第196話 瑞樹・四葉 自分のヘルメットが欲しい

自動二輪の教習は長袖・長ズボン。ズボンの場合は裾が搾れる物を着用が望ましい。そうでなければバンドで留めて巻き込まない様にする。肘当て・ひざ当ても有ると望ましい。そして当然ヘルメットを着用。


「肘当て・ひざ当ては借りても別に何とも思わんけどな」

「ヘルメットは嫌かな?髪に匂いが…」

「やっぱり臭い?」


瑞樹と四葉は毎回ヘルメットを借りて教習している。何年物か解らないヘルメットは消臭剤を吹き付けてくれているのは解るのだが他人の汗と整髪料や加齢臭がする。おかげで瑞樹と四葉の髪からは女子高生にも拘らず教習を終えると加齢臭やヤンキーみたいな妙な香料の匂いが漂う。


「もう我慢できん。お母さんに言うてお金を出してもらう」

「麗ちゃんは良いよね~お兄ちゃんに貰ったんでしょ?」

「うん、お兄ちゃんの後に乗せてもらってたから」


ヘルメットと言ってもピンからキリまである。ホームセンターに安い物は有る。ただし、安い物は安いなりに悪い所もあって、インナーを洗えないとか中のスポンジが粉になって落ちて来る物も有る。材質の悪さを厚さで補っているのか妙に重い物も有る。


「ATの教習では居なかったけど、MTの方は荒れてたよね?」

「うん『臭い』ってヘルメットを被るのを拒否した人と、コルク?木のヘルメットを持って来た人が教官に叱られてたよ。私の担当教官は優しい人だったけど、人によって替えてるのかな?」


真旭自動車教習所では教習初日にバイクの免許を取りに来た理由を聞く。


『通学です』と答えたグループと『遊び』と答えたり真面目に答えなかった教習生のグループは担当教官が分けられ、前者は比較的スムースに免許を取れるが後者はなかなか免許が取れない。免許を必要とする者には取れる様に、遊びに使いたい者や不真面目な者には厳しく教習所に多額の料金を払うシステムとなっている。


「お兄ちゃんが担当してるバイク屋さんに行ってみる?」

「麗ちゃんのお兄ちゃんって銀行屋さんだっけ?」

「行ってみようか?ホムセンのメットって可愛くないもん」


3人は教習所の送迎バスを安曇河駅で降りて大島の店へ行く事にした。


      ◆     ◆     ◆


「ヘルメットやな。カタログが有るけど持って行くか?」


そんな大島の声は3人に届かない。3人の視線の先にあるのは少女漫画から出て来たようなイケメン・葛城晶である。残念ながらこのイケメンは女性に興味が無い。恋愛対象は男性なのだ。※葛城は女性です


「ヘルメットは大事だよ。女の子は顔を守らないとね」

「「「はい…♡」」」


「私も追突事故に会ったけどヘルメットのおかげで顔は無傷だったからね」

「「「はい♡」」」


可愛らしい高校生3人を見ている晶は無意識のうちに特殊スキル『笑顔』『魅了』を発動していた。このスキルは女性には抜群の効果を発揮するが男性には効果が薄い。 白い歯が『キラ~ン☆』と光り、晶が女性と知らない3人は魅了された。

