第443話 大島家の長い一日・落ち着くリツコ

 葛城さんの先導で産院に滑り込んだ俺達は金一郎が駐車場へ車を停めている間に受付を済ませた。


「二階へある分娩室へ向かってください」

「はい、痛たたたた……」


 陣痛って奴は数分おきに来るらしい。おおよそ十数少々といったところか。階段横にあるエレベーターに乗って二階へ向かった。エレベータの扉が開くとスタッフの出迎えられて分娩室のある階へ。陣痛室に案内されて入院着に着替える。リツコさんの着替えはスタッフが手伝うので俺は一旦部屋の外に出て外で待機。


「ああ、どうしよう」


 どうしようも何も無い。男って奴はこんな時は無力で役立たずだ。何も出来ないのに焦るばかり。本当に情けない。とにかく落ち着かずウロウロしていたらエレベーターのドアが開いて金一郎が出てきた。


「兄貴、荷物です。姐さんは」

「着替えや」


「大島さん、奥様のお着替えが終わりましたのでどうぞ」


 金一郎が到着したタイミングでスタッフから呼ばれた。


「兄貴、僕はチョット用事があるんで」

「うむ、ありがとう。急に呼んで悪かったな」


 金一郎から鞄を受け取り、スタッフから説明を受けるが全く頭に入って来ない。説明を受けてから検尿、血圧測定、分娩監視装置のセット、助産師の内診などが行われるので邪魔にならないように陣痛室の外へ出て待つ。


 男は無力だ。


◆        ◆        ◆


 赤ちゃんの元気さや、どのくらいの進行状況かなどを調べてもらっている間、中さんは外で待機。夫の顔を見られないと不安でたまらない。


「元気な赤ちゃんですよ、外に出たくてウズウズしてますよ」


 外に出たいのは解るけれど、とにかく痛い。痛いだけじゃなくてもう一つ困った事が在る。その、えっと、今の私は陣痛だけじゃなくて便意にも襲われている。それも猛烈な便意だ。もしかするとこれが『いきみたい』ってことかな?


「どうしよう」

「大丈夫ですよ、頑張って元気な赤ちゃんを産みましょうね」


 力強く励まされたけど、何だか違う気がする。痛たたた。腰が痛い。腰の辺りが痛い。予想と違う場所が痛い。


「リツコさん、大丈夫やからね」

「お願い、腰を揉んで~」


 私の絶対に負けられない戦いが今始まった。


「ク~ッ!」

「ここ? ここでエエの?」


 ところで、負けても大丈夫な勝負って何だろう? 微妙にツボじゃない所を突かれながら考える私にはまだ余裕があった。


 


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