第132話 大島・50シリンダーを有効利用したい

 大島サイクルうちでは純正部品を使ってカブをボアアップしている。原付一種の理不尽ともいえる時速30km規制・二段階右折から逃れる為ではあるがシリンダー・ピストン以外にキャブレター・マフラーも交換するので費用が掛かる。


 そこでふと思った。スーパーカブ50用のオーバーサイズピストンは存在するのだろうか?


 インターネットで調べたところ、カブ50の純正オーバーサイズピストンはホンダ純正部品の供給が無い。詳しく調べたところ、今は無いが約30年前、電装が6Vの頃は在ったらしい。


 もともと原付1種規格目一杯の49cc。ボーリングなんかしたらすぐ50ccを超えるてしまう。


(なるほどな……確かに排気量が変わるわな)


 仮にシリンダーに付いた疵の深さが0.4mmとする。ならばボーリングして広げるボアはきずより少し深い0.5mm…ではない。きずの反対側も削らないとシリンダーが真円を保てない。片側だけ削るとシリンダーの中心が変わってしまう。全周削るから0.5×2で1.0mmのボアアップになる。


 カブ50のノーマルボアは39mm。それを1mm広げた40mmのピストンだと


 0.2cm×0.2cm×3.14×0.414cm≒51.9㎤


 排気量が約3cc増えて原付き1種の50cc未満でなくなる。いろいろと細かな事に煩い昨今ではその辺りに問題があるのかもしれない。


(カブ50のシリンダーは減ったら交換するしかないのか?)


 純正が無ければ社外品はどうだろう。


 社外品と言えば思い当たる節はある。綾ちゃんのDioだ。ボアアップに使った微妙なサイズのピストンは自家製で作れる物じゃない。もしかすると当時は純正オーバーサイズピストンの供給が有ったかもしれない。出ていなければ何処かのメーカーで作っていたか先代が特注したのだろう。


 パソコンのお気に入りの欄をクリックしてK社・D社・C社・M社と見ていくが無い。52㏄でも75ccでも手間は同じ。費用はそれほど変わらないはずだ。それならよりボアアップの効果を体感できる75ccを選ぶのが普通だろう。


(ピストンメーカーはどうだろう。競技用で出してるかもしれない)


 競技用の物はレースで性能を発揮するからと言って公道ではどうだろう?


 Tというメーカーのサイトにカブ50のオーバーサイズピストンキットが在った。どうやら絶版車にも強い店らしく、有名な内燃機店にも卸しているらしい。1.0mmどころか2.0mmのオーバーサイズまで選べる様だ。


(在るんやな。カブの世界は奥が深い)


 最近は純正部品の値上がりが目立つ。カブに限らず純正部品は年々値上がりする。倉庫での保管料や諸経費が部品代に上積みされると聞いた事が在る。とにかく値上がりは止まらない。そのうちシリンダーボーリングしてピストンを換える方が安くなる時が来るかもしれない。


 シリンダーキットで1.4倍の排気量にするとなれば、周辺機器のアップデートもしなければ本来の性能は発揮できない。壊れる事もあるだろう。


(シリンダーキット以外の補機類のアップデートに金が掛かる)


 でも、たった3㏄・5%アップの52㏄なら腰下ノーマルで行けると思う。キャブレターだってノーマルで行けるだろう。5%なら許容範囲やないかな? 安全率とか難しい事は解らないがクランクシャフトやオイルポンプもカブ70・90用を使って強化しなくても大丈夫だろう。ヘッドがそのままでもOK。シリンダー容量が増える分だけ若干のハイコンプ化されるけどノッキングする程ではないだろう。


 みんなが時速60㎞で走りたいわけじゃない。時速30km規制と二段階右折から解放されるだけでも価値はあるのではないだろうか。面倒な二段階右折と理不尽な時速30km規制さえ解除できれば72ccでなくても良い。値段・耐久性・振動の面などバランスで選んでいるだけ。性能に関しては後から付いて来た感がある。


 腰下は手付かずで行けるんやったら半日で二種登録出来る。ターゲットは学生の通学用。安く出来るなら親御さんが喜ぶ。試しに5個注文した。1個はテスト用にして、使えたら商品化しよう。


 社外品でカブ50用オーバーサイズピストンは在ることが解った。


(これで50のシリンダーを有効活用できる)


 シリンダーボーリングや腰下の事を考えていたら瞼が落ちた。


    ◆    ◆    ◆


「コラ!何でもポイポイ捨てるほかすんや無い!」

「何でやいな?もう使えんのやったらゴミやんか」


 修行中の俺と先代だ。


「大事に取っておいたら使える事もあるんや。ええか、残しておいた部品が驚く結果を産むことが有るんやで」

「おっちゃん、この棚の物もそうなんか?」


「そうや、いつかお前を助ける天使や。困った時に売ると良い……」

「部品が天使?」


「そうや。お前が困った時に天使が応援してくれる。『お前は一国一城の主や。簡単に諦めるな糞ボウズ!大石が付いてる』ってな」

「天使っておっちゃんの事かいな」


 店を買って継ぐようにと勧めてくれた大石のおっちゃん……俺の天使はアンタやで……。


 気が付けば朝。今日も一日が始まる。

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