第55話 盆休み明け初日

「よっこいしょっと。」

カラカラと音を立ててシャッターが開く。


盆休みを終えて休養十分、体調は万全。 大島は鼻歌交じりで店を開けた。


エアーコンプレッサーにスイッチを入れると

シュタタタタタタ・・・・

軽快な音を立てて圧縮空気を作り始めた。


店先を箒で掃いていると、ご近所の奥様方に交流が始まる。


「おじさん。おはよ~。今日から仕事?」


「おはようさん。ゆっくり休めましたわ。」


休み前からの預かり仕事は無いので、今日はのんびりとスタート。

扇風機の風に当たりながら、盆休み中に棚から見つけたガラクタを

整理する。古いスクーターやカブの部品が出てくるが

哀しいかな大島サイクルの客には需要が無い。

高嶋市ではカブは耐久消費財扱いなのだ。

壊れたら乗り換え。フレームが腐ったら乗り換え。


(速人にオークションで売ってもらおうか?)

等と考えながら部品を分けてクリヤケースに整頓する。


(おや?この箱は?)

先代の字で何かかが掛かれた箱が出て来た。


◆      ◆      ◆


ブブブブ~ン・ベン・ベンベン・・


今では珍しくなった2ストロークエンジンの音が近付いてくる。


「こんにちは~。」

理恵の同級生の綾ちゃんだ。


「いらっしゃい。今日はどうしたんや?どこか痛んだんか?」

綾ちゃんのDioは、売る前に駆動系・ブレーキは一通り診てあるし

タイヤは交換したばかり。壊れる所は無いはずだが・・・。


「おじさん。このバイクって30㎞/h以上で走れる様に出来ますか?」


(昔は出来たんやけど・・・)

「出来ん事は無いけどな・・・お金も手間もかかるし

買い替える方が良いと思うけんどな。どうしたんや?」


「みんなと一緒のスピードで走りたいなと思って。」

綾ちゃんは、心なしか赤くなっているように見える。


「古いバイクやから下手な改造すると壊れるかもしれんしな。

スピードを出すと危ないし、やっぱり買い替えるのが良いと思うけどな。」


綾ちゃんのDioなら50㎞/hくらいは平気で出せるのだが

違反を勧めることは出来ない。


「理恵や速人みたいにボアアップて出来ないんですか?」


(皆に気を使ってか・・・)


「調べてみんと何とも言えんで。少し時間をくれるか?」

とは言ったものの、どうした物か・・・。


◆      ◆      ◆


営業終了後、大島はパソコンの前に座り『Dio ボアアップ 』で検索した。

昔多くあった2ストロークエンジンは構造は簡単だが

改造となれば難しい。下手なマフラーを付ければパワーダウン。

ボアアップしてもノーマルのオイルポンプのままだと焼き付く。

ボアアップした場合は給油のたびに燃料にオイルを混ぜる・・・等々

ネガな情報ばかりが出てくる。


(耐久性と普段使いを考えるとな・・・)

機械に詳しい原付小僧が乗るのではない。女の子が乗るのだ。


(要は50㏄を超えれば原付2種でいける訳だ・・・)


残念ながら50㏄のDioは純正でオーバーサイズピストンが無い。

原付規格目一杯で造られているエンジンにオーバーサイズピストンは

組んだ途端、排気量がオーバーになるからだ。

シリンダーボーリングで排気量アップが容易なカブとは違う。


「エンジン形式AF18か・・・AF18?」

午前中に片付けた部品で見かけた様な気がする。


(明日確認するか・・・)

大島はパソコンの電源を落とした。



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