第193話 今津麗・教習所へ入る
バイクに乗るために高嶋高校へ入学した麗。免許取得の申請は通ったのだが、バイク通学の申請は受け付けて貰えなかった。バイク通学の許可は何に乗るのかも記入して申請しなければいけない。買うバイクが決まっていない時点ではどうしようもないのだ。
「良い御天気だね~」
「それはさておき、今日は真旭で降りるんやったっけ?」
「真旭から送迎の車が有るんやって」
教習の受け付けは誕生日の1か月前から。教習はスムーズに行けば2~3週間で検定となる。検定の時点で満16歳になっていれば卒業検定を終えて免許を取得できると言った寸法だ。
「順調に行けばゴールデンウイーク明けにバイク通学ね」
「順調に進めばね」
「あ~あ、学校の授業が終わってまた授業か」
麗・瑞樹・四葉の3人は揃って教習所へ入所することになった。麗はお兄ちゃんに言われてMTで取ることにしたが、瑞樹と四葉はAT免許。
「私と四葉ちゃんはATだけど、麗ちゃんはMTで取るの?大丈夫?」
「うん。せっかく取るんだからどんなバイクでも乗れる様にね」
「マニュアル(ミッション)なんか乗らないと思うけどな~」
自転車代わりと思えば原付免許でも良いが、湖周道路は気持ちが良くてついつい飛ばしてしまう。簡単に取れる代わりに色々な制限が有る原付免許より、せっかく許可されている事だから小型自動二輪を取れと言うのが親と学校の勧めでもある。
真旭駅で送迎バスに乗り教習所へ着いた3人は受付を済ませ、視力等の適性検査を受けて教室で待っていた。四輪の免許のシーズンは終わり、周りの席は小型自動二輪免許を取りに来た高嶋高校生が多い。
「ウチの学校の生徒が多いね」
「お母さんが言うには『高嶋高校バイク科』だって」
「分校って言う人も居るけどね~」
性格診断や学科教習・実技教習の説明を受けて初日は終了。帰りも真旭駅から電車だと思っていた3人だったが、安曇河駅行きの送迎バスが出ていたのでそちらに乗った。電車を待つより直接送ってもらえるのが色々と安心だからだ。
安曇河駅まで数分、3人は送迎バス運転手のおじさんから今年は大人しい教習生が多いのだと教えられた。
「今年は今都方面に行く便が殆ど無いから助かるわ」
今都の教習生は態度が偉そうでマナーが悪く、注意されると逆切れしての苦情が多いと運転手はぼやいた。実際、高嶋市役所のバスを無理矢理借りて観光旅行したり、申請外の場所へ行く事を拒否した運転手を殴ったり、粋をする様に嘘をついて気に入らない事を除外する今都の住民は教習所に限らず迷惑な存在だった。
「今年は今都の生徒が少ないって聞きました」
「今年度は倍率が高かったみたいやで。必死に勉強したもん」
瑞樹と四葉が言うには普段なら高嶋高校の入学試験は『名前さえ書けれ落ちない』と言われている。 今年に限っては受験人数が定員を超えたらしい。
「私はお兄ちゃんの漫画を見てバイクに乗りたくなったの」
「ほう!お嬢ちゃんもか?おっちゃんの家の子もそんな事言うてたぞ」
「運転手さんもですか?」
「いや。うちのはライトノベルやったかな?ネット小説からみたいやけどな」
アニメや映画、そして小説の影響は10代の若者には影響が大きい。
「おじさんの娘さんはMT免許ですか?」
「いや、ウチのはAT。カブに乗るんやと。おっちゃんバイクやのにな」
麗たちの感覚ではスーパーカブは少しクラシカルな可愛いバイク。運転手のおじさんの感覚では銀行の外回りや田の見回りに使われるバイク。
「可愛いのに?」
「可愛い?あんなお年寄りが乗るバイクが?」
スーパーカブは各世代によって大きく印象が変わる。ある世代は『とんでもないバイクが登場した』と言い、別の世代は『お年寄りの乗るバイク』だ。
麗たちからすると『ず~っと前から在るバイク』と言ったところだろうか。
そんな事を話しているうちに安曇河駅に到着。3人はお礼を言ってバスを降りた。ここで高嶋駅まで乗る麗は2人とはお別れ。
「じゃあね~また来週」
「「またね~」」
2人に別れを告げ、麗はホームへの階段を上った。教習所の送迎バスは30分に1本しか無い電車に合せて運行されているのだろう。数分待つだけで来た電車に乗り込んだ。
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