第66話 栄光の今都市民VS安曇河娘③ Battle of Route161
国道161号線の側道に高嶋高校の生徒が集まっている。
「ここから安曇川の道の駅に速く着いた方の勝ち。白藤側からの要望で大村が負けた場合、二度とちょっかいを出さない様にとの事。白藤側が負けた場合、バイクを大村へ渡す。 間違いないか?」
「聞いてないけどいいよ~。私は負けへんも~ん」
負ければバイクを取られてしまうにも拘わらず呑気に答える理恵。
「
冷ややかな目で見られているの気付かずに喚く大村。高嶋高校の生徒の殆どは市の南部地域から通っている。ギャラリーの大多数は大村が負けるの見たさで来ているのが分かっていない。ほぼ全てのギャラリーが何の変哲もない小さなバイクに乗った小さな女の子の勝利を期待していた。
「それじゃ、カウント始めっぞ!」
空気が張り詰める。
「5秒前!・4・3・2・1・スタートッ!」
ポポポポポッ……カチャコン……ポロロロロ
バフンッ!ブベベベベ・ゴロロロロロ……!
軽い排気音を出しながら加速する理恵に対し爆音を轟かせて加速する大村。音の大きさには差が有るのに加速はそれほど変わらない。
「あの女の子、速いよな?」
「大村のDAX……爆音の割に遅くないか?」
「理恵の奴、軽いもんな……さぁてと……」
亮二は呟きながら綾にメールを送る。
「理恵…無茶するなよ…」
◆
「あ~うるさい。排気ガスが臭い!」
大村の後に付いた理恵だが、追い抜くことは出来ない。何と喰らい付いているが、パワーの差は歴然だ。じりじりと引き離される。
「ここからが勝負じゃ~!」
ギヤを変え、スロットルを開けた大村に離される。
(……これ以上のペースだと信号に捕まるはず)
理恵は敢えて大村を追わず、マイペースで走る。はるか向こうで信号が変わるのが見えた。理恵はカウントを始めた。大村と違い、理恵は毎日国道161号バイパスを使って通学している。どのタイミングでどの速度で走ればノンストップで走れるかはシュミレート済みだ。非力なゴリラを一番無駄無く走らせる方法で理恵は勝負に出た。
(49・48・47・46…)
「くそっ!これからなのに!」
イライラして信号で止まる大村。信号無視するには交通量が多すぎる。
理恵のカウントダウンは続いている
(6・5・4・3・2・1……)
信号が青に変わり、黒煙を上げながら発進する大村の横を
スピードに乗ったゴリラが追い抜いた。理恵である。
(私のゴリラはな……)
信号が変わるタイミングを調べた理恵は、ストップせずに最高速をキープして走り抜ける方法を下調べしていた。大成功である。
(……大島のおっちゃんが私の為に頑張って作ってくれたんや)
焦った大村はスロットル全開で理恵を追い抜きにかかる。キャブレターは滅茶苦茶なセッティングだ。黒煙を吐いていても排気量は理恵のゴリラと比べて2倍ある。100%のパワーでは無いが理恵のゴリラと比べるとパワーは有る。乱暴な加速は信号で理恵が作ったリードをあっという間に無にする。
(ま、抜かれるよね)
理恵はあっさり抜かれてリードされた。そして見る見るうちに引き離された。国道161号線バイパスに乗ってしまえば安曇河まで信号は無い。パワー勝負・最高速勝負。何も無ければ大村の勝ちは間違いない。残念ながら理恵の作戦は大村に通じなかった。このまま何も無ければ理恵の負けは確実だ。
何も無ければ……の話だが。
信号待ちのロスなどものともせず理恵を追い抜いて離しにかかる大村。
大村は90㎞/hは出しているだろう。 理恵のゴリラは限界までスロットルを捻っても60㎞/h+αで巡航するのが精一杯だ。下り坂ならもう少し出せるかもしれないが、国道161号バイパスは平坦な道路だ。大村は勝利を確信した。
「俺様の勝ちだ~うるふぉふぉ~い!」
勝利を確信した大村は更に加速を続ける。有頂天になっているので気付かない。
「ひゃっは~!ぽっきゅんは天下一ぶぁい!」
決してDaxでは逃れる事の出来ない刺客が背後に迫っていたのを…
「計測…3・2・1……36㎞/hオーバー。追走」
パウ~ウ~ウ~
