答える。


「蜂蜜も肉も自分達が取ってきてレイナとセオが料理したものなので殆んどただですよ。ドルントさん達は決闘の契約以上の事もしてくれてますしそのお礼の意味もあるのでどうぞ遠慮せずに食べて下さい」


決闘の契約は町に迷惑をかけないというものだ、だがドルント達はそこから更に冒険者を引っ張って町の見廻りをしたりギルドでの揉め事も仲裁したりもしているようだ。


「ドルントが見廻りをすると言った時は何を考えているのかと思ったけど、この肉が食べられただけでもその甲斐はあったわね。これ作ってるのレイナちゃんとセオちゃんなんでしょ?ぼうや達の仲間は実力だけじゃなくて料理の腕も凄いのね」


そう言ってドルントの仲間のナンシーがアールデタウルの肉を一口サイズにしたサイコロステーキを美味しそうに食べながら微笑む、俺も二人の料理の腕は自慢なんですと返しながらナンシーに注がれた果実酒を煽る。


「その小さい肉も美味しいけどこの唐揚げって肉も美味しいぞ」


「私はこのトンカツという肉の方がいいですね」


マイオには唐揚げ、パットにはトンカツが好評だ、厳密にはボアカツだが猪も豚もあまり変わらないからトンカツでいいよな。


美味しそうに料理を食べるドルント達にロイド達の事を紹介する、今回誘ったドルント達やアウル達、他のギルド職員にもロイド達の事をよろしく頼むつもりだ、リズにはまた過保護な事をと言われたが、ロイド達は年は上でも俺にとっては後輩なんだから心配するのは当然だ。


そして果実酒を注ぎ、アウルとそのメンバーと乾杯しながらロイド達を紹介する、あの紅の風を返り討ち、この四人が兎の前足の後継者、などと既に変な噂を広げそうなので噂好きも程々にしてくれと釘を刺す。


次はバリィとダリの所だ、果実酒を注ぎ、それから二人と乾杯しながら挨拶をする。


「ご馳走になってるよトーマ、そうそう、ダリはとても優秀で助かってる、こんな良い人材を紹介してくれてありがとう」


「そんな、やめてくださいバリィさん。トーマさんもそんな微笑ましいものを見るような目をしないで下さい、自分はもう三十過ぎですよ」


少しほろ酔いなのか上機嫌のバリィと、褒められて照れ臭そうなダリにロイド達を紹介する。


「そう言ってもらえると俺もダリさんを紹介した甲斐があります、それと、今度は冒険者の紹介なんですけどこの四人はまだ冒険者になって間もないですけど実力の方は保障します、近いうちに金下級まで上がるんでよろしくお願いします」


「ちょ、トーマさん!俺達はまだ銅級だしペナルティもあるので銀下級になるのにもまだまだかかります、金下級なんて無理ですよ!」


ロイド達が慌てて俺の話を否定する、なんで否定するのだろうか?四人は既に基礎も出来ていて実力もある、このまま教えた事を続けていけば更に実力も上がるだろう、それにザイルの老け顔やミーヤの胸は金下級の冒険者にも劣らないと思うけどな、ロイド達は年は上でも俺にとっては後輩なんだから自慢するのは当然だ。


「ごめんね、トーマは酒を飲むと少し性格が変わるから」


リズがロイド達に苦笑いをしながら謝っているが俺は間違った事を言っているのだろうか?それに酒を飲んだと言ってもドルント達とアウル達に薦められて少し飲んだ程度でまだまだ大丈夫なのにな、果実酒は本当に美味しいな、これで十杯目だ。


バリィとダリに俺達はまず銀下級に上がれる様に頑張りますと必死に伝えているロイド達を連れて今度はセラとタインの所に行く。


「おうトーマ、お前ら凄いな、お前らの活躍の噂で町は賑わってるし、それで不安だった治安も決闘の後には良くなった。ラザはこれからもっと賑やかで良い町になるぞ。それにお前達に目をかけていたセラさんもそのおかげでギルド一階の責任者になったんだ」


今日はジーナが側にいないからか楽しそうに話すタイン、セラは微笑みながらテオの頭を撫でている、二人とも酒が入ってかなり上機嫌だ。


「治安が良くなったのはドルントさん達のおかげでもあるし、治安が悪くなったのは俺達の噂が原因ですからね。門番のタインさんから見て安心出来る程に良くなったのならよかったです。それにしてもタインさんはジーナさんが隣にいないと生き生きしてますね」


