第68話 受け継がれるスーパーカブ

轟さんの家にカブの修理が終わった事を電話した次の日。


「お届け物で~す」

大島サイクルの店先に配達便のトラックが止められた。


「はい、ハンコ。それと署名と代金ね」大きな箱4個がトラックから降ろされる。

「今回は大荷物ですね~。バイクの部品ですか?」

流れる汗を拭きながらドライバーが大島に尋ねる。


「フレームや。ホンダ純正の新品のフレーム」

配達の兄ちゃんに缶コーヒーを手渡しながら答える。


「へ~買えるんですね。フレームって」


「ややこしい手続きが有るし割に合わんけどな」


タガネでフレームナンバーを消し、石刷りと注文書類を

メーカーに送って打刻済みの新品フレームを送ってもらう。


口で言うのは簡単だが実際は面倒くさい。フレーム自体が

カブの部品取り車くらいの値段がするし、それに部品代や

工賃を足すと直すかどうか躊躇われる金額だ。


フレームは倉庫に片付けて暇な時に形にすることにした。

商売としては成り立たないが、趣味として組み立てる。

組み立てたら中古車として店に並べるつもりだ。


そんな事を考えているうちに、学校帰りの美紀ちゃんが

カブを引取りに来てくれた。


乗って帰るつもりだったらしく、ヘルメットと自賠責保険の

書類は用意しておいてくれた。


「ニュートラルを確認して、チョークを引いて・・・」

セルを回すと簡単にエンジンがかかった。


アイドリングは安定している。


「お婆ちゃんが亡くなって、何年も放っておいたのに動くんですね」


感心しているが、2~3年放置してあるカブを直すのはよくあることだ。

今回はまだマシな部類だったと思う。


「轟さんのお婆さんはおとなしい乗り方やったからね。

 エンジンオイルも盆と正月に換えてくれてたし」


代金を貰い領収書を切る。予算の範囲内ではあるが、

出来る限り点検修理してある。安心して乗ってほしい。


「お爺さんと一緒に居る気がするって言って乗ってたんです」

祖母から孫へ。世代を超えて走り続けるスーパーカブ。


シリーズ累計1億台・・・そのうちの1台が再び走り出した。


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る