第268話 晶・大島の秘蔵品に目を付ける
新婚ではあるが毎日二人きりで居る訳ではない。俺の友人が泊まりに来る事は無いが、リツコさんの友人であるイケメン女子の葛城さんは泊まりに来たりなんかする。泊まるなら浅井さんの所に行きなさいって気もするが、二人の関係はまだそこまで進んでいないらしい。今日の晩御飯はお鍋。この季節は1週間に2回くらい鍋をしてしまう。お酒に合うし、野菜もたっぷり食べられて体も暖まる。良い事尽くしだ。
「で? お兄ちゃんとの仲は進んだの?」
恋の達人の如く余裕をこいてリツコさんが葛城さんに問い詰めているのだけど、リツコさんは俺以外とお付き合いしたことが無い。多分。
「まだチューしかしてないよぅ」
葛城さんは耳まで真っ赤になってクッションに顔をうずめているけれど、リツコさんと比べるとかなり速いペースでキスまで行ったようだ。真っ赤になった葛城さんを見てリツコさんはニヤニヤしてる。
「これリツコさん。笑ってないでご飯の仕度を手伝って」
「え~、晶ちゃんとお兄ちゃんの話聞きたい~」
「じゃあ布巾でコタツの上を拭いて」
「は~い」
コタツの上に鍋とIHヒーターをセットして、鍋に出汁を張って煮る。最初は鶏団子と白菜。続いて鶏肉・豚肉に糸こんにゃくに……ジャンジャン入れてジャンジャン食べる。
「そう言えば、彼氏さんのバイクはどうなったんや?」
「う~ん、何が欲しいのか今一つわかんないみたい」
浅井さんは初めてバイクを買うのだが、予備知識がほぼ無く、バイクの事を良く知らない。あまりにも知らな過ぎて教習車と同じバイクを買おうとしたらしい。だが、教習車と同じバイクは一般向けに売られていない。
「私はお兄ちゃんと一緒に乗るのは嫌じゃないんだけどね」
「晶ちゃんは良くても
「え?」
「後ろに乗せてもらうんじゃなくって、晶ちゃんと走りたいのよ。晶ちゃん、お兄ちゃんの事を『可愛い』ってお人形さんみたいに思ってるでしょ?」
確かに葛城さんは『お兄ちゃん可愛い♡』みたいな眼で浅井さんを見ているように思う。
「男の子はね、いくつになっても格好良いって思われたいのよ」
「そうなの?」
「それにね、お兄ちゃんは晶ちゃんのオモチャじゃないの。1人の男なのよ。対等に接しないとダメよ」
リツコさんは俺より人をたくさん見ている。ここは俺の出る所じゃない。黙って聞き役に徹しよう。
「だから、可愛いバイクを押し付けるんじゃなくて、もっといろんなものを見せて経験させてあげるのが良いのよ。ね、中さん」
「条件以前に本人がどうしたいのかが分からん。だから勧め様が無いんや」
いつものお客さんには予算・使用状況・その他希望など条件を聞いてバイクをお勧めしている。だが浅井さんはまだバイクを何に使って、何を求めるかが決まっていない様だ。だから勧め様が無い。晩御飯に何を食べたいか聞いて『美味しいもの』と答えられるようなものだ。
「ただ、小型とは言え自動二輪免許を取って走り出すからには50㏄では物足りんやろうし、葛城さんとは走れんわな。だとすると2種登録の125cc未満。ウチにも何台か有るし、条件さえ合ったら倉庫に隠してあるバイクを売ってもエエで」
実は倉庫に何台かバイクを隠してある。売るとアフターサービスが出来ない物や表に出しておくと店のイメージが悪くなるようなジャンク車が殆どだが、中にはお気に入りで残してある物も数台ある。基本的に親しい友人や俺が認めたマニア以外には見せない。噂を聞いてやってくる一見さんに見せる事は無い。
「そう言えば、ここの倉庫って面白いバイクがあったよね。モトコンポとか、何だか解らない部品取りなバイクとか。お宝って有るの?」
お宝と言えるかどうかは分からないが、面白いミニバイクは有る。
「お宝かどうかは分からんけど面白い物は有ると思う」
「じゃあ、お兄ちゃんに連絡するから明日呼んでも良いかな?」
「いいとも」
そんな訳で日曜は倉庫のウキウキウォッチングになった。葛城さんは浅井さんに連絡を取って今日はお泊り。リツコさんとガールズトークをしながら過ごしている思ったのだが……。
「中さん、来ちゃった」
「葛城さんとおしゃべりと違うんか」
寝ようと本を閉じた途端にリツコさんが部屋に忍び込んできた。
「晶ちゃんは寝ちゃったから……ね」
「かまへんよ、おいで」
妻はモソモソと猫の様に布団にもぐりこんできた。
「晶ちゃんが来てるのにって思われるかもしれないけど……軽蔑する?」
「いや、そのくらい欲望に忠実な方がリアルで良い」
友人が泊まりに来た夜に求めるとは少々大胆ではないかと思う。
「じゃあ、腕枕。ギュッとして」
「腕枕なん? 『エッチしよっ♡』とか言うと思った」
腕枕をせがんできたので、腕枕をしつつ抱きしめた。
「そっちの方が良かったのかな」
「おやすみ」
季節はもうすぐ冬。リツコさんの足が少し冷たい。
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