俺の言葉に何故かひきつった笑顔になるタインと、ずっとテオを撫でているセラにロイド達を紹介した所で料理を終えたレイナとセオが戻ってきた、直ぐにセラに捕まったセオと俺の隣に来たレイナに料理のお礼を言う。


「二人ともお疲れ様、今日も凄く美味しいよ。いつもありがとうね」


そう言ってレイナの頭を撫でる。


「あ、ありがとうございます。ト、トーマさん今日は積極的ですね」


俺が頭を撫でると顔を赤くして照れるレイナ、少し前にもレイナの頭を撫でた気がするが何故か今日は積極的と言われてしまった。


俺達の為に料理を作ってくれたレイナとセオの事を労うのは当然の事なのにな。


「レイナとセオにはいつも美味しい料理を作ってもらってるからね、それに俺はレイナのサラサラの髪を撫でるのが好きなんだ」


「そっ、そそそうなんですか?それならいつでも撫でていいんですよ?」


サラサラ、えへへと笑うレイナは可愛いな、でもレイナとセオはまだ料理を食べてないからお腹が空いてるはずだ、このまま撫で続けるとレイナが食事しにくいかもな、あっ、セラがセオに料理を食べさせている、俺も真似しよう、先ずはこの果実酒を飲んでから。


そう思い果実酒を一気に煽り、それからコップを置いてフォークを取り、目の前にある唐揚げにフォークを刺し、レイナの口許に運ぶ。


「ト、トーマさん?」


「ん?レイナはまだ食べてないでしょ?ほら、セオもああやって食べてるし」


俺が指差した先には真っ赤な顔でセラから料理を食べさせてもらうセオがいる。


「え、でも皆の目が」


レイナがそう言うので周りを見てみる、ニヤニヤと俺とレイナのやり取りを見るタイン、半目のリズ、興味津々なミーヤ、ミーヤに隠れながら少しだけ顔を出して覗いているスーヤ、トーマさん凄いと何故か尊敬の眼差しを向けるロイド、見てない振りをしながら横目で見ているザイル、テオとセオは何故かセラには逆らえないようで料理を食べさせられては頭を撫でられている。


別におかしい事はないな。


「別におかしい事はないよ、はい、どうぞ」


そう言ってレイナの口許に唐揚げを運ぶと、レイナは少し躊躇いながらも唐揚げを頬張る、小さい口で食べるレイナは可愛いな。


レイナが食べた瞬間ミーヤを中心にワイワイと周りが騒いだけど俺は気にせずレイナの口許に食事を運ぶ。


「おやおや、トーマはいつの間に女の扱い方が変わったんだい?タインに教えてもらったのかい?」


ジーナが俺とレイナを見ながら歩いてきた、俺の女の扱いが変わった?俺はやりたいようにやってるだけなんだけどな。


「ジーナさん違います、俺がレイナに日頃の感謝を込めているのと、俺がレイナの髪を撫でるのが好きなだけです」


「そうかい、トーマはレイナの髪が好きなのかい」


ジーナが俺の言葉にそうかいと返しながら微笑む、だが少し間違っている、俺の言葉が足りなかったな。


「ジーナさん少し違います、レイナの髪を撫でるのは好きなんですけど、レイナの髪が好きなんじゃなくて俺はレイナが大好きなんです、それとリズも大好きです」


自信満々に言う俺に、何故か呆気に取られるジーナ、なんか変な事を言ったかな?テオとセオの事かな?あっ、ジーナはスゥニィと仲が良いからスゥニィの事かな?


「あぁ、それとテオとセオの事も勿論大好きですよ?それにスゥニィの事も大好きです、スゥニィ本人と約束もしたのでそのうち森人の里に迎えに行きますよ」


その言葉にタインやセラ、ハミルは声をあげて驚くが、ジーナだけは優しい笑顔になる。


「へぇ、トーマは最初から不思議な奴だったけど半年足らずであのスゥニィを落とすのかい。そうかい、スゥニィを迎えに行く、か」


どこか嬉しそうな、安心したようなジーナ、どうやら俺の答えは間違っていなかったようだな、だけどスゥニィだけじゃないぞ?


