第183話 速人・C50改75㏄純正クロス完成
ようやく腰下が完成した速人のエンジン。あとはカブのエンジンと同じ。
「今回はおっさんがポート修正したヘッドを進呈しよう」
「良いんですか?手間がかかってるんでしょ?」
「純正クロスミッションのカブて面白いやんけ、サービスや」
暇な時間にポート内の要らない凸凹を滑らかに削っただけで鏡面仕上げまではしていない。あくまで修正。かかったのは時間と手間だけだから金額的には損をしていない。若干シリンダーとの当たり面を修正したから圧縮比は上がっているかも。
サクサクとシリンダーは組み付く。速人は手際が良い。
何度かエンジンの組み立てをする高校生は見てきたが、お世辞抜きで速人の手際は良いと思う。
「フライホイールを2回転させて合いマークの確認…良し」
ジェネレーターベースとフライホイールを組んで、各部締め付け確認をしてエンジンが完成だ。
「見た目は今までのエンジンと同じなんですよね~」
「羊の皮を被った狼…ってな。要は中身や、中身」
オイルを入れてクランクシャフトをしばらくグルグル回す。
「キックでも良いけどこの方が早いやろ?」
馴染んでいないから若干動きは渋いがおかしな感触は無い。
「とりあえず始動してみるか?」
「はい」
速人は理恵と違って口数が少ない方だ。黙々と手を動かしてエンジンをテスト台へセット・キャブレター取り着け・排気ホース接続・キックペダル・チェンジペダルと組みつけて行く。
「そういえば、『世界最速のインディアン』でこうやってましたよね?」
速人はキャブを手でふさいで始動しようとするが上手くいかない。
「素直にチョークレバーを使いなさい」
変な体制でキックスタートなんかしたら腰を痛めるからな…
プルン…プルン…何かを確かめる様にキックペダルを踏み込む速人。
(そうや。上死点を過ぎた辺りでクルンと力を入れてペダルを踏み込め)
プルン…ブベベベベベ…ベンベンベン…
エンジンは何事も無かったかの様にかかった。
「変な音ですね」
「仕方ないやろ?有り合せでこしらえた消音器なんやから」
ギヤチェンジやニュートラルランプをチェックしながらオイル漏れや異音が無いか耳を澄ませ、眼を光らせて試運転を続ける。
「オイル漏れや異音は無いですね。良かった」
「で、これを今日積んでしまうんか?」
「いいえ、これはしばらく置いておこうと思うんですけど…」
速人が何を考えているかはだいたい分かる。エンジンを部屋に置いていたら親に叱られる。店に置いといてくれとか言うんだろう。
「家に持って帰ると不味いんやったら預かるで」
「お願いします」
「その代わり、預かり代の代わりにたまに手伝ってくれな」
「はい」
やっとこさ速人のエンジンは完成した。
「せっかく作ったエンジンや。頑丈な箱に入れて保管しておこう」
中は『本田君・預かりエンジン・非売品』と書いた木箱にエンジンを納めた。
◆ ◆ ◆ ◆
さて、速人が大島の店でエンジンを組み立てていた頃、
理恵は安曇河の図書館で美紀と一緒に調べ物をしていた。
「工業大学に行くには何を勉強したらよいんやろう?」
「工業大学って…理恵は何になりたいの?」
「美紀ちゃんは何を調べてるん?」
「私は演劇の名目。クラブ紹介で新入生に見せる寸劇のタネ」
「美紀ちゃんは目標が在って良いなぁ、私は毎日アップアップや」
「進路の事なら先生に相談したら?担当は竹原先生でしょ?」
「あの先生ってな、顔が恐ろして緊張するんや…」
もうすぐ2年生。高校生活で最も充実する時期を控え、理恵は悩むのだった。
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