第15話 葛城とスーパーカブ①

葛城晶かつらぎあきらは悩んでいた。愛車のスーパーカブ50の事である。


学生時代に購入して使い続けているスーパーカブ。維持費が安くて置き場に困らないのが良い。クラッチ操作が不要なのにギヤ付なのも良い。キビキビとした走りとイージードライブの両立だ。


しかも可愛い。晶にとって可愛いのは最大の重要事項だ。


だが、引っ越してきた高嶋市は50ccのカブでは辛い。面積だけは広く、上り下りが多いだけでなく幹線道路の流れが速すぎる。法定速度を守って走る晶にとっては恐怖であった。


我慢して乗っていたある日、エンジンが息継ぎをするようになった。機械に弱い晶は途方に暮れた。この田舎町にバイクショップなんて無いのだ。ダメ元で近所の自転車店を覗いてみたらバイクも直しているようだ。


「……と言った感じですね」


葛城さんは今までのいきさつを語った。


「そうですか。確かにアップダウンは多いし、国道でも70~80km/hくらい平気で出しますからね。そもそも161号線は信号もないから暴走放題ですね」


タペット調整しながら対応する。タペットキャップのOリングも交換しておく。ヘッド内のオイル焼けが少ない。オイル管理は良いのだろう。タペット調整とオイル交換を終えエンジンを始動する。最初に来店した時より静かになった。


「今は50のままで原付2種登録が出来ませんからね。以前まえは黄色ナンバー

にして乗れましたけど、今は停められてシリンダー刻印を確認されて刻印が49ccやったらアウトです。おまけに書類の偽装で御縄ですよ」


「大島さんでもやってたんですか?」


「いや。高嶋高校は125㏄まで通学に使えるし、普通に排気量アップしますね。山道を通う生徒は50ccやと辛いしんどい言うてます」


「高嶋市で乗るならボアアップですかね?改造車はまずいかなぁ……」


改造と言ってもきちんと申請した物だから堂々と乗れば良いと思う。だが、世の目は厳しい。そんなもんである。


「いっその事、別のバイクに乗り換えるってのも手段ですけどね」


新車が売れたら御の字だ。商売の話を逃す手は無い。


「クラッチが面倒なんですよね。結局はカブですかね?」


葛城さんはカタログを見ているがこれと言った物は無いらしい。


「カワサキのKSR110も遠心ですけど新車は無いし、中古も少ないですね」


おとこカワサキ』だっけ?葛城さんのイメージじゃないな。


「どうしようかな……少し考えてみます」


数冊のカタログを持って葛城さんは帰った。


葛城は甘党である。カブに乗って甘い物を求め出掛ける。今日は道の駅安曇河へカブを走らせる。


(安曇河町内なら今のままで充分なのに)


ソフトクリームを食べながら思うのであった。



  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る