2020年 10月
マフラー詰まりとLED電球④ リツコのインプレ
この数日のあいだ、中さんは仕事の合間にジャイロちゃんの電球を変えたり、マフラーを洗ったりしていた。そうそう、マフラーを「何か入れられたな?」とか言いながら中身を出そうと必死になって振っていたんだけど、結局中身は出せなかったみたい。「何を入れられたんか気になる」とか言って高村ボデーさんへ持って行って開けてみたらマフラーの中からカーボンの塊と十数個のパチンコ玉が出てきたんだって。カーボンは仕方がないと思うけどパチンコ玉はケーキ屋さんに寄った時に入れられたんだと思う。
「おニューのマフラーは『音が少~し大きいけど大丈夫やろう』か」
結局洗ったマフラーは使わずに新しいマフラーを買って付けていた。一応は学校で排気音量を測ったんだけど、そもそも三十年以上前のミニバイクの基準値のデータが無いから「古いバイクならこんなもんでしょう」と有耶無耶になっちった。
「ふむ、言われてみるとチョッチだけ音が大きい気がする」
新しいマフラーは仕上がりは上々で取付けも問題なし。何となくだけど煙が減った気がする。心地よい排気音と高回転まで吹け上がるのは良かったんだけど、そこはツーストエンジンの奥深さ。マフラーやチャンバーで特性がゴロッと変わるのは実用車のジャイロちゃんも例外じゃなかったみたい。出足が鈍ったとかで、
「おかげさまでフツーのスクーター並みに走りますよっと」
そうそう、「ついでに実験がてら使ってみよう」とか言ってバッテリーも台湾製の格安バッテリーに換えてたんだ。安いから寿命まではわかんないけど、今のところはセルスターターは元気に回るしウインカーも点滅間隔は変わったりしない。タイヤが三本ある以外はフツーに乗れるスクーター、多分だけど、日本のオートバイの中では唯一無二の三輪業務用バイク『ジャイロX』だ。
「あとはヘッドライトだね」
今回のメインはLEDヘッドライトの装着。交換前はボンヤリと点っていたヘッドライトが交換後は最近のバイクみたいな白い光で暗闇を切り裂く。チョッチ言い過ぎた。すごく明るくなりましたよっと。
「ふむ、『秋の日はつるべ落し』でもこれで安心」
秋の夕方は急に暗くなるって意味ね、お笑いの師匠じゃないよ。LEDヘッドライトの取り付けやマフラーの手配をしたりセッティングをしているうちに季節が夏から秋に変わったみたい。日中はまだ暑いけれど朝夕にバイクで湖岸道路を走ると肌寒い。ビールやレモンサワーよりも熱燗やお湯割りを呑みたい季節になった。
「メーターも明るくなってる」
おまけでメーター内の電球も全部LEDに交換されてメーター周りは今までより明るくしっかり見える。ハイビームとウインカーのインジケータが明るすぎる気もするけど、消し忘れが無いのは良きかな良きかな。
「使った感じは上々、ヘッドライトは合格。メーターはしばらく様子を見るっと」
A・Tオートさんに自動車用のLEDバルブはバイクに使うと寿命が短くなっちゃうって言われたんだって。だから
LEDへッドライトは怖い顔の竹原と付き合う
「すべては無事解決、万事太平事も無し」
これからしばらくはバイク通勤が楽しいシーズン。生徒たちも青春を謳歌しているとは言い難いけれど、新型肺炎騒動もひと段落した事だし楽しい学生生活を送れることだろう。小型自動二輪免許を取得した生徒たちは挙ってバイク通学許可の申請をしてきている。私と竹原、そして山羽先生は大忙しの日々を過ごしている。
「これでジャイロちゃんに悪戯した犯人がお縄につけば安心なんだけどね……」
季節は秋、私は愛する娘と優しい夫、そして美味しいご飯が待つ我が家へジャイロを走らせた。
◆ ◆ ◆
軽快なツーストサウンドを響かせてリツコさんが帰ってきた。帰って早々に「ライトもマフラーもいい感じ」と言っているから今回のモデファイは成功したのだろう。排気量の大きな上位車種の無いジャイロXは改造するのに試行錯誤の連続だった。おかげで何の部品を使えばよいかデータが採れた。今後は迷わず組み立てられると思う。カブと比べて桁違いに整備が面倒な三輪バイクの修理やセッティングはこりごりだ。やっぱりウチはスーパーカブが得意なお店、ネットによればジャイロシリーズの中でもUPって車種は更に整備が面倒らしい。なるべく今後はジャイロシリーズを扱わない様にしよう。
「ご飯の前にお風呂に入ろうかな?」
「ぎゃあぁぁぁぁん! ぎにゃあぁぁぁぁっ!」
「お湯は入れてあるからレイと一緒に入って」
レイは相変わらずメイクをした母親の顔に慣れない。うっかりフルメイクのままで帰ってきてしまったリツコさんの顔を見てぎゃん泣きが止まらない。慣れるためにも一緒に風呂へ入ってもらう。
「レイちゃ~ん、お願いだから泣かないで~」
「メイクが落ちる様子を見たら慣れるやろ」
「ぎゃあぁぁぁぁん! ま~っ! ま~っ!」
リツコさんに抱っこされたレイが『ま~っ!』と言った! もうすぐ『ママ』と言うに違いない。わが娘ながら素晴らしい成長だ。カブで例えると六ボルト電装が十二ボルトになったようなものだ。
「風呂上りにビールを用意しとくし頑張って!」
「にゃ~、レイちゃん泣かないで~ママ困っちゃう~」
脱衣場へ行く二人を背に、俺は夕食の仕上げをするのだった。
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