エイプリルフール

四月一日・全ては幻

 令和二年四月一日。新年度が始まる。高嶋高校では離任式が中止となり、気が抜けたのか、四月から職場復帰するつもりだったリツコさんはもう少し育児休暇をとることになった。


「よし、撮るで」

「レイちゃん、笑って~」


 新年度初日の今日は家族三人そろって記念撮影だ。何が記念かと言われると難しいが、家族健やかに新年度を迎えた記念と言っておこう。


「はい、チーズ」


 デジカメのタイマーをセットしてレイを抱いたリツコさんの元へ駆け寄る俺。


 幸せそうな四十代後半の自分の姿。それを俺は小さなテレビで見ていた。


「幸せそうやな」

「どうや坊主、人生って辛い事や悲しい事もあるけど、生きてりゃイイ事もあるよなぁ」


 俺は大島中。高嶋高校に通う十六歳だ。

 

「アホな事で命を落として……次の人生は賢う生きいや」


 小さなテレビの持ち主は血の色をしたマントを羽織った骸骨。左手には小型テレビ、そして右手には大きな鎌。見まごうこと無き死神だ。


 平成に入って数年目。高校生の俺は、生徒間で流行った自転車レースで事故った。追い抜きざまに前輪を蹴られ、立て直す事が出来ずに転倒。それだけなら助かっただろう。だが運が悪かった。吹っ飛んだ俺は対向車線を走っていたトレーラーと正面衝突した。


「なぁ、俺は死ぬんか?」

「すまんなぁ、おっちゃんもこれが仕事やからな」


 事故現場は血の海。俺の手足はいびつな方向に捻じ曲がっている。どう見ても助かるとは思えない。



「ま、人生はトータルしてプラスマイナスゼロやな。お前の場合はこれからの不幸が無い代わりに幸せも無い。ここで終わりや……恨むなよ」


 そう言った死神は、かろうじて体と繋がっていた魂を鎌で刈った。


「…………仕事だ」


 苦しそうにうめいていた俺の体から力が抜け、ピクリとも動かなくなった。


「死んだな、親不孝で地獄行きか?」

「そこは俺の担当じゃないなぁ……でも、生まれ変わるかもしれん」


 生まれ変わるなら、ファンタジーの世界とか魔法と剣の世界に行きたい。


「記憶を引き継いで生まれ変わりたいなぁ」

「生まれ変わると前世の記憶は無くなる。でも一応言うとくわ、次こそ賢う生きいや。ほな、行こうか」


 俺は死神に促されて歩き始めた。


「いつか気付くと思うけど、若者の背中にはな、未来を目指す為の羽根があるんやぞ……それを自分で千切ってしまうような事をしてホンマにもう……」

「行くのは未来や無うてあの世か……つまらん人生やったなぁ」


 目指すのは遥か未来ではなくて……あの世……。


―――――大島サイクル営業中・完―――――




 ……と、エイプリルフールって事で嘘をついてみたくなりまして、勢いだけで書いてみたお話ですが……普段から嘘をつきなれていない人間が嘘をつこうとしても上手くいかないものですねぇ。


 さて、気を取り直して本編に行きますか。

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