「それにジーナさんやノーデンさん、タインさんにセラさんに、ギルドの皆や町の人も好きですよ。俺は小さい時ずっと一人で、毎日が辛くていつも死にたいって思ってました。でもこの町に来てからは皆が俺に良くしてくれて、それから毎日が楽しいんです、だから俺を変えてくれたラザの町が好きなんです」


俺の言葉を聞いたジーナは、俺の側に来て俺の頭を撫でる。


「あんたは…いや、なんでもないよ。どうだいトーマ、旅は楽しいかい?」


ジーナは一瞬だけ憂いを帯びた表情を見せたが、直ぐに優しい笑顔になる、そして旅は楽しいかと優しく聞いてきたので素直に答える。


「はい、旅は色々な人達に出会えて楽しいですよ。友達も沢山出来ました」


「ふふ、旅に出て良かっただろう?」


「そうですね、最初は不安の方が大きかったけど今はもっと色々な場所を見て色々な人に会いたいって気持ちの方が大きいですね」


「あぁ、そうさ。あんたは色々な景色を見て、色々な人に会えばもっと大きくて良い男になるよ、そしていつでもこの町に帰ってきていいんだからね。トーマが皆を好きなように皆もお前が大好きなんだ」


俺の頭を撫でながら柔らかい笑顔で、俺を諭す様に話すジーナ、普段の雰囲気と全然違うので何だか変な感じだ、だけど何だか嬉しいな。


「それは、それはとても嬉しいです。帰ってきていいって言われるだけで、帰る場所があるってだけで安心出来ます」


ジーナと会話をしていると周りの皆が何故か静かになっていた。


気付くと俺の目から涙が出ていた、なんだこれ?


「あ、あれ?涙が、ははっ、お酒を飲み過ぎたんですかね、こういうのを泣き上戸って言うんでしたっけ?」


「さぁね、ただその涙は悲しくて出たもんじゃないのは確かだね」


ジーナが優しく俺の頭を撫でる。


「トーマ、たまには甘えに来てもいいぞ。俺の連れ合いはこう見えても懐が深いからな」


いつの間にか側に来ていたノーデンがそう言って俺の肩を叩く、ジーナがこう見えては余計だよと言いながら再び俺の頭を撫でる。


「トーマ、俺がいつでも門でお前を出迎えてやるからな。ほら飲め」


タインがニカッと笑って果実酒を渡してくる。


「ギルドでは私がいつでも出迎えますよ」


テオとセオをようやく解放したセラが優しい笑顔を見せる。


「トーマさん、私はいつでも隣にいますからね、それに頭はいつでも撫でていいですよ」


そう言ってレイナが腕を絡ませてきた。


「今度は酒が入ってない時に聞かせてね」


顔を赤くしたリズが耳打ちしてくる。


「兄ちゃん、俺も兄ちゃんが大好きだぞ」


テオが右手をつきだし親指を立てる。


「えっと、ありがとうございます。私も…いす…です」


セオが顔を真っ赤にしながら頭を下げた、最後の方は小声で聞き取れなかったな。


というか皆の目が生暖かい、なんだか恥ずかしい、でも嫌な気分ではないな、というかフワフワしてとても気分が良い、早速レイナの頭を撫でよう。


皆に囲まれながら乾杯したり、料理を食べているとドルント達が歩いてきた。


「おっ、トーマは人気者だな」


「馬鹿っ、空気読みなさいよ。これだからデリカシーの無い男は嫌なのよね」


ナンシーに怒られ謝るドルント、後ろにはアウル達も、そしてハミルとバリィ、ダリも一緒だ、大きな溜め息を吐くナンシーに謝りながらドルントが俺の側にきた。


「なんだか良い所を邪魔したみたいですまんな」


そう言って謝るドルントに大丈夫ですよと返す、どうやら俺に話があるようだ、皆は少し離れてくれたのでドルントに話を促す。


「それで、どうしたんですか?」


「おう、今ギルド長と話をしていたんだけどな、俺達はこの町が気に入ったからラザ専属になる事にしたぞ。それと、アウル達も専属になった、それで町の治安維持にアウル達も協力してくれる事になったからな、町とギルドの事は俺達に任せとけって事を言いたかったんだ」


ドルントがそう言うとドルントの隣にいたアウルが頷く。


「これからも町に冒険者は増えるはずだ、それでギルド長とも話したんだけどな、今ドルント達が自主的に行っている見廻りをいっその事ギルドの常設依頼にしようかって話になったんだ」


アウルの言う常設依頼とはギルドがいつでも出している依頼の事で、基本は簡単な依頼が多く、そして町によっては依頼の内容が変わるのが特徴だ。


周りに魔物が多い町だとゴブリンやコボルト、オークなど繁殖力が高い魔物の討伐が常設依頼になったりする、ラザの常設依頼には討伐系の依頼はなく、薬草の採取が常設依頼だ。


