第292話 車輪の会

 大晦日前日の夜八時、安曇河町の寿光苑では車輪の会の会合が行われていた。主な議題は今都の傍若無人な若者、つまり『暴れ小熊』に対する対応だ。


(リツコさんが会議に呼ばれると思わんかったなぁ)


 今までの車輪の会加盟店では高嶋高校の生徒の場合、通学許可と免許のコピーが無ければ車両の販売及び整備はしていなかったのだが、高校に通っていない若者には売っていた。だが今度から一八歳未満の未成年にバイクを売らない事にしようかと意見が出たのだ。


「え~、『暴れ小熊』対策ですが、高嶋高校の生徒に関しては私どもバイク通学許可担当者が審査をして、素行不良や生活態度の良くない生徒に関しては通学許可は出しておりません。お手元の資料にある『バイク通学許可証』を生徒に渡しております」


 家に居る時のリツコさんとは大違いだ。ちょっと笑ってしまいそうだ。メイクだって戦闘モードと言えるタイプⅠだ。本気のコスプレモードから妖艶さを除いたフォーマルなメイクらしい。「これがフォーマルなメイクよ♡」なんて言ってた。


「申し訳ないのですが、家庭の仕事の為に使う生徒が居ます。『暴れ小熊』に免許を取らせないと言うのは権利を奪われることを嫌う今都人がいる限り不可能です。それと、当然ですが生徒以外の若者を規制するのは私達では無理です」


 暴れ小熊は高嶋高校の生徒以外に多い。だが、高嶋高校の生徒にも居ないでは無い。家では駄目駄目なリツコさんも仕事では苦労をしている様だ。俺といる時くらいは甘えさせてあげよう。


「今日は警察からは何も返事は無かった。そこで、何も持って来ない未成年は非行防止の為にバイクの販売や修理を断ろうかと思うが、どうだろう」


 これに関しては様々な意見が出た。中学を卒業してすぐに就職した若者に売れなくなるのが一番の理由だ。四輪の免許を取れない若者が移動する手段まで奪うのはいかがなものかと意見が交わされて、結局各店の判断に任せる事になった。


     ◆     ◆     ◆


 家に帰ってから、一緒にお風呂に入って背中の流しっこをして、待ちに待った風呂上りのビールを流し込む。温まった後で冷たいビールを流し込んで体を冷まして、布団の中で燃え上がる……。


「か~っ! やっと終わったぁ~!」


 これで今年の私の仕事は終わり。実は高村ボデーさんから相談されて資料を作っていたのだ。どうだ仕事のできる私は!


「リツコさんが準備してたのは知らんかった」


 私がビールを呑んでいると中さんが肴の油揚げを炙ってくれた。いつも思うんだけど、中さんは油揚げを良く使う。煮物に味噌汁、そして炙って酒の肴。


「でしょ? 頑張ったのよ。褒めて」

「はい、良く出来ました」


 頭をナデナデなんて子供じゃあるまいし……でも気持ち良い。


「高村社長から連絡が来てね、学校の方も私と竹ちゃんに任せるって言ってくれたから竹ちゃんと作ったの」

「そうか、で、今日は竹原君が来んかったのは何で」


 中さんは薄~い水割りを呑みながら油揚げをつまんでる。


「もうお休みだから休んでいてもらおうかなってね」

「そうか」


 結局この日は軽く呑んでから布団に入った。寒波が来たけど抱き合って眠れば大丈夫。


「あ~寒っ! 今日はもう寝るで」

「にゃう~抱っこ~」


中さんに抱っこしてもらって眠りについた。燃え上がる事は無かったけど暖かかった。

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