第18話 葛城とスーパーカブ④
定休日の木曜日。大島は役所で手続をしていた。事故車のカブ五〇は廃車。カブ七〇を登録してすぐに一時抹消手続きをする。取付けどころかビニール袋から出してもいないナンバーを返す。排気量を八九㏄に、原動機型式をHA〇二に変更して再登録。再びナンバーを貰う。
(登録と排気量・原動機形式変更が同時に出来たらな……)
無駄が多い様に思うが改善はされない。ナンバーが一枚無駄になろうが職員は自分の懐は痛む訳ではないから気にしない。無駄になった所で税金だ。これぞお役所体質である。積み替えたかの現車確認も無い。
(不正しても解らんだろうな。車体の確認くらいした方が良いと思うけどな)
そんな事を思いながら市役所支所を後にした。
シャッターを閉めた店で作業をする。エンジン載せ替えはすぐに終わった。吸排気系は全てカブ九〇の中古品を使用。点火系もカブ九〇用を使う。ネズミに齧られていたワイヤハーネスは中古に交換。葛城さんのバイクから外したハーネスだ。部品代が節約できた。チェーンとスプロケットは新品に交換。チェーンカバーに隠れて見えないのが残念だ。チェーンカバーの掃除が大変だった。藁屑と泥がオイルに混じった汚泥はレンジの油落としで掃除した。最近の台所洗剤は侮れない。
タンクにガソリンを入れ燃料コックをONにする。
(これで漏れが無ければ走行テストだな)
燃料漏れが無いのを確認して試運転をする。湖周道路を北上して国道一六一号線経由で帰るコース。安曇河の市街地でウォーミングアップと細かなチェックをして湖周道路を流す。浜風が心地よい。
真旭国道161号線へ移り安曇河へ向かう。緩やかに続く登り坂で負荷を掛けて走りをチェック。一・二・三速とギヤチェンジをして時速六〇㎞から四速にシフトしてしばらく巡航をする。時速六〇㎞からスロットルをワイドオープンして時速七〇㎞まで加速をする。OK、異常はない。もう少しスピードは出せるがスピード違反になるのでここまでにしておく。
(これやったら葛城さんの要望通りやな。問題なし)
その時サイレンが鳴った。
「そこのスーパーカブ。次の出口で降りなさい。」
(これ位で捕まえるか?仕方ない。降りるか……)
暴走族は捕まえられない滋賀県警高嶋警察署は停めやすい我々みたいな小型バイクばかりを取り締まろうとする。逆らえば公務執行妨害で御用だ。警察は怖い。
「今、何キロ出してた?」
白バイが尋ねてきた。
「さぁ。だいたい時速七〇㎞くらいかな?」
「まぁ、そんなもんや。ちょっと速いね。どこ行くの?」
「中古車の試験走行。あとは店に帰るだけ」
「どこの店?」
「安曇河の大島サイクルです」
「良い加速してる。気を付けて帰りや」
「はい、おおきに」
無罪放免だ。初めから捕まえてどうとかではなかったのだろう。白バイ隊員にはバイク好きが多い。興味があったから停めて確認したかったのだろう。職権乱用だ。
(一晩冷まして油が漏れんかったら引き渡しやな)
大島は再びカブを走らせた。
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