第14話 大島お勧めのエンジン

 日が暮れてシャッターを閉めようとしたところに速人が来た。


「理恵ちゃんから良いエンジンが在ると聞いてきました」


 立ち話も何なので、とりあえず速人を店の中に入れてシャッターを閉めた。来客が無い方がゆっくり相談できる。


「エンジンを買うためにバイトしてると聞いてな。70の出物が在ったから理恵に言うといたんや」


 程よいパワーのカブ70エンジン。正直言ってあまり人気が無い。ヘッドやシリンダー、そしてピストンはボアアップの流用部品としてバルブの大きいヘッドはモンキーに使われる。だがエンジン自体、特に腰下はそれほどの人気では無い。これはモンキーとミッションの軸受けが違うからだ。


 税金が安くなる訳でなく、燃費は90より良いと言っても微々たるもの。維持費が殆ど変わらないならパワーのあるカブ90を買う。


「若干違うけどカブを買ってボアアップした物よりバランスは良い。吸排気のバルブが大きい他に各部が強化されてる」


「……」


 エンジンを見た速人。がっかりしているのが一目でわかる。


 ガッカリするのも無理は無い。オイルまみれなのだ。各部のオイルシールから漏れた油に泥が混じって汚泥と化している。


「ボロいですね……」


 そう見えても仕方ない。積んであった社外製エンジンより汚い。オイル汚泥まみれのポンコツエンジンに見える。


「一見汚い。でも走行距離は少ない。田の見回りに使っていただけで、オイルシールが経年劣化してオイル漏れしていたエンジンや」


 漏れたオイルでコーティングされているのだろう。オイル漏れしているエンジンは錆が少ない。キチンとオイル交換や補充さえされていたなら絶好のオーバーホールベースだ。


 さらに説明を続ける。


「汚れを洗い油で落としてからオイルシールを交換する。クランクケースカバーを開けてクラッチを掃除すればOKやと思う」


「いくらなんですか?」


「自分で直すなら5000円でどうかな?」

「買います!」


 速人は即決で買ってくれた。 整備して売り出すなら1万円は欲しいエンジンだ。オークションでは未整備で倍近い値段になるだろう。


「日曜は定休日や、見てたるから自分で直し。工具は貸すで」

「良いんですか?」


「良いも何も安う上げるんやったら自分でやらんとなぁ」


 エンジンのオーバーホールは日曜日にすることになった。定休日なら作業を教えるのに専念できる。 初めてエンジンを触る初心者を相手するのだ。付きっきりで見ている方が良いだろう。


「じゃ、今度の日曜日に」


 速人を見送って一日が終わった。

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