第27話 閑話 リズ

 

 いつもはすぐに見つかる薬草が、妹にお願いされた今日に限って見つからず、私は焦っていた。

 日も暮れて来たのでそろそろ戻らないと行けないな、そう考えながら辺りを見渡すと小さな影が見えた。


 ゴブリン?マズイ!すぐにそう思い駆け出そうとしたが、既にかなり近くまで来ている。


 妹を一人にするわけにはいかない、こんな所で死ねない。

 何匹いるのかはわからないが複数の気配を感じる。とにかく戦闘になる前に逃げようと、気配のしない方向に一か八か駆け出す。


「ギャギャッ」


 駆け出した私に二匹のゴブリンが迫ってきたが、ギリギリで何とか振り切れた。

 このまま町まで、そう思った時に、最初から隠れていたのか突然横から衝撃受ける。体当たりされてしまったのだ。私はそのまま転がって木に頭をぶつけてしまう。


 目の前が暗くなる。


「レイ……ナ……ご……めん」


 そう呟きながら意識が途切れた。








「ん、う……ん、ここは?」


 寝ていたのだろうか、なんだか意識がぼんやりする。

 辺りを見回していると徐々に記憶が戻ってくる。私は、確かゴブリンに襲われて気絶してしまったはずだ。

 でもゴブリンが見当たらない、そう考えていたら背後から急に声をかけられた。


「こ、こんばんは」


「わっ、えっ?あ、あの、君は……えっと、あれ?ゴブリンは?」


 びっくりして振り向くと、右目が少し赤みがかった、この辺ではあまり見ない黒髪の少年が私を見ていた。


「あの、あ、貴女が、ゴ、ゴブリンに担がれているのを見掛けたのでぼ、僕が助けました」


 目の前の少年にゴブリンはと聞くと、自分が倒したと言う。こんな少年が?思わず聞き返してしまう。


「君が?」


 すると酷く焦りながらも答えてくれた。


「は、はいっ、まだ向こうの方にゴブリンの死体があると思います。あ、あと、あの、貴女の剣を、かかか、勝手に使ってしまい壊してしまいまひたっ」


 私を助けたのなら命の恩人になる。普通なら何か報酬を期待するはずだけれど、そのつもりも無いようだ。

 少し警戒していたが少年の焦り方を見ていたら力が抜けてきた。


 ありがとうと礼を言うと少年は顔を真っ赤にした。

 落ち着いて来ると、名前を聞いてない事に気付いたので先に名前を名乗り少年の名前を聞く。


「あ、名前はトッ、トーマ、です」


 少年はトットーマというらしい。

 名前もわかったので本当に感謝している事を伝える為にもう一度、ちゃんとお礼をしよう。


「そう、トットーマ君。改めて助けてくれてありがとう、あのまま連れていかれたら死ぬより酷い目にあっていたかもしれない、本当にありがとう」


「あ、あのっ、はい、大丈夫です、あと、自分の名前はトーマです」


 トーマだった、自己紹介も終わったし色々と話を聞いてみると、ニホンという場所でフリーターという仕事をしていたが、父親が亡くなり一人になったのを機に旅に出たらしい。


 ニホンは凄い遠くにあるらしく、ここら辺の事に凄い疎いので色々教えて欲しいと言われた。ついでに当ての無いトーマと一緒に町に行く事にした。


 ここは恐らくラザの町から一時間程の距離にある林のようだ。トーマにゴブリンの来た方角を聞く。そこに向かえば町の方に出るだろうと色々話をしながら歩いていたら、ゴブリンの死体が転がっている場所に着く。襲われた時は三匹だと思ったけど五匹もいたようだ。


 魔石も取らずに放置されていたので、魔石を剥ぎ取り死体を燃やす。トーマが生活魔法に驚いて何をしたのと聞いてきた。


 魔物は燃やして処理するというのはこの辺では常識なのに、ニホンでは違うのかなと聞いてみたら、トーマは魔物を初めて見たと言う。


 この歳まで魔物を見たことが無いなんてありえるのだろうか?なんだか服装も変だし、箱入り息子かとも思ったけれど、ゴブリン五匹を奇襲して倒したと言っている。

 確かにゴブリンは全て一撃でやられているようだった。トーマの話は違和感だらけだけれど、何か事情があって隠しているのかも知れないから深く追求するのはやめよう。


 身長は私より少し高いから百六十五くらいかな。顔は幼くて妹よりも下に見えるから聞いてみたら私と同い年だった。

 

 トーマの歳にはビックリしたけれど、本人は特に気にしていないようだ。そうやって色々と話をしながら町に戻る。


 途中ナイトローソンの群れに襲われけれど、トーマがすぐにリーダーを見つけて色々と指示をしながら、一対一でリーダーを倒してしまった。そして直ぐに群れも蹴散らす。

 魔物を見るの今日が初めてじゃないの?トーマへの違和感が募る、まさか、ね。


 そうして見覚えのある景色を頼りに町まで歩きながら話をしていると、トーマが遠くから来たのに言葉が通じるのはなんでなのと聞いてきた。

 私がずっと感じていた違和感がここで繋がる。絶対にそうだ、それなら色々な事に説明がつく。


 話にしか聞いたことがない存在を目の前にして気持ちが高揚するけれど、焦らずにトーマにこの世界の事を色々と説明していく。


 少しして町が見えてきた。町を目にすると安心して力が抜けてしまう、特に妹を一人にしないですんだと思うと泣きそうになる。

 トーマにもう一度感謝している事を伝えよう。


「トーマ君、本当にありがとう!トーマ君のおかげでゴブリンに連れて行かれずにすんだ、町まで無事に帰る事も出来た、何より妹を一人ぼっちにしないですんだ。全部トーマ君のおかげだよ、本当にありがとう」


 そして朝までは町に入れないのだしトーマと色々な話をしよう、隠したい事があるのなら命の恩人に出来るだけの協力をしよう。


 そう思い、トーマとゆっくり話をするためにまずは妹に無事を伝えようと門に向かって歩いていく。

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