中国のお猿(アルミフレーム)

 キットバイクと呼ばれる中国製のオートバイをご存じだろうか? 俺は扱ったことが無い。だが評判は聞いている『安かろう悪かろう』で『安物買いの銭失い』らしい。だが、今都の六城君は普通に乗っている。決して評判の良いとは言えない中国製のオートバイが普通に乗れるものかとメールで聞いたら『全部分解して全部整備、でもって置き換えられる部分は日本製に交換。ネジ部分はタップとダイスでさらってボルトナットは日本製に交換。もちろん塗装と下地処理はやり直しました』と返事が来た。


「つまり、全部分解して調べろって事?」

「分解する手間を考えるとフレームから組む方が早い」


 ウチで扱っているオートバイは排気ガス規制が緩かった時代の物が多い。理由は色々あるが、一番の理由は中古車の流通が多く値段が安いからである。だが最近は排気ガス規制が始まってずいぶん経つから程度の良いベース車が少ないのが悩みどころ。ろくでもないレストアベース車を高値で買って整備で一苦労するのと、怪しい新車を買って手を入れるのではどちらが良いだろう? 似たようなもんだと思う。


「ふ~ん、なんか模型みたいやね」

「そうやな、自分の好きなように組んでいく実寸大の模型やな」


 特にホンダモンキー・ゴリラみたいな趣味性の高いミニバイクは値上がりが激しく学生が通学に使えるような代物ではなくなってしまった。四月から放送されるアニメに出てくる古いスーパーカブも同様で、クラシカルなデザインと優れた積載性、更に現代でも通用する走行性能のおかげで中古相場は高値安定中と来たもんだ。幸いな事に我が大島サイクルには中古車と部品の在庫が豊富にある。その部品を使いつつ社外フレームをベースに一台作ろうってのが今シーズンの目標だ。


「つーことで、自分の理想のオートバイにするためにどう使いたいかを聞くんや」

「どうもこうも、学校へ行くんやから通学やん」


 何せフレームには何もついていない。いわば白いキャンパスと同じだ。通学に使うと言うが、通学と言っても色々ある。


「あのなぁ、通学言うても色々あるやろ? リュックを背負うとか、カバンをボックスに入れたいとか。あとは前のカゴが欲しいとか休みの日に遠くへ遊びに行くとか」


 まぁ積載に関してはあとで何とでもなるからどうでも良いと言えばどうでも良いし、乗ってからでないと解らんこともあるだろう。ちなみにこの女子高生。もちろん通っている高校は高嶋高校だ。名字は……何やったっけ? 何となく戦艦とか潜水艦みたいな名前だった気がする。


「それよりもおっちゃん、私の名前を忘れてるやろ? お客の名前が覚わらんってアカンのちゃう?」


 言っておくがド忘れである。覚えてないわけでは無いし忘れたわけでもない。


「いやいや、式波しきなみさんやろ?」

「違うわっ! 真希波まきなみやっ! 『波』しか合うてへん!」


 惜しい、で、思い出した。真希波さんちのメイちゃんや。そうそう、誕生日が遅いから夏休みや無うて春休みに教習所へ通ってたんやった。


「歳はとりとうないな、戦艦みたいな名前やったなぁとは思ってたんやで」

「仕方がないなぁ、おっちゃん大丈夫? リツコ先生に精力を吸われてカスカスになってるって学校で噂になってんで。みんなが『リツコ先生が若いままなのはおっちゃんから精力を吸い取ってるからや』って言うてるで」


 確かに色々と吸われているが、カスカスなんかになっていない。オッサンになったけど心は十六歳のままや! ……と言い切れない自分がいる。いや、マジで最近近い所から遠くへ視線を動かすと目がかすむ。


「まぁ冬月ふゆつきちゃん、山田旭堂の六方でも食べながら相談しようか」

冬月ふゆつきでも綾波あやなみでもいいけど、こっちのボロっちいのは何?」


「このボロっちいのは『部品取り車』やな。エンジン無し・欠品有り・錆有り・車体番号無し・登録不可能でバイクとして公道を走れん部品を提供するドナーや」


 バイク回収業者のトラックにポツンと積まれていたのを見つけた時は驚いたな。今どきモンキーをここまで粗末にする奴がいるのかと信じられなかった。回収業者が言うには「別荘地の人に処分してくれ言われた」らしい。フレームナンバーが削られているのは盗難されたからか、それとも盗難車なのか。自賠責保険の書類からすると盗難車ではないようだが、どのみち再登録は出来ない。


「このボロから部品を取んの? いくら安くしてって言うたとしてもあんまりと違う?」

「部品はチェックしてから磨いたり塗装をしたりしてから使う。問題ない」


 今回は中華のアルミフレームに国産の純正部品を移植して一台組もうと思っている。中華のフレームとはいえNCフライス加工の部品を組み合わせて作られたフレームだ。見た目はゴツイが合成もなかなかの物。念のために高村ボデーへ修正に出したら社長から「強いは強いぞ」と言われたくらいだ。ただしその後に「重いけどな」と付け加えられた。国内大手メーカーの場合は純正フレームと変わらないくらいらしいのだが、今回のフレームは材料が弱い分を部材の暑さでカバーしてあるらしい。


「まぁええわ、とにかく通学で使うし免許は小型(自動二輪)やから」

「了解、お手頃価格で仕上げる代わりに実験台になってもらうで」


「それと、お母さんが『ちょっと出したるしエンジンは日本製にしてもらい』やって」


 せっかく買ったエンジンなのに実験できないのは寂しい。まぁ親御さんの要望なら仕方がない。


「ん~わかった。どんなのが良い?」

「バイパスでフツーに走れたらええで」


 ともかく、フレームだけでも安い物を使えるならありがたい。問題は使えるか否かだ。噂ではエンジンハンガー周辺にクラックが入るみたいだからその辺りも注意して組んで行こう。

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