第107話 祝日の朝

コーヒーの薫りにつられ、寝惚けたままで食卓へ。


どうしてだろう?大島さんが目を逸らす。


「磯部さん!服!服!」


大島さん?何を言ってるの? 服? ……服……服?


「…………ありゃ?」


リツコは自分が一糸まとわぬ姿である事に気が付いた。


服を着て再び食卓へ。


「朝から驚かせてごめんなさい」


自分でも真っ赤になっているのが解る。気まずい。実に気まずい。


「今まで酔いつぶれた事なんかないのに、大島さんと呑むと何故?」


「リラックスして気が緩むからじゃないですか?」


「しかも今回も裸で……ごめんなさい」


「いえ……こちらこそ……何と言えばよいのやら……」

実際は綺麗やったなと思っていたが口に出せない大島だった。


朝食後にココアを飲んでいると昨日の話になった。


酔っぱらって葛城のことを相談したリツコ。大島の出した答えは

「3人で飯を食いましょう。酒が入れば話しやすいでしょう」でした。


「私から誘うのは気まずいのでお願いできますか?」

「カブを預かってるんで、出来た時についでに話します」


「葛城さんに何か有ったんですか?事故?」

「バスからビンを投げられて避けられんかったそうです」


「葛城さんって運転は上手いのに」

「考え事をしてたんですって。『磯部さんに何て謝ろう』って」


「お手数ですがお願いします」

「了解」

その後は暫く団欒。お互い独身の一人暮らし。話し相手がいるのは楽しい。


「やっぱり下宿させてよ。一緒に居ると楽しいでしょ?」


「それはさておき、ちょっと遊んでみませんか?」


リツコが大島に連れられて来たのは店の倉庫。


ホンダのゴリラが有る。

「キーをONにしてチョークを引く。キックをすれば……」

ブルン…トントントントン……。


「不思議な事に、俺以外やとエンジンがかからへんのです。

試しに磯部さんエンジンをかけてみてください。

かかったらこの前から言ってる下宿の件、考えましょう」


リツコは大島がやったのと同じように始動を試みる。


プルン…プルン……プルンプルンプルンプルン……。


「かからない。何で?」 


リツコが何度キックしてもエンジンは目を覚まさなかった。


「ね、かからんでしょ?でも俺がやると……えいっ」


プルン…トントントントン……エンジンは軽快な音を立ててアイドリングを始めた。


「この通りかかるんや。不思議やなぁ」


結局、この日はお昼にスパゲッティを食べて帰るリツコだった。


「美味しかったなぁ……ミートソース……」


大島から渡された煮物をつまみにして晩酌。明日は仕事なので今日は缶ビール1本だけ。


「下宿出来たら、三食大島さんの料理を食べられるのになぁ」


そう思うリツコであった。

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