第456話 リツコ・いろいろ考える。
いきなり何を言い出すかと思われちゃうかもだけど、乳首が痛い。私のオッパイの性能が良いのか、それとも中さんが作る料理が良いのか解らないけれど、とにかく母乳はよく出るし、娘もすくすく成長している。
「あ痛たたたたたたたた」
「百烈拳かな?」
どこかの『胸に七つの傷がある男』じゃあるまいし。
「痛てて……中さんと違って加減がわからないのよ」
「生きる事とは食べること。でも、ちょっと吸いすぎかもなぁ」
とにかく娘の吸引力が半端じゃないの。中さんは舌で転がすように優しく……って何言わすの。とにかく、レイは元気に育っているし、私も早く仕事に復帰したい。
「乳首が痛いの。ねぇ、母乳とミルクを併用しちゃ駄目かな?」
「そうやなぁ、いつまでも(オッパイ)っ訳にもいかんし、徐々に減らす方が良いかもしれんなぁ」
母乳は飲ませる回数を減らすと徐々に出なくなるってネットに出てた。抱っこしてオッパイを吸わせるのって、なんて言うかすごく優しい気持ちになるんだけど、やっぱり痛いものは痛い。ここで「いや、オッパイじゃないとアカン」って言ったら怒る所だったけど、理解のある旦那でよかった。
「よし、徐々に粉ミルクとか牛乳も飲ませるようにしよう」
「そうしてくれないと、私の乳首が取れてレイちゃんが飲んじゃうかも」
考えたくないけれど、万が一千切れた乳首が(想像するだけで痛い)レイちゃんの喉に詰まったら大変だ。
「本には『初乳は大切』って書いてあったけど、『ずっと母乳で』とは書いてんかったからな……」
「ん? 何の本に?」
バイク雑誌や修理書しか読まない中さんなのに、いったい何の本を読んだのだろう?
◆ ◆ ◆
今年も納税の時期が迫って来た。不要なオートバイは三月中に処分しないと税金がかかって(※自治体により違いがあるそうです)しまう。そこで出て来るのがバイク買取業者だ。何処かからバイクを集めて、面白い奴をウチに持ってくる。
「で? 今回の目玉は何や?」
「フッフッフ……今回もアホバイクを見つけて来たぞ……」
説明しよう、『アホバイク』とは『アホすぎて買い取り手が見つからず、処分しようにも処分出来ないミニバイク』である。
「これだっ!」
「ぬぅぅっ! こう来たかっ!」
興奮するおっさんと対照的に冷静なのは女性陣である。リツコさんは「何だ、名車じゃない」と呟き、レイはリツコさんに抱かれてスヤスヤ眠っている。レイはグズっていても作業場へ来るとご機嫌になる。本当はこんな埃っぽい所へ連れて来て欲しく無いのだが、レイがご機嫌になって眠るなら仕方がない。。
「リツコさん、わかってないな。これはバンバン(九〇)と違うで」
「奥さん、よ~く見てみ。エンジンがカブっぽいやろ?」
そう、今回買い取り業者が持って来たのはT-REXなるレジャーバイクだ。太い低圧バルーンタイヤを装着したスズキバンバン九〇をオマージュした車体に、もはや汎用エンジンと化したスーパーカブをオマージュしたエンジンを搭載した愉快なバイクだ。ちなみに生産地は中国。
「ん~っと、これって中華エンジンをスワップしたバンバン? 強引ねぇ」
「これはな、元々これで売ってたんやで」
ウチに来るって時点で不動車なのは確定。
「もちろん『オイル・ガソリン漏れ』『キャブ要整備』『錆あり』のジャンクな」
「どこで拾って来たんや、ナンボで仕入れ……いや、処分料を取ったやろ?」
恐らく別荘地か何処かから仕入れたのだろう。
「いや(~その通り)、(処分代に)三千円(もらった)」
「やっぱり(金貰いやがったな)、三千円(もふんだくった)か」
ここからは値段交渉。
「珍しいバイクです。処分料に諸経費と私の昼飯代を足して五千円で」
「う~ん、少し歩み寄りませんか? 四千円が妥当だと思います」
そう、気分はCSの『ク〇シックカー〇ィーラーズ』です。そこへリツコさんが首を突っ込んで来ました。
「ねえ、お兄さん。これを足して四千円にしてくれないかな?」
「ん~っと、ほう……悪くない」
リツコさんが何やら封筒を渡すと、買取業者はカッと目を見開き、頷きました。
「わかりました、このバイクは……あなたの物です」
「握手を」
ガシッと握手をして、商談成立です。今回も私が、くたびれた珍バイクを再生させます。次回も大島サイクルにご期待ください。ではまた!
……なんてCSの某番組ごっこをして、我が家へ中国製のバイクがやって来た。
ところで、リツコさんは何を渡したのだろう? ミントの修理を手伝ってくれた仲間にも渡していた封筒の中身が気になる。買取業者が帰った後で聞いても教えてくれない。封筒に入るくらいだから重いものではないと思うのだが。
◆ ◆ ◆
「あんなに受けるとは思わなかった……」
妊娠する前に何気なく撮ったコスプレ画像。
「我ながらセクシーだね」
チャイナドレスにナース、バニーさんにキャットスーツ。前に遊びで撮った画像は大人気。こんな画像でコロッといくんだから、男ってチョロイ。
「ま、とっておきは渡してないけどね」
実はレアアイテムとして中さんに溢れるほど注がれた翌朝、チョッチだけメイク直しをしてシーツを巻き付けて撮ったセミヌード写真(ちゃんと隠す所は隠してるゾ☆)も在る。これに関しては誰にも渡さないけどね。
「あ~あ、今じゃ私のお腹は縦じま模様」
こんな事なら妊娠する前にもっと撮っておけばよかった。レイを生んだ私のお腹には妊娠線の跡がクッキリ残っている。出産で切ったお股は(一応)元に戻ったみたいだけど、お腹の傷は何時になったら消えるのやらって感じ。
「この時は何度も何度も……熱いアレを注がれたんだよね……」
娘がすぐそばで寝ているのに、あの夜を思い出した私の身体は疼いている。
「娘が寝ている横で……私は淫らな女だ」
夫は娘が産まれてから仕事に育児に、そして家事にと今まで以上にバリバリと動いている。そんな夫の姿を見るたびに産まれたのが女の子で良かったのかと心配になる。
「女の子で良かったのかな……」
中さんはレイを可愛がってくれる。私にも優しい。でも、私の心は晴れない。
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