死神の叫び……死刑執行の合図……迫るサイレンと赤色灯。『白バイに乗った王子』こと葛城と相棒のCB1300Pが大村をロックオンした。
「そこのバイク、次のランプで降りて」
「いつの間に!」
(作戦その2…大成功…葛城さん素敵♡)※葛城は女性です
大村は誘導されて161号線バイパスを降りる。
(残念やったな。おっちゃんの組んだバイクはな、あんたが遊びで作った
「お仕事ご苦労さんで~す!」
白バイに誘導される大村を横目に理恵とゴリラは法定速度の60㎞/hで走り抜けた。
「こちら真旭ランプ。白藤通過」
「了解。大村は?」
「白バイの誘導で降りました。捕まっています」
安曇河からの生徒は大喜び、今都からの生徒たちはざわめいた。
「理恵通過。大村は白バイに捕まったよん♪」
綾は速人にメールを送った。
ゴールの道の駅安曇河に理恵の乗ったゴリラが滑り込む。暫く待ったが、大村が姿を現す事は無かった。
結局、理恵は普通に走っていただけで勝ってしまった。
「えげつないよ……」
「わかんな~い。知~らな~い」
ゴールで速人に抗議されたが理恵はとぼけていた。
「『湖岸のお猿』ばんざ~い!」
「「「お猿!お猿!お猿!お猿!」」」
そんな声援を受けて理恵は叫ぶのだった。
「誰がお猿じゃ~い!」
◆ ◆ ◆
レースの翌日、大村は両親と共に生徒指導に呼び出された。
36㎞スピードオーバー・整備不良。そこへ検挙時に暴れて公務執行妨害のオマケ付き。白バイ隊員とは言え女の子を殴った罪は重い。
しかも
普段なら停学で済んだかも知れなかったが時期が悪かった。高嶋高校では夏休み中に生徒が単独死亡事故を起こしていた。全校集会が行われ全生徒に注意を促していた。そして今回の違反。事態を重く見た学校は生徒への見せしめとする為に大村を退学処分とした。
もちろん大村の両親は抗議した。
「義務教育ではありませんから、文句を言うなら来なくて結構」
学校側から冷たく突っぱねられて終わった。
一方、勝利した理恵は御咎め無し。警察側よりストーカーまがいの事をされて仕方なかったのだろう。寛大な処置をする様にと、白バイ隊員からも理恵は道路交通法を違反する事無く、普通に走っていただけと学校へ配慮を求める様、連絡が有ったからだ。
全ては理恵の作戦。妙に携帯を弄っていたのは葛城と作戦を練る為だったのだ。葛城だけではなく警察のストーカー相談室にも相談したのが効果的だった。
結局、大村は怒った理恵の掌で踊らされていただけだった。
「全ては白藤の計画通り。大村は白藤の掌の上で踊っていただけか、白藤の作戦に乗せられて大村は退学……女って、怒らせると怖いよな」
「亮二も気をつけなよ。気が付いたら綾ちゃんの掌の上で踊らされてたりして」
「怖いこと言うなよ。シャレにならんわ」
そんな事を話していると、 亮二に柔らかな物体が絡みついてきた。
「怒らせる事なんかしないよね?」
「はいっ!しませんっ!」
腕を首に絡ませて耳元で綾が囁く。柔らかな感触が有るのに亮二は背筋に冷たいものを感じた。
理恵はいつも通り元気一杯。ニコニコとしている。
「さ、帰ろっ!」
「「はい…」」
速人・亮二が女性の恐ろしさを知った16歳の秋のお話である。
――――少し遡る事、対決の前の出来事――――
大村との対決が決まり、亮二に問い詰められた理恵は
自分が考えた作戦を3人に伝えました。
「バイパスに乗ってからしばらく走ると信号に捕まるんだよね。
上手く行けばそこで追い抜けるから。多分、怒って全速力で
追いかけてくると思うんだ~」
「うん。だろうね」
「こっちは制限速度ギリギリでキープ。大村は追い抜いて調子に乗るだろうからそこを葛城さんに捕まえてもらう。上手く行けば免停くらい喰らうんじゃない?整備不良とか何とかで暫く止めてもらっているうちに私は安曇河に到着。万事解決。めでたしめでたし」
「そんなに上手くいくのかな?」
「一応、ストーカーかも知れないって警察に相談してるからね。少なくとも付きまとってくる事は無いと思う。こういう場合は女の子は有利だからね。葛城さんと相談して決めたんだ♪」
(((恐ろしい
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