※知っていても魅了される


おっさんが必死になって安全性や軽さについて語るより、イケメンの二言三言の方が効く。


「葛城さんは現役の白バイ隊員やから、言う事は聞いた方が良いで」

「違反をしたら…検挙しちゃうぞ☆」

「「「はわわわわ…」」」


うっかりウインクしてしまった葛城。自分の魅力が未だによく解っていない。


カタログを貰った3人は家に帰って家族とヘルメットについて相談した。

麗は買い替えず、そのまま使う事になったのだが、2人は買う事になった。

四葉は『じゃあ、お金渡すから好きなのを買いなさい』と言われる程度だった。


瑞樹は結構大変だった。


「ええか、お父さんの同期で自転車で事故して大怪我をした奴が居てな…」

「もう~!何回その話をすんの!聞き飽きた!」


酔った父から何度も聞かされた昔話。今夜も話すところから察するに酷い事故だったらしい。


「普段やったら3人でラインを組んで走ってたのに、その日は用事でな…」

話し続ける父を無視して瑞樹は自室へ戻った。


     ◆     ◆     ◆


「で、『はわわわわ…』になったんや」

「晶ちゃん、『私は女の子』って言わなきゃ駄目よ?きちんと言った?」


「言って無い…言わなきゃ駄目なの?」


夕方の出来事をリツコに話した晶は夕食が始まって早々に注意されていた。


「追突事故と言えば去年の6月やったな。あの時はおどろいた」


今都の老人くそじじいが乗ったバイクが信号待ちの葛城さんに追突。葛城さんの愛車は廃車となり、ウチで特製カブを買ってくれてからのお付き合い。


「年々時間が過ぎるのが速ようなる気がするなぁ」

「そう?私はそんな気はしないけど」

「私も」


若い二人には分からない感覚の様だ。逆に俺の方が解らない感覚も有る。


「私は初めてヘルメットを買ったのがついこの前な気がする」

「晶ちゃん程じゃないけど、私もそんな気はする」


鶏の味付けを焼きながらそんな話をしているとあっという間に時間が過ぎる。


「晶ちゃん、今日はお泊りしない?ちょっと相談したい事があるの」

「ん~おじさん、良いかな?」

「良いで。もう遅いしお風呂入って泊まって行き」


遅くなったので葛城さんには泊まってもらう事になった。リツコさんの部屋から何やら賑やかな声が聞こえる。


「さてと、風呂に入って寝ようかな」


     ◆     ◆     ◆


「晶ちゃん、男の人ってどういう時に萌えるの?」

「どうして私に男の人の気持ちを聞くの?」


「ああ、ゴメン。間違えてた」

晶ちゃんはウッカリすると単なるイケメンに見える。


「また私の事を男の人と錯覚してたでしょ?」

「うん!」


あ、晶ちゃん目の幅の涙を流して泣いてる(笑)


「こうやって指でこう××××を○○ぁして『いらっしゃい♡』って言ったら?」

※晶は表現できない卑猥な格好をしています。


添い寝しても上に乗っても何もしてこない人がそんな事されたらどう思うだろう?


「引いちゃうんじゃないかな?前に『グイグイ来られると引く』って言ってた」

「イベントでリボンを付けて『わ・た・し』をプレゼントは?」


ふむ、イベントか。プレゼントを渡すなら誕生日とかかな?そう言えば中さんの誕生日っていつなんだろう。ちなみに私の誕生日は6月。プレゼントで中さんを貰うって手もあるな。


「中さんの誕生日って、晶ちゃん知ってる?」

「ん~聞いた事は無いなぁ…聞いてみたら?」


     ☆     ☆     ☆


チュン…チュン…パタタタッ


「リツコちゃん…重い」

「ふにゅ?」


どうしてだろう、私は晶ちゃんの腕を枕にして寝ていた。寝起きの晶ちゃんは体に悪い。一瞬、何処のイケメンと一夜を共にしたのかとビックリする。


「起きろ…えいっ!」

「いたたたたたっ!痛い痛い!摘まないで!引っ張らないで!伸びちゃう!」


2人でじゃれ合っていたら中さんが呼ぶ声が聞こえた。ご飯の支度が出来たみたい。


「晶ちゃん!放して!ご飯食べなきゃ」

「は・な・さ・な・い♡」


晶ちゃんの手が私の下着の中を這い回る。


「あ…だ…駄目ぇ…」


めくるめく官能の世界に突入しそうになった私達を現実へ呼び戻す声が聞こえた。


「朝から何してるんや!片付かへんからさっさと食べて!」


     ◆     ◆     ◆


「お、今日の星占いはGoodか。良い出だしや」

「中さんは何座だっけ?」


テレビでは『今日の星占い』のコーナーが流れている。中さんは何気にテレビの占いコーナーを見ている事が多い。『良い事は喜んで、悪い事は気を付ける』んだって。


「5月11日生まれやから牡牛座やな。今日は80点♪」


思わぬところで個人情報GET。


「もうすぐ誕生日じゃない。おじさん、何歳になるの?」

「44…思えば遠くに来たもんやな…」


中さんは遠い目で昔の彼女さんと写った写真を見てる。


「何か欲しい物はある?」


晶ちゃんナイスフォロー。ここで『リツコさん、君が欲しい』とか言わないかな?


「若さと体力、そして、丈夫な毛根もうこん


けっこう切実な願いだった。

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