アウルの話を引き継いでハミルが詳しく話してくれた。


「今、トーマ達のおかげで町もギルドもとても良い雰囲気だ。だがそれも新しい冒険者が入ってきたらどうなるかわからん、それで、もし再び治安が荒れて住人から苦情が来てから動くよりは、今の雰囲気をそのまま維持する方が楽だと思ってな。見廻りのメンバーの中にはギルド専属の冒険者を必ず入れる事にするから不正も無いだろう、今ならドルント達やアウル達がいるからな」


この話は今ここでドルント達と話しただけでまだ本決まりではなく、一旦ギルドに持ち帰って検討をしてからになるらしいが、ギルド長のハミル、そしてハミルの後に副ギルド長になったバリィも賛成しているのでどうやら常設依頼にする事はほぼ決まりのようだ、そこに話を聞いていた門番のタインも加わってきた。


「俺達は町で何か起きてからでしか出動しないのでどうしても対応が後手にまわりますからね、ギルドがそうやって冒険者を抑えてくれるなら正直助かります」


門番は町の衛兵の役目も兼ねているが普段は門の近くの詰め所にいるのが殆んどだ、定時に見廻りはするようだが人が増えてからのラザではそれだけでは対応が追い付かなかったようだ。


ハミルとタインが門番と冒険者の自警団で提携するのはどうかという事を話している、そこにドルントやアウル、バリィ達も加わってなんだか真面目な話になっているので少し長くなりそうだ、それに今の俺は話を聞いても覚えていられるかわからないので町は安心、という事だけを覚えておけばいいだろう。


そうと決まればレイナの頭を撫でよう、そう言えばテオとセオがセラから解放されてたな、二人を撫でてもいいな。


話し込んでいるドルント達の輪を抜けてレイナ達の所に行こうとするとロイド達四人が近寄ってきた、俺を見るロイドの表情が、何かを決意したとでもいうのか、とても力強い表情だ。


「トーマさん!俺達、俺達兎の尻尾一同は、冒険者としての本分を忘れず、冒険者として強くなって、それで、正々堂々と階級を上げて、それで兎の前足より強くなって、それで、それで…」


ロイドが熱く、まるで宣誓でもするかのように話すが、ロイドはかなり酔っていて言葉が続かないようで、それをミーヤが苦笑いしながらフォローする。


「突然ごめんなの、私達さっきのトーマさんを見て自分達の勘違いに気付いたの。トーマさんはとても強くて頼りになると思っていたけれど、トーマさんもまだ成人したばかりだって事に気付いたの。トーマさんにも色々あるって気付いたの、そんなトーマさんを見て、私達も強くなろうって話をしたの。そしていつか兎の前足より強くなってトーマさん達を助けるの」


なるほど、さっきジーナ達と話をしている時に少し涙を流してしまったからそれを見て何か思う所があったのか、何で泣いたのかは自分でも分かってないけどロイド達がやる気になる事は良い事だ、俺はロイドに向き直り肩に両手を乗せる。


「うん、ありがとう。ロイド達なら絶対に強くなれるよ、だから、先ずは俺を呼び捨てにする事から始めようか。俺達を目標にしてくれるのは嬉しいけど、俺達より強くなるって言うなら助けられた事にいつまでも負い目を感じたままじゃ駄目だと思うから」


いくら後輩でもロイド達は年上なんだからな、先ずは気持ちの上でも俺達と対等になってもらわないと。


「それは駄目です、トーマさんは命の恩人なので」


少し鼻息の荒いロイド、なんだか目が血走ってるぞ。


「私はトーマ君って呼ぶの」


「………トーマ」


「トーマ、私も、そう呼ぶ。でも感謝は、忘れない」


ミーヤとザイル、スーヤの三人は頷いてくれた、まぁ今はこれでいいか。


「それで、兎の尻尾ってのは?」


さっきロイドが兎の尻尾とか言ってたのが気になったので聞いてみる、するとロイドが身を乗り出して食い付いてきた。


「俺達のパーティー名です、どうですか?兎の前足を少し意識してみました、勿論トーマさんが嫌なら変えますけどもし良かったらこれでいこうと思います」


「あ、ああ、いいと思うよ」


顔と顔がくっつきそうな程に詰め寄るロイドを両手で抑えながら頷く、いくら気分が良いといっても男とキスをする趣味はないからな、ロイドは酔うと少し暑苦しいな、酒はこんなにも人を変えるのか、俺も気を付けよう。


