第418話 晶は罪な女①

 白き騎士ホワイトライダー……陰謀と破壊・犯罪が渦巻く高嶋市今都町に現れた正義の騎士。白バイ『高嶋〇二』ことCB一三〇〇Pを駆る若き女性白バイ隊員・葛城晶。人は彼女を『白き騎士ホワイトライダー』や『高嶋署の白き鷹』と呼ぶ。


 まぁ『白き騎士』とか『高嶋署の白き鷹』なんて本人曰く「まったく可愛くないっ!」と大変ご立腹な晶。移動式オービスが導入されて以降、猟場は国道一六一バイパスから旧道と呼ばれる県道や市道に変化した。構えていればホイホイとスピード違反が引っ掛かるバイパス道路は『動くものは捕まえられない』と呼ばれている滋賀県警高嶋警察署のボンクラ署員でも移動式オービスを構えていればノルマが達成できるからだ。


「さてと、そろそろ高校生が帰る時間だね」


 一方、狩場を追われた晶は湖周道路や市街一般道の違反者を機動力を生かして取り締まっていた。そんな彼女にとって学生たちの通学時間は癒しの時間。


(や~ん、可愛い制服で可愛いバイク~可愛い~♡)


 鷹を思わせるキリリとした視線の先にはバイク通学をする高嶋高校の生徒たち。

生徒の中には理恵や速人の4miniカップルだけでなく、今日子のトゥディに付いて走る令司や大島サイクル以外の店がこしらえた小さなバイク達も走り回っている。心の中では萌えて萌えて仕方がなく、必死になって表情を引き締める『高嶋署の白き鷹』だった。


◆        ◆        ◆


 キリッと引き締まった表情で白バイを操る『高嶋署の白き鷹』も仕事が終われば一人の女性。毎回毎回先客の女性署員に驚かれながら女子更衣室に入り、普段着に着替えると……残念ながら麗しい女性には見えなかった。何処からどう見ても男前以外の何者でもない。不思議な事に『娘』から『女』になって以降の晶は休日の度にイケメン度合いが増し、男の色気が漂う様になっていた。


「ふんふ~ん♪」


 鼻歌を歌いながらスマホの画面を見ると待ち受け画面は可憐な少女……に見える浅井薫の画像。晶が愛してやまない最愛の彼氏だ。勤務が終われば獲物を狙う鷹の様だと言われる眼は乙女そのものとなり優しい目つきに代わる。キリリと引き締まった表情が緩むと共に少し火照る。そんな晶を見たある者は薫に激しく嫉妬し、ある者はどの道女性の自分には晶の恋人にはなれないと諦める。


「あら、晶様。今週もお泊りですか?」


 このところ晶は休日の前夜から薫のアパートに泊まる日々が続いている。


「ん~っとね、今日は彼氏のお家でご飯を食べて……その後はどうしようかな?」


 そんな晶は彼氏の浅井薫と一緒に居る時だけは王子様ではなくて普通の女の子になる。


「ご飯のあとで帰ると遅くなっちゃうし、夜道は怖いからお泊りかな?」

「いいですねぇ……じゃあ、よい休日を」


 着替えた晶は「じゃあね仔猫ちゃん♡」と冗談を言って投げキッスをしてから颯爽と駐車場へ向かった。ちなみにこの日の高嶋警察署女子更衣室では気絶者が三名出たのだが、事件性は無い。


◆        ◆        ◆


 産休中のリツコさんを慕ってか高校生たちがよく来る。午後三時を回り奥様方が晩御飯の支度や買い物にと店を去ると入れ替わりに来るのが高校生たちと小さなバイク達。高校生たちはリツコさんのお腹の大きさに驚き、時折胎児が蹴ったり伸びをしたりでグニョグニョと動くお腹をスマホで録画したりして店内は賑やかだ。


「でもな、リツコ先生と結婚するのはシュッとしたイケメンとばっかり思ってたんやけど、まさかまさか大島のおっちゃんととは思わんかったわ」


 今日は久しぶりに理恵がご来店。タイヤが小さなホンダモンキー・ゴリラは後輪付近にライダーの体重が掛かるのと相まって後輪の減りが激しい。体重が軽い理恵でも二年以上乗れば交換時期だ。同じ様に乗る速人も揃ってタイヤ交換。速人は自分で交換するので場所と工具を貸して交換料は無料。


「男と女は解らないわ、だってロジックじゃないもの」


 昔のアニメか漫画だったかのセリフだがリツコさんは気に入ったらしい。どうして俺と結婚したのか聞かれるといつも言う。実際はご飯につられて我が家へ転がり込んで来ただけなのだ……と思う。歳上好きな土台が有ったのかもしれないが。


「理恵ちゃんは『男か女かも解らない』だけどね……プッ……クッ……」

「本田先輩、何か面白い話ってあったんですか?」


 作業をしながらボソリとつぶやいた速人が肩を震わせて思い出し笑いをしている。


「理恵ちゃんから聞いた方が良いなぁ」

「速人、うるさい」

「ほなおっちゃんが説明したる」


 一年生の頃に白バイ隊員になりたての葛城さんに原付一種と間違えられて止められた事、そして一目惚れをした事、さらに告白して……。


「でな、そこで理恵は葛城さんが女性と解ったんやったな?」

「ぬうぅぅぅっ! クッ! それは私にとって黒歴史や!」


 髪の毛をかき乱して恥ずかしがる理恵だが、この数年の我が店のお客さんは誰か一人は葛城さんに一目惚れをして女性と知って玉砕している。


「でも、私も葛城さんは男の人やと思ったわぁ」


 葛城さんのお隣に住む澄香ちゃんも出会った時はイケメンだと思ったらしい。根本的に葛城さんはイケメンなのだ。女性だけどイケメンなのだ。


「私だって理想の王子様が現れたと思って告白したら……晶ちゃんにときめいた人は手を上げて」


 そう、リツコさんも玉砕した女性の一人なのだ。玉砕後に大酒を喰らって我が家で暴れたのだが、その件は生徒たちには内緒にしておこう。リツコさんと女子高生たちは全員手を上げた。まったく、葛城さんは罪な男……に見えるイケメン女子である。

 

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