第197話 ポート研磨
最近バイク雑誌を見ていたらポート研磨の記事が出ていた。OHV時代のカブ90のエンジンを修理する企画でボロボロのエンジンの修理。なんとハーレーのチューナーさんがカブのエンジンを修理していた。しかもそんじょそこらのチューナーじゃない。本場のレースで認められたチューナーだ。
「おっちゃん、ポート研磨って良いん?」
「ポート研磨か、良いと言えば良いけんどなぁ」
ウチでも昔はバルブガイドまで削って吸排気の流れをスムーズにすることをやっていたが、この数年、商売としてはやっていない。バルブガイドまで削ると寿命が縮まるのも理由だが、最大の理由は手間がかかる割に効果が実感できない事だ。
「手間がかかるんや」
自分の使うエンジンなら戯れに削るのも良いが、商売でやるとなれば割に合わない。加工賃だけで1万円くらい貰わないと商売にならない。だから誰もやってくれと言わない。
「―――という訳で、ヘッド加工賃だけで1万円や。どう思う?」
「コストパフォーマンスが悪いですね。ハイカムの方が良いかな?」
「おっちゃん、説明が長い」
長々とした説明を速人は興味深そうに聞いていたが、理恵は混乱している。
「それにな、変にポートの形を変えるとパワーが出んようになるかもしれん」
シリンダーとピストンだけを換えるノーマルの50用シリンダーヘッド対応ボアアップキットの場合はある程度吸排気孔を広げてやると息詰まりした感じが減る。
「それでも吸気口を一~二ミリ広げるくらいやな」
ところがポートを広げてもバルブ径が小さい。バルブを大きくするのは加工が大変なのでカムシャフトを交換してバルブが開く量を大きくしてやると更に良くなる。これに使うカムがハイカムってやつだ。
以上はカブ系の50㏄をボアアップした場合の話。
「でもな、ウチでやってる70・90ベースは最初っからバルブとポートが大きい」
「それでも効果は有るんじゃないですか?実際やってますよね?」
「アレはバリ取り。ポート内の加工が荒い所を均ならしてるだけや」
「形状は変えていないんですか?」
「鏡面仕上げ?ピッカピカにはせんの?」
なるほど、速人や理恵の中ではポート研磨は吸排気通路の形状変更や鏡面仕上げのイメージなんやな。
「鏡面仕上げが絶対良いかはおっさんにも分からん」
鏡面仕上げをするにはポート内を削る必要がある。削ればポートは広がる。凹凸も無くなるから理屈の上ではガスの流れが良くなってパワーが出るはずだが……。
「鏡面になるまで磨いてポートを広げ過ぎると、低速が弱くなる気がする」
多分、流速とか充填効率とか難しい話が分かれば説明出来ると思う。キャブレター車だとガソリン霧化の為にある程度凹凸が有った方が良いとか、ゴルフボールみたいなディンプル状の凹凸が有ると流速が上がって充填効率が変わると聞いた事は有る。
トヨタのツインカムエンジンは2種類ある。スポーツ車に使われる普通のツインカムと実用車に使われるハイメカツインカムと呼ばれる低速重視のエンジン。どちらもDOHCだけど、バルブの角度とか駆動方式が違っている。ポートが燃焼室に対して立っていると充填効率が上がるとか、角度が緩やかだと吸排気の抜けが良くて高回転でパワーが出るとか色々有るみたい。抜けが良ければ良いという物では無いらしい。
「要するに速くなっても乗りにくくなるって事?」
「調整が要るかもしれんな」
理恵は難しい理屈を分からんなりに直感で理解している様だ。
「普通に使うなら軽く均すくらいで良いって事ですか?」
「削るのは簡単に出来ても盛り直しは大変やからな」
どちらかと言えばメカの事は速人の方が理解しているように思う。
例えばだけど、速人と理恵がコンビを組んでバイク店をすれば、理恵は可愛らしさと噛み砕いた説明で接客側、速人は手が器用だから整備とマニアックなお客さんの対応をするのが向いていると思う。
「で、おっちゃんは何をやってんの?」
「ポート研磨。鏡面仕上げ」
「さっき言ってたのと違うじゃないですか」
「これはおっさんの趣味や。スーパーノーマルを作るんや」
「「スーパーノーマル?」」
チューニングパーツを使わずに丁寧に組む。細かな粗を落として磨き上げた部品でとことん精度を追及しての『組み』重視のチューニング。
手間がかかる割に性能に劇的な変化は無い。『あ~今スム~ズに吸排気が流れてる~』って自己満足するだけだ。
「ええんや、これはおっさんが趣味で組んでるエンジンに使うんやから」
「おっちゃん、そのヘッド……私のゴリちゃんに付けたいなぁ♡」
言うと思った。今回はゴリラを買った時みたいにはいかへんぞ。それに、これは50㏄のヘッド。理恵と速人の70ベースのエンジンに使うとピストンが当たる。当たらなかったとしても圧縮比が高くなってハイオク仕様になってしまう。
「去年、葛城さんと4人でイベントに行ったやろ?パワーチェックしたな?」
「うん、雑誌にも載った。私の方が速人のエンジンより良かった」
「あれは僕のエンジンが慣らし中だったから」
「そうや。今の状態で測ったら同じくらいかもしれん」
「じゃあ、そのヘッドに換えたら速人よりパワーアップ出来るやん!」
考えが甘い。交換すれば良くなるという物では無い。
「おっさんが『趣味で』やる作業や。自分が乗るバイクにしかせん」
「もしかして……」
「お前のゴリラに乗ってるエンジンはヘッドチューン済み。ポート研磨済みや」
「やっぱりそうか」
理恵のゴリラは俺が乗ろうとコツコツ仕上げていたバイク。ヘッドも手を入れてある。それなのに速人の組んだエンジンと大差無いパワーでショックだった。
「手間と作業賃の掛かる割に効果はイマイチ。自分でやるんやったら止めんけどな」
◆ ◆ ◆
「ふ~ん、ハーレーのチューナーが組むOHVカブねぇ」
「OHV繋がりで組んだんやって。一流の職人のする遊びやな」
ハーレーの世界的チューナーが組むOHVカブ。面白い。実に面白い。宮大工がこっそり柱に名前を書く様な感覚だろうか?
「で、その瓶は何?まだ呑むんか?」
「良いじゃない。酔うほどは呑まないわよ」
風呂を掃除して洗濯機を回している間の暇つぶし。ポート研磨の記事を見せようとリツコさんに声を掛けたのだが……また酒だ。
「リツコさん、晩酌であんなけ呑んだのにまだ呑むんか?」
「そこに酒が在るからよ」
開き直ったな。困った呑んべえさんだ。
「何かツマミは無いかな~?」
とうとう戸棚をゴソゴソと漁り始めた。
「お? 良い物見っけ」
柿ピーを見つけたらしい。豆類は夜に食べると太ると思うんやけどなぁ。
♪~
洗濯機が止まった。洗濯物を出しているとリツコさんが背中に抱きついて来た。
「これ、洗濯物を片付ける時にふざけない」
「ふざけてなんか無いもん」
背中に柔らかな胸が当たる感触が…ヤバい、理性を失いそうだ。
「ねえ、私もポート研磨……し・て♡」
「ポート研磨か、なるほど、そういう見方もあるわなぁ」
男と女でポート研磨と言えばアレしかない。そう、とても気持ちの良いアレだ。
「おいで」
「うん」
俺はリツコさんを寝かせて彼女の
「あん……♡」
「リツコさん……すごく湿ってる……」
リツコさんの孔はじっとりと湿っていた。中はグチュグチュになっていた。
「あっあんっ……そんな……ちょっと怖い……」
「静かに……手元が狂う……リツコさんの
照れているのか恥ずかしいのか解らないけれど耳たぶは真っ赤になっている。
「奥は……ちょっと痛い……あ……」
「もうちょっとで出る……あっ……出た。ほら、見て」
「やん……こんなにいっぱい……恥ずかしいっ」
「今度は俺も……ほら、見て……」
攻守交代。今度は俺が横になってリツコさんに身を任せる。彼女の太腿は女性らしく柔らかな中にも若々しい張りも有る。
「あ♡ 大きい……凄い……こんなの初めて見た♪」
「大きかったら良いってもんでもないらしいけどな」
大きいのは我が家の血筋だ。父も祖父も大きかったと母や祖母から聞いた。母は初めての時にあまり大きさに驚いたらしい。祖父は大きくて少し曲がり気味だったと祖母から聞いた事が在る。俺のは大きくて真っ直ぐだ。吸排気ポートなら満点だ。男として満点かどうかは分からないが…
少しぎこちない手つきでリツコさんの手や指が俺を這い巡る。
「む? え? あぁ……スゴ~イ♡ いっぱい出た……」
「リツコさん……上手い……気持ち良かった……スッキリした」
大きいからたくさん出る。出た物はティッシュで包んでゴミ箱へ……。自分でするのも悪くないけれど、人にやってもらえる方が気持ち良い。
この夜、俺達はお互いの耳掃除をした。もちろん膝まくらでだ。
リツコさんの耳垢は湿っぽいタイプだった。大まかに取った後は綿棒で掃除。狭くて大変だった。痛くならないように努力したけど、ちょっと痛かったかな? 俺の耳は祖父や親父譲りの大きな孔。だからと言ってよく聞こえる訳ではない。耳垢はたまるしゴミは入る。大きければ良いという物では無い。
その辺りは吸排気
リツコさんはポート研磨の記事を見て耳かきを思いついたんやって。言われてみると耳かきに似ている。
「やっぱり、見て掃除すると違うな」
「うん、すっごくスッキリした♡」」
お互いに大きな耳垢が取れた。なんとなく俺達の距離は縮まった気がする。
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