「トーマにはそんな趣味があったの?」


近寄ってくるロイドをなんとか引き離しているとリズが笑いながら言ってきた。


「俺にそんな趣味はないよ」


そうだ、リズの髪を撫でるのも気持ち良いんだよな、そう思い近寄ってきたリズの頭を撫でようとするとサッと躱された。


「私はレイナと違っていつでも撫でていいなんて言ってないでしょ」


そ、そうなのか…。


「ちょ、そっ、そこまで落ち込まないでもいいじゃない、別に駄目って言ってる訳じゃなくて、私は人の目があるのが嫌なの」


そうなのか、なら人の目が無いといいって事だよな。


「じゃあ部屋に行こうよ、それならいいでしょ?」


「だっ、駄目に決まってるでしょ、今のトーマと部屋に行ったら何されるかわからないし」


駄目なのか、髪を撫でるだけなのにな、駄目ならしょうがないか、そう思っているとジーナが笑いながら水を持ってきた。


「トーマ、あんたまだ経験が無いんだろ?初めてが酒の勢いってのは私は感心しないねぇ。それにこの宿は壁が薄いからね、今日は勘弁しておくれ、ほら、水でも飲みな」


酒の勢いって、別に俺は酔ってないのに、それにリズの髪を撫でるのは初めてじゃないのにな、不思議に思うけどジーナの言う事は聞いた方が良い気がするので手渡された水を飲みながら頷く。


その後も酔ったダリに、ラザに連れて来てギルドに紹介した事を何度も感謝されたり、テオとセオを捕まえて頭を撫でたり、俺の側に来て熱く語るロイドをミーヤ達が引き離したり、ジーナにノーデン、タインにセラ、ハミルやバリィに囲まれてスゥニィとの話を根掘り葉掘り聞かれたりと騒がしくて楽しい夜は過ぎていった。







翌朝、俺達は一度ギルドに寄ってから町を出た、皆との別れは昨日で済ませている。


というか多分皆も今頃は頭が痛くて寝ているはずだ、俺もかなり頭が痛い、ジーナとノーデンはあまり飲んでいなかったので宿で普通に見送ってくれたし、ハミルやバリィ、ダリも普通にギルドで仕事をしていたがそれ以外の皆はダウンしているはずだ。


「大丈夫ですか?昨日は大分遅くまで飲んでましたからね」


レイナの手渡してくれた水を飲む。


「あ、ありがとう」


水を手渡してくれたレイナとの距離が近い、そして頭を俺の方に向けている。


理由は昨日の俺の発言のせいだろう、今は御者をしているがリズにも朝から大分からかわれてしまった。


酒に酔うと記憶を無くしたり眠くなったりと人によって色々と違うようだが、どうやら俺は気が大きくなるだけで記憶は無くならないようだ、かなり恥ずかしくて記憶を無くしたいのだが…。


「兄ちゃん、レイナ姉ちゃんは頭を撫でて欲しいみたいだぞ、昨日みたいに撫でないのか?」


「そ、そうだな」


テオに言われてレイナの頭を撫でる、昨日皆の前で言ったようにレイナの頭を撫でるのは好きだからな、昨日の事は未だに恥ずかしいけど楽しかったのも事実だ、気持ちを切り替えよう。


嬉しそうなレイナの頭を撫でながら馬車の後ろに目を向ける、遠ざかっていくラザの町、今回はスゥニィの手紙を渡す目的で立ち寄っただけだったけど町に寄って良かったな、色々な繋がりも出来たし、いつでも帰ってきていいと言われた、やっぱりラザの町は故郷で俺の帰る場所だ、ドルント達がいるので町も安心だし、ロイド達もこれから成長するだろうな、また戻ってきた時に町がどうなってるか凄く楽しみだ、俺も沢山の土産話を持ち帰らないとな。


「なぁなぁ兄ちゃん、またあの歌を歌おうぜ」


ラザの町を見ながら考えているとテオにリクエストされたので一緒に歌う、周りには誰もいないので大声だ、御者台のリズも俺達の歌に乗ってきた、何度も繰り返していたからかレイナも歌詞を覚えて加わってきた、セオも歌いはしないが体を揺らしてリズムを取っている、馬車はのんびりと街道を進む。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る