第225話 車輪の会・勉強会
7月となり、大島が所属する高嶋市南部地域の自動車・バイク関係店の互助会では久々に会合が開かれることになった。年明けの宴会と違って勉強会なので行くのは大島のみ。リツコはお留守番となった。
「わぁ……ビシッとしたスーツ……いいわね……」
「今日は真面目な勉強会やからな。じゃあ行ってきます」
珍しくネクタイを締めて革靴を履く大島の姿にリツコは感心した。
「ちょっと待って、行ってらっしゃいのチュー」
「ん?おお……はい、チュッ……ん……ん? 何でここでそんなチューなんや?」
週に一度くらい返り討ちに合うリツコは精一杯の『大人のキス』をした。
「大人のキスよ。帰って来たら続きをしましょ」
「リツコさん、まだまだ甘いな」
リツコを抱き寄せた大島は※以下自主規制により表現を自粛
「ん……ん?……んっ♡ あぁ……あ…♡」
「晩御飯はテーブルの上に有るしな…葛城さんの分も用意したから」
(一応、鍵をかけておくか……)
「行ってきます」
大島は腰を抜かしたリツコをそのままに、裏口と玄関にカギをかけて出掛けた。
◆ ◆
勉強会と言っても実技は無くて座学と試乗のみの軽いものだが、今回は目玉車種がある。モデルチェンジされて125㏄になったモンキーと、スーパーカブの追加モデルであるスーパーカブC125が用意してあるのだ。座学ではカブC125以外のリコール情報や整備ポイントの説明、技術情報の発表などが有ったのだが、大島の店ではそれほど重要ではない事ばかりだった。
退屈な座学の後はお待ちかねの試乗会。
「どっちもディスクブレーキになったか、夢みたいやな」
大島は若い頃にスーパーカブをフロントディスクブレーキ・テレスコピックサスペンションに改造した事が有ったのだが、一筋縄では行かず、元々のスーパーカブのスタイルを崩してしまい、結局元に戻してしまった事を思い出していた。
(全体的にしっかりした造りで質感もエエな)
少しの試乗しか出来なかったが、中国生産だった時のカブよりシフトフィールが良いのと質感が良いのが印象的だった。
モンキー125の方はと言えば、これも夢の世界から出てきたようなバイクだと思えた。正直な所、カスタムしなくても十分だと思える装備が標準で付いている。
(う~ん、完成度は高い。これにカブC125の部品を組み合わせて……)
高嶋高校へ通う生徒には『バイクの形でクラッチ無し』を望む女の子も多い。
遠心クラッチ車が設定されていない事を少し残念に思いながら試乗を終えた。
「どうした?何か不満か?」
試乗を終えた大島に声を掛けてきたのはA・Tオートサービスの平井。長い付き合いなので大島の表情を見てピンと来たのだ。
「どっちも完成度は高い。バイクとして正しい進化をしたと思います」
「その代わり、今まで見たいに学生が気楽に乗れるもんじゃなくなったって思ってるやろ?」
バイクとして進化したスーパーカブC125の価格は40万円近い。モンキー125はABS付きだと40万円を超える。バイクとしては進化して喜ばしい限りだが、やはり高校生が自転車代わりに乗れる様な価格ではない。
「原動機付自転車から自動二輪になったんやなぁ」
◆ ◆ ◆
「ただいま~」
「おかえりなさい。お疲れさま」
家に戻った俺を出迎えたのはリツコさん1人だけ。
「葛城さんは?泊まるんじゃなかったっけ?」
「用事があるから帰るって、それより勉強会はどうだったの?」
「2台ともなかなかの完成度やったな」
「後で詳しく聞かせてね」
背広を脱いで風呂場へ。湯船に浸かりながら今日の勉強会を振り返る。
(車体は文句無し。強いて言うならモンキーの足着きは旧型に劣る)
カブは自然に乗れるカブのままだったが、モンキー125は車体が大きくなったのと、デザイン重視なのかシートが思っていたより広く感じた。脚を開け気味で乗らなければならないので小柄な女性、特に理恵みたいなチビッ子には厳しい所だ。
(もっとも、あんな小さいライダーは理恵くらいのもんか)
タイヤサイズは12インチになり、車体も大きくなったから走っていて不安定になる場面は減っているだろう。遊園地から飛び出た玩具は50年の間に育ってモーターサイクルへ進化したたのだ。
そんな事を考えていたら脱衣場に人影が写った。
「中さ~ん、一緒に入ろっ!」
まぁ俺以外でこの家に居るのはリツコさんだけだ。
「ほ~い、入っといで~」
「じゃんっ!」
彼女は色っぽい見かけの割に中身が子供だ。まるでお父さんと一緒にお風呂でも入る子供みたいに丸出しで入って来た。もう少し恥じらいを持って欲しい。
「勉強会はどうだったの?」
「モンキーとカブの新型が来てたで。よう出来てた」
かけ湯をして湯船に入って来たリツコさんは艶めかしくて綺麗だ。
「その割に不満そうね、どうしたの?」
「完成されてるから、機能面では手を付ける所が無いなぁってな」
C125は125㏄・4速ミッション・フロントテレスコピックサスペンション・フロントディスクブレーキ…キャブ時代のスーパーカブからすれば夢の装備が標準装備。
モンキー125もフロントディスクブレーキ・12インチタイヤ・LEDライトとカスタムした旧モンキーよりも装備が充実していた。
「だから、手を入れる必要もないし、第一、値段が40万円やとなぁ」
「私の時は予算10万円だったよね?4台分かぁ」
「葛城さんはフロントフォークに手が入ってるから、もう2~3万かかってるけど、それでも3台分やな。ところで、今日は葛城さんは泊まらんかったんやなぁ」
ふとリツコさんを見ると真っ赤になってモジモジしている。
「晶ちゃんには帰ってもらったの」
「え?帰らせたん?せっかく来てくれたのに?」
「続きをして欲しくって……その……
そんな事の為に泊まりに来た友達を追い返すなんて言語道断だ。今日の勉強会の事やカブの事を話したかったのに。独り暮らしの葛城さんにゆっくりしてもらおうと思っていたのに!なんて酷い事をするんや!
「お友達を追い返す様な薄情な
「ウソ!ちょっと待って!楽しみにしてたのにっ!」
抱きついていたリツコさんをぺりっと剥がしてしまう。
「今夜はお預けや!こらっ!引っ張っても駄目っ!」
「や~!放さない~!」
牛の乳首じゃないんだからニギニギしないで!頼むから!
「リツコさん、放して!伸びる!伸びきってしまう!」
「いや~っ!」
――――――――――『拒否!』――――――――――
……千切れるかと思った。
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