第11話 △マークとウインカーブザー①

「なぁオッチャン。さんかくって要るん?」


ウインカーブザーの取り付けにやってきた理恵が尋ねた。

今日の理恵は一人で来た。速人はバイトだ。


(さんかく?…原付2種のマークの事か?)


「義務ではないから表示無しでも大丈夫。何かあったんか?」

※自治体によって違いがあるそうです


「白バイに止められた」


理恵のゴリラは排気量アップしてある。国道で怖い思いをする事は無いが、

スピード違反で捕まるほど速い訳じゃない。


「何で?一時停止無視でもしたんか?」


「31km/hオーバーで検挙される所やった。2台の白バイに追いかけられた」


理恵の話から察するに新人研修だろう。先輩とコンビで研修中にかっ飛んでいく原付を見つけたと思って追いかけたのだろう。 制服姿の小柄な女の子が乗る原付…練習にはもってこいだろう。警察が考えそうなことだ。国道161号バイパスを走る暴走族は捕まえようともしない癖に。ウチの客を練習台にしやがって。


「練習で捕まえやすいと思ったんやろうな。逃げてもすぐ追いつくし

暴れても二人いれば取り押さえられるもんな」


ウインカーブザーを取り付けながら答えた。

正確にはオーディプルパイロットと呼ぶらしい。カチカチ鳴るやつだ。


「原付と間違って停めたら2種だった。ナンバーを見て慌てたんやろう」


署に苦情でも入れたら笑われ者になるな。で、指導担当の先輩は叱られる…と。


ステーを加工してネジで固定。速度警告ユニットのビス穴が空いているのでそこに付ける。ライトを取り付けて作動確認。ウインカーの点滅回数正常。ブザーの作動正常。


カッチ・カッチ・カッチ…


スーパーカブと同じ音が工場に響いた。


「ほい、出来た。2000円や」


ブザーは中古の在庫品だが、分岐ハーネスとステーは作った。妥当な値段だろう。


「何か片方が『紛らわしい!』って怒りだして怖かった」

「じゃあ次は△が付く様にするか。今のままやと付けるところが無いな…」


理恵の様子がおかしい。


「もう一人が…」


整備不良で違反とでも言われたのだろうか。しかし、理恵は予想外の事を言い出した。


「イケメンやった…また会いたいな」


猿の様に顔が赤い。風邪ではなさそうだ。


(惚れたか…色気づきやがって…)


小猿の様にチョカチョカ落ち着かない娘だが成長しているようだ。


「違反して会うと免許が汚れるしな、会わん方が良いやろうな」

「うん…おっちゃん、はいお金。帰る…」


代金を支払い理恵は家へ帰った。


理恵は大島サイクルのお得意さん。補助輪を付けていた頃から知っている。


「あの理恵がねぇ…」


コンプレッサーの電源を落とし、エアーと水を抜く。


時の流れに取り残されたような気持ちになりつつ店を閉めた。



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