第226話 晶・オイル交換

 クルマを持たない晶にとって、カブは唯一といっても良い交通手段。まぁJR湖西線で通う事も出来なくはないが、今都駅は湖西地域最悪の治安状況を誇る駅。出来れば使いたくない。


 通勤に買い物、そして甘味処巡りで走行距離が伸びる晶のカブは比較的大島サイクルへ訪れる回数が多い。個人的にもリツコの友人であり、泊まりに来ることの多い晶だが、先日はリツコの気まぐれでお泊りせずに帰る羽目になってしまった。


「この前は大変申し訳ない事で……お詫びにオイル交換はサービスで」


 原因となったのは大島の『行ってらっしゃいのチュー(濃密)』なのでせめてものお詫びとオイル交換のサービスを申し出たのだが葛城は笑って答えた。


「リツコちゃんが『合体だからお願いっ』って言ってましたよ?」

「ああ、それは何とも」


 葛城さんが来たであろう時間の少し前、俺はリツコさんの挑発(?)に乗って、それはそれは濃厚な行ってらっしゃいのチューをしたのだ。


「……と言う事で、火をつけたみたいやな」

「それで腰を抜かしてたんだ、おじさんやるね」


 何も考えんとあんな事して、最低や俺。


「まぁ、それはさておき、迷惑をかけたから内緒でオイル交換をサービスするわ。あとでリツコさんに謝る様に言っとく」


 カブを店に入れてオイル交換。葛城さんは交換時期を守ってくれるので汚れが少ない。


「実は、リツコちゃんからメールを貰ったんだよね……」

「ほう、どんな?」


「『男の子を紹介するから許して』だって」


      ◆      ◆      ◆


「で?先輩は『男の子を紹介する』って約束したんですよね?」

「そーよ、竹ちゃん、心当たりない?」


 リツコの可愛い後輩である竹原も独身だが、先日のお食事会で晶を男と間違えてしまったのでNG。他に心当たりが無いリツコは手詰まりになってしまった。


「放っておけば良いでしょ?知りませんよ」

「私が良くないのよぅ……みゅぅ~」


「妙に面倒見が良いのは昔っから変わりませんね」


 面倒見も何も、リツコはあたるから今回の件が解決するまで一緒に寝ないと言われているのだ。


「で、心当たりは無い?」

「一応ありますよ。従妹いとこの嫁ぎ先の旦那さんの叔父さんの所の兄ちゃんが」


「ふ~ん、じゃ、お願いしようかな?その従妹いとこの…長いから『お兄ちゃん』でいいや。その子ってどんな子?」

「えっと…女性にはあまりモテないけど、野郎は付いてくる感じ?」


(良く分からないけど、男が惚れる男らしい人か…)


「一度お食事会なんかできるかな?」

「酒無しだったら引き受けます」


「お酒無しでお食事会なんて嫌」

「先輩が呑まないなら紹介します。ダメなら無かったことに」


「仕方ない、晶ちゃんの為に頑張るか」


 リツコは渋々だが条件を飲んだ。その姿を見た竹原は後に『コタツを片付けられた猫のようだった』